2024年04月27日( 土 )

世界のいろいろな文明が発掘され、いろいろな価値が世界を覆う時代に!

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 12月20日(木)の午後6時30分~9時まで、由緒ある東京・六本木「東京倶楽部」(※)において、27周年記念・第162回「日本ビジネスインテリジェンス協会」の例会・懇親会が開催され、65名を超える有識者が参集した。

 今回の統一テーマは21世紀のグローバル貿易・投資・物流戦略として、世界的に脚光を浴びる、中国主導のシルクロード広域経済圏構想「一帯一路」である。

米中の経済相互依存は米ソと比較にならないほど大きい

 中川十郎・日本ビジネスインテリジェンス協会理事長(名古屋市立大学22世紀研究所特任教授)の開会挨拶の後、3人の短い講演が行われた。

(1)「東アジア共同体と一帯一路」(谷口誠・元国連大使・岩手県立大学学長)

谷口 誠 氏

 ~谷口氏は、今アメリカは「アメリカファースト」、イギリスは「ブレグジット」など世界は分裂の方向に向かっていると解説、そのなかで日本はどのような方向に舵を切っていくかが重要である、と述べた。谷口氏はOECD時代7年間の経験を踏まえて、21世紀は日本と中国、韓国、インドなど、アジアがお互いに協力を深めていくことが必要であると、続けた。

 そして、日本は中国を封じ込めるという戦略より、中国が大国化して横暴にならないように、アドバイスや知恵を与える役割を担う外交を展開すべきである、と結んだ。

(2)「米中貿易戦争と中国経済の将来」(矢吹晋・横浜市立大学名誉教授)

矢吹 晋 氏

 ~矢吹氏は、中国人民大学で行われた「中国改革開放40周年記念シンポジウム」から帰国されたばかり。まずは、「トゥキディデスの罠」(※)は俗耳に入りやすいが、根拠のたしかな分析とはいえないと、話を始めた。そして、米中貿易戦争については、中国の持つ米国債(約1兆1,500億ドル 約130兆円)の大きさなどを示しながら、米中関係はその経済相互依存について、米ソ関係とは比較にならないほど大きい、と説いた。

 一方で、米中5G(次世代通信規格)戦争については、ファーウェイやZTEなど中国企業が多くの特許と技術運用経験を有しているため、落としどころは少し難しいと述べた。一部で陰謀説も囁かれているファーウェイの孟晩舟・副会長兼最高財務責任者(CFO)がカナダで逮捕されたと同じ日に自殺した米スタンフォード大学の「将来のノーベル賞候補」と言われた中国人物理学者、張首晟(ジャン・ショウチャン)教授についても触れている。

(3)「インド太平洋戦略から見た一帯一路」(中川十郎・同協会理事長) 

中川 十郎 理事長

~「一帯一路」構想は、2013年に習近平中国国家主席が中央アジアのカザフスタンで「陸のシルクロード」、インドネシアで「21世紀海のシルクロード」構想を打ち出して以来、この5年間で急速に動き出している。沿線国60数カ国、それにアフリカ、南米も強化されつつある。沿線国の人口は世界の40%、ユーラシア、アフリカを加えた陸地面積は世界陸地の50%に迫り、世界のGDPの30%、貿易の30%を占める巨大経済圏が形成されつつある。

 中川氏は、「世界発展の軸がかつてのイギリスやアメリカから、アジアとくに中国とインドに移る革命的な時代に今私たちは生きている」と説き、G7のなかでアメリカと並んで一帯一路への協力も、AIIBにも参加しないアジアの国「日本」の将来を深く案じた。

中国だけでなくインドも中近東も重要な価値を提供する

高橋 一生 氏

 3人の講演後、高橋一生元国連大学教授・国際基督教大学教授が短いコメントを述べた。
 ~高橋氏は、ビジネスインテリジェンスの観点から「これから20年、30年は荒れた時代が続く、その荒れた世界経済においてどうやって儲けていくのか考えることになる」と総括。
人類が初めてglobal civilization(グローバルシビリゼイション)・経済システムの転換する時を迎えることを示唆した。

 高橋氏はさらに、この200年間は、英国を中心とする「パックス・ブリタニカ」、米国を中心とする「パックス・アメリカーナ」が世界を覆った。そこでの価値観は「民主主義・自由・人権」であり、それを支える経済システムは「市場経済」でした、と続けた。

 今、その最初のglobal civilization(グローバルシビリゼイション)・経済システムに中国がチャレンジしている。今後「パックス・アメリカーナ」が続いていくことはないので、中国も重要な国家・社会・経済になっていく。しかし一方で、高橋氏は「その中国も覇権国家にはなり得ない」という見解を述べ、続いて「アメリカ、中国という2つの価値観だけでなく、インドも、中近東の国々も非常に重要な価値を提供していくことになる」と結んだ。世界に今まであったいろいろな文明が発掘され、いろいろな価値が世界を覆う時代がやってくるというわけである。

 高橋氏の総合コメントの後に香港大学の講演から当日帰国したドクター中松義郎・日本ビジネスインテリジェンス協会 名誉顧問の講評を経て懇親会に入った。当日振舞われた赤ワインは世界に2本(「英国王室」と「東京倶楽部」)しかないものであった。

【金木 亮憲】

トゥキディデスの罠:古代アテナイの歴史家・トゥキディデスにちなむ言葉で戦争が不可避な状態まで従来の覇権国家と新興の国家がぶつかり合う現象。

六本木・東京倶楽部:1884年開設。交詢社、日本倶楽部と並び、日本の社交クラブの草分け。会員は旧華族や皇族のほか、政・財・官の大物など多岐にわたる。

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