2024年04月29日( 月 )

経済が発展して、民主主義国が増えると、世界平和に?(前)

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東京大学大学院総合文化研究科教授 川島 真 氏

 12月12日(水)、午後6時30分から8時30分まで、東京・一ツ橋「如水会館」において、第8回一橋総研・三田経済研ジョイントセミナーが開催され、年の瀬にもかかわらず、有識者約35人が参集した。講師は川島真東京大学大学院総合文化研究科教授、演題は「『中華』の行方と日本の立ち位置」であった。今、最も旬なテーマであったせいか、講演後のQ&Aでは、すぐに約13の質問が飛び出し、参加者の関心の高さを裏付けた。

18世紀半ばのようなアジアの優位がまた戻ってきた

東京大学大学院総合文化研究科教授
川島 真 氏

 川島真教授は参加者にアンガス・マディソン(イギリスの経済学者・オランダのフローニンゲン大学名誉教授)の「2,000 YEARS OF ECONOMIC HISTORY IN ONE LINE」のチャートを見せることから話を始めた。古代、中世、近代、現代に至る流れのなかで各国・地域の世界に占めるGDPの割合を計算したマクロ経済統計である。

 それによると、「18世紀の中国清朝時代のアジアはとても豊かでした。しかし、1800年代あたりから中国とインドのGDPの世界に占める割合が減少しています。それに対して、この頃著しい伸びを見せたのがイギリスとアメリカなどの西側諸国です。ところが、2000年代に入る前ぐらいから、アジア諸国が豊かになり始め、今後18世紀半ばのようなアジアの優位がまた戻って来るのではないかと思わせるほどです。地球の人口の半分近くを占める中国とインドを抱えるアジアは今後さらに成長して富が増えていく可能性があります」と解説した。200年前のアジアのGDPは世界全体の59.4%であったと言われ、世界銀行やIMFも2030年にアジアのGDPは米国を抜き、世界の50%を超えることをすでに明らかにしている。

これまでの技術革新はすべて先進国が主導してきた

 続けて川島教授は「19世紀の前ぐらいまでは、およそ人口の分布によってGDPの大きさが決まっていました。ところがそれを覆したのが産業革命(18世半ばから19世紀にかけてイギリスを皮切りに西欧諸国に順次に伝播)です。技術革新によって、人口の多寡に関わりなく、富が欧米諸国に集まったのです。日本も産業革命を成功させ工業化社会を築き上げていきました」と述べた。またさらに「イギリスの蒸気機関から現在のスマートフォンや宇宙開発を含めてこれまでのものはすべて先進国が主導、富も先進諸国が維持してきました。しかし、今後、もし技術革新を人口の多い国が主導したとしたら、その国の人口以上に富を集めることができます。そして、そういう時代がやって来ることも想定に入るようになりました」という衝撃的な事実を付け加えた。

 事実2020年のサービスインに向け整備が着々と進んでいる、第5世代通信・5G(「IoTの普及に必須となるインフラ技術」)の通信特許の多くは中国ファーウェイ(華為技術)がもっているといわれる。

 このような歴史の流れのなかで「中国を何とかしなくてはいけない」というアメリカの焦りも見られる。そのうえで、現在のアメリカの目線、中国の目線はどのようなものか、それに対して日本はどのように行動すべきなのかを考えていかなければならない。

今年からアメリカの対中姿勢は急に大きく変わった

 川島教授は「昨年、一昨年あたりぐらいまでは、中国に対する姿勢は東京のほうがワシントンより強硬でした。しかし今年5月・6月位からアメリカの対中姿勢は急に大きく変わりました。これはトランプ大統領の中間選挙対策などという一過性のものではありません。共和党だけでなく民主党も、シンクタンクでは、ハドソンもCSISもランドも、大学の先生では、ハーバードもスタンフォードの先生も中国に強硬になっています」と語る。

 また、川島教授は「詳細は、10月4日にハドソン研究所で行われたマイク・ペンス副大統領の約40分の演説を参考にしてほしい。米中関係を両国の歴史関係から見直し、直近の政治行動を厳しく批判(貿易、テクノロジー、知的財産、人権、軍事など)、米国が総力を挙げて中国に対抗していく旨の内容になっている。中国を脅威もあるが、中国の不公正さ(unfairness)という観点を強調している」と述べた。

中国に対するエンゲージ(関与)政策をあきらめるつもり

 しかし、続けて川島教授は「このペンス副大統領の演説には分からない点も多い。約1カ月後にペンス副大統領の補佐官が来日した時の会合(ペンス演説の解説)では、「これは冷戦を意味するのですか?」という質問に補佐官はきっぱり「N0」と答えています。米中関係は米ソ関係よりはるかに緊密であり、米中間の経済的相互依存も大きいことが理由です。しかし、では「何を意味するのですか?」という問いには、はっきりした回答はありませんでした。おそらく、ホワイトハウスは、中国に対するエンゲージ(関与)政策をあきらめるつもりではないかと私は思っています」と述べた。

(つづく)
【金木 亮憲】

<プロフィール>
川島 真(かわしま・しん)

 1968年神奈川県横浜市生まれ。1997年東京大学大学院人文社会系研究科博士課程、単位取得退学、博士(文学)。現在、東京大学大学院総合文化研究科国際社会科学専攻教授(国際関係史)、専攻は中国近現代史、アジア政治外交史。中曽根世界平和研究所上席研究員などを兼任。
 著書として『中国近代外交の形成』(名古屋大学出版会、サントリー学芸賞)、『近代国家への模索 1894‐1925』(岩波新書)、『中国のフロンティア』(岩波新書)、『21世紀の「中華」』(中央公論新社)ほか多数。編著として、『東アジア国際政治史』(共編、名古屋大学出版会)、『チャイナ・リスク』(岩波書店)ほか多数。

(後)

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