2024年04月29日( 月 )

経済が発展して、民主主義国が増えると、世界平和に?(後)

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東京大学大学院総合文化研究科教授 川島 真 氏

今、世界で経済発展しても民主化をしない国が増えている

 アメリカの中国に対する目線は「総力を挙げて中国に対抗していく」という強硬なものに変わったことはわかった。一方の中国側の目線はどのようなものだろうか。

 川島教授は「中国は今非常に面白い。世界史における、ある種の常識を覆す試みをやっています。基本的に今までの先進国の発想では『経済が発展をすれば民主化をする』そして『民主主義の国が増えれば世界は平和になり、安定する』というのが常識とされてきました。従って、日本がODAを実施する際には必ず当事国に、同時に民主化を促してきました」と語り、「しかし、今世界では経済が発展しても民主化をしない国が増えています。それどころか、民主主義の国や地域は減りつつあります」という事実を明らかにした。

 その先頭を走っているのが中国である。世界第2位の経済大国になっても民主化はしない。これは、善悪の問題でなく、経済発展して民主化していくG7やOECD型の方向性とまったく違う新しいモデルである。ロシアはこの方向性にあり、タイは今、この方向に急カーブを切った。また、「一帯一路」に関係する国々では、この方向性に舵を切る国が増えている。

日本は隣国で、経済と政治と軍事がすべて均等に見える

 中国共産党第19回全国代表大会(2017年11月18日-24日)において、習近平主席は新しい国家目標「中国的特色のある社会主義現代化強国」実現を2049年(建国100周年)とした。つまりこれは、中国なりのリアリズムで経済・政治・軍事のすべてにおいて、アメリカに追いつくのは約30年後ということである。GDPに関していえば、2030年にはアメリカを追い抜く(英銀HSBC予測 2018.9.25)といわれるなかで、かかり過ぎではないのか?

 これに対して、川島教授は「日本は隣国なので、経済と政治と軍事がすべて均等に見えてしまいます。たとえば、地中海の端のモロッコやポルトガルまで行って、中国を見るとまったく違う風景が見えます。経済がとくに大きく見えるのです。中国の現在の強みは経済で、日本の2.5倍、間もなく3倍になります。しかし、軍事はロシアにつぐ第3位で、政治はその中間に位置しています。中国の経済は遠くアフリカにまでおよんでいますが、西アフリカであれば、軍事力の影響はほとんどありません」と解説した。

国が経済関係を基にして協力・Win-Winの関係に

 2017年秋に習近平主席は、新しい世界秩序「新型国際関係」を提唱した。新型国際関係とは、国が経済関係を基にして、協力・Win-Winの関係でパートナーシップをつくることによって、世界・人類が運命共同体になるという中国の世界平和・発展の維持に貢献する理念と手段のことである。そこには民主主義という言葉は一言も出てこない。「一帯一路」政策はその壮大な実験場と言われている。

 川島教授は最新情報として、2018年6月に行われた「中央外事工作会議」での方針を披露した。そして「習近平政権はとても外交を重視した政権です。ここでは、世界のルールづくり(グローバル・ガバナンス)に関与し、それを牽引することを表明しています。また、世界における大局(時代の転換)を重視し、「大同小異」(小さなことにはこだわらない)の方針を打ち出しました。これが対日改善の根拠になっています。中国にとって大きいのは中米関係で、中日関係は小さな問題と捉えられています」と解説した。

日本と中国は永遠の隣国なので引っ越しはできない

 アメリカについで、中国の目線の置き方もわかった。では、日本の立ち位置はどうすべきなのだろうか?川島教授はこのことを考える際の4つのポイント(下記)を挙げた。

(1)日本と中国は永遠の隣国である、引っ越しすることはできない。
 →隣国との関係では、安定が何よりも重要である。

(2)経済貿易面では、中国は最も重要な国の1つになっている。
 →中国経済が安定成長することは、日本にとっても重要である。

(3)軍事安全保障面では、隣国であるがゆえに、常に緊張させられることになる。

(4)今回の「アメリカの対中姿勢の変更」にどう対応すべきか。
 →(3)と(4)は共通で、ワシントンと北京が本気で衝突した場合(軍事衝突でなくても)、日本はどうするのか。

 川島教授は講演において終始、「中国の対外政策を考える場合は、『中国が』ではなく、『相手国が』どう考えているのか、に着目することができないと、正しい解は得られない」ことを強調している。そして「米中が激突すると、中国が日本に接近するというのが従来の方程式のようなものでした。しかし現在、従来と少し違う点は、中国がGDP世界第2位で、2030年ごろにはアメリカを抜いて第1位になる超大国ということです。日本がいずれに舵を切るにせよ、十分な熟慮が必要とされます」と結んだ。

(了)
【金木 亮憲】

<プロフィール>
川島 真(かわしま・しん)

 1968年神奈川県横浜市生まれ。1997年東京大学大学院人文社会系研究科博士課程、単位取得退学、博士(文学)。現在、東京大学大学院総合文化研究科国際社会科学専攻教授(国際関係史)、専攻は中国近現代史、アジア政治外交史。中曽根世界平和研究所上席研究員などを兼任。
 著書として『中国近代外交の形成』(名古屋大学出版会、サントリー学芸賞)、『近代国家への模索 1894‐1925』(岩波新書)、『中国のフロンティア』(岩波新書)、『21世紀の「中華」』(中央公論新社)ほか多数。編著として、『東アジア国際政治史』(共編、名古屋大学出版会)、『チャイナ・リスク』(岩波書店)ほか多数。

 
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