2024年03月29日( 金 )

【BIS論壇N0.283】TPP11とEU・EPAの現状

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 NetIB-Newsでは、本年より日本ビジネスインテリジェンス協会会長・中川十郎氏の「BIS論壇」を掲載する。今回は、2019年1月1日付の記事を紹介する。

中川 十郎 氏

 内外多事多難。世界激変の2019年が始まった。米国トランプ大統領はインド太平洋への関与を深めるため、日本など同盟国との関係を強化するほか、各国の防衛力整備などを支援していくことにしたという。トランプ大統領は中国の影響力の拡大に長期的に対抗していくために12月31日に中国に対抗するための新法に署名した。米国は今後5年間、毎年最大15億ドル(日本円で1,650億円)を投じて各国の防衛力の整備などを支援していくとしている。この新たな法律で、トランプ大統領は知的財産権の侵害防止や中国での民主主義や人権の尊重を促進し、印度太平洋地域で影響力を拡大する中国に長期的に対抗していく姿勢を鮮明にしたものと見られている(NHK報道)。よって米中貿易戦争は米中の覇権戦争の様相を呈し、解決には時間がかかると思われる。

 一方、中小企業や農業、食の安全などにも影響を与えるTPP11を安倍政権は6カ国で12月30日に発効させた。日本経済新聞などは「2月1日に発効するEUとの経済連携協定(EPA)も含めると、貿易戦争を繰り広げる米中を横目に世界のGDPの4割強の巨大経済圏が動き出し、TPP11と日欧EPAによる日本のGDPはそれぞれ、約7.8兆円、約5.2兆円、合計13兆円、2.6%増加し、日本の新たな成長エンジンだ」(茂木経済財政・再生相、日経2018年12月30日)と楽観論を振りかざしている。

 TPP成立を支援してきた経団連は中西会長が「TPP11が発効したことは日本政府のリーダーシップと参加国の粘り強い努力の成果だ」と称賛している。(日経12月30日)、

 これも楽観論で、TPP11の日本への悪影響に目を向けない大手企業の一方的な利益を代弁しているのではないか。

 最近ベストセラーとして話題になっている堤未果氏の『日本が売られる』ではTPPでの日本の「水」「医療」「農業」「教育」などへの驚くべき悪影響を詳細に指摘している。郵貯でのアフラックがん保険などの取り扱いなど、TPPの悪影響は枚挙にいとまがないほどだ。この機会に『TPPが日本を壊す』廣宮孝信著(扶桑社新書)、『TPPは国を滅ぼす』小倉正行(宝島社新書)、『TPP黒い条約』中野剛志編(集英社新書)、『TPP亡国論』中野剛志(集英社新書)、『間違いだらけのTPP』~日本は食い物にされる、東谷 暁(朝日新書)、『TPP本当のネライ』板垣英憲(共栄書房)、『よくわかるTPP48のまちがい』鈴木宣弘・木下順子(農文協)、『TPP反対の大義』(農文協)、『TPPと日本の論点』(農文協)など熟読し、楽観論だけでなくTPPの日本に与える悪影響も慎重に熟考されることを希望したい。

 米国は中国が米国の機密情報や知財、技術情報を盗んでいるとしてファーウエイやZTEを糾弾しているが、かつて1980年代には日本が米国の競争相手だとして、1994年の経済スパイ法で日本のバイオ化学研究者を逮捕したり、東芝機械が工作機械をポーランド経由、ロシアに輸出し、COCOM違反だとあらぬ嫌疑をかけて日本たたきを行った。

 一方、自らは米国、英国、豪州、NZ、カナダ5カ国のスパイ組織「エシュロン」で他国の情報を盗聴、盗んでいることは棚にあげている。米国はこれらの矛盾をいかに説明するのか。

<プロフィール>
中川 十郎(なかがわ・ じゅうろう)

鹿児島ラサール高等学校卒。東京外国語大学イタリア学科・国際関係専修課程卒業後、ニチメン(現双日)入社。海外駐在20年。業務本部米州部長補佐、米国ニチメン・ニューヨーク開発担当副社長、愛知学院大学商学部教授、東京経済大学経営学部教授、同大学院教授、国際貿易、ビジネスコミュニケーション論、グローバルマーケティング研究。2006年4月より日本大学国際関係学部講師(国際マーケティング論、国際経営論入門、経営学原論)、2007年4月より日本大学大学院グローバルビジネス研究科講師(競争と情報、テクノロジーインテリジェンス)

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