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2019年01月31日 07:01

今、世界中で揺らぐ、「国家」という概念!(後)

元国際基督教大学 教授 高橋一生氏

「多様性」という概念が実体化することは間違いありません

 ――初代グローバル文明(「パックス・ブリタニカ」と「パックス・アメリカーナ」)の次にはどんな世界が来るのでしょうか。

 高橋 予測はとても難しいのですが、1つだけ明確にいえることは、今は、お題目として言われている「多様性」という概念が実体化してくることです。これからの世界は初代グローバル文明を支えた「欧(英)・米の価値観」だけでは、成り立たないことは明白です。世界にはいろいろな文明があり、さまざまな価値が存在します。それらをすべて吸収して、シャッフルする、今までにない新しい発想(多国間協力、地球市民社会)が必要になってきます。

 私は昨年そのことを実感しました。10月に私はエジプトのアズハル大学(イスラム教スンニー派の最高教育機関で現存する最古の大学の1つ)で開催された国際会議に招待されました。パネル部分の講演と思い、出かけたのですが、基調講演を仰せつかってしまったのです。イスラム教最高幹部300人を含む、世界のイスラム教の長老約700人が聴衆です。私は覚悟を決めて、世界にはこれから、『「多様性」という概念が実体化してくる』という内容の講演を行いました。当初はイスラム教(一神教)の長老に「多様性」という概念はご理解いただけるかどうか不安でした。しかし、講演後に、一番前中央に座っておられた、最高首脳(カソリックの教皇に相当)ほか、多くの長老たちから、大変な賛辞を受け、改めて「多様性」が実体化する次のグローバル文明の到来を予感しました。

「文明」そのものが、「地球公共財」になるのではないか

 ――次のグローバル文明を思索していくうえで、先生は「地球公共財」という概念を提唱しています。それはどういうものですか。

 高橋 公共財とは、経済学上で、政府や公共部門が提供する財・サービスのことを言い、民間企業が供給する私的財と明確に区別されています。通常の公共財は国内における概念ですが、それを多国間、地球規模に展開した場合に地球公共財と呼びます。これには2つの議論があり、1つは「資源論」、もう1つは「制度論」です。資源論は、ローマクラブの「成長の限界」(MITのデニス・メドウズを主査とする国際チームが取りまとめた研究)以降、重要な視点になってきました。制度論は、国際法、世界銀行などの国際機関、国際NGOなどが該当します。

 さらに私は、もし、今が次のグローバル文明への転換期だとするならば、「文明」そのものが「地球公共財」になるのではないかと考えています。

「アレキサンドリア図書館」を「地球公共財」としたい

 ――先生は現在、エジプトの「アレキサンドリア図書館」の顧問(初代理事)をしています。地球公共財との関係はありますか。

 高橋 「アレキサンドリア図書館」(ヘレニズム時代の中心地、アレキサンドリアに紀元前3世紀から紀元後4世紀頃まで存在)復興プロジェクトは1960年代にユネスコで始まり、その後1990年代のムバラク大領の時にエジプトの国家プロジェクトになりました。初代館長はエジプト出身の元世界銀行副総裁のイスマイル・セラゲルディン氏です。私は
セラゲルディン氏から初代理事(現・顧問)を委嘱されました。セラゲルディン氏はこのプロジェクトをエジプトだけのものではなく「地球公共財」にしたいと考え、私を指名しました。

本がある施設でなく、アカデミアと一体となり知性が集う

 ――すごく興味があるのはアレキサンドリアの“知”とは何かという点です。わかりやすく説明してもらえますか。

 高橋 古代の「アレキサンドリア図書館」には、文学、哲学から科学、数学、天文学まで、ありとあらゆる分野の書物が約70万巻ありました。すごいことです。しかし、最も大事なことは「図書館とは本が置いてある施設ではなく、アカデミアと一体となり、世界最高レベルの学者(知性)たちが集う場所」だったという点です。(アレキサンドリア図書館には、「ムセイオン」という、今でいう学術センターが併設されていた)2001年8月1日、アレキサンドリア市の地中海に面したかつて図書館があったとされる場所に再建された「新アレキサンドリア図書館」には、このコンセプトが引き継がれています。1年間に千数百のイベントが行われますが、そのなかの数十のイベントは、たとえば、「世界のノーベル賞受賞者を中心とした国際会議」など、世界最高レベルの学者(知性)が集います。

今こそ、日本人は世界の中心的な役割をはたすことができる

 ――最後に読者にメッセージをいただけますか。

 高橋  日本は「パックス・ブリタニカ」では「明治維新」「パックス・アメリカーナ」では「アメリカの実験国家」して、ともに光と闇を経験しました。「多様性」をキーワードに、「多国間協力」と「地球市民社会」というあり方が主流となる21世紀は、日本人の経験が生かされやすい時代だと私は考えています。またこの激動の最中にあって世界の主要国のなかで、一番安定しているのは日本です。そして、今そのことに多くの日本人が気づき始めており、また能力のある若者も育ってきました。今こそ、日本は世界の中心的な役割をはたすことができると思っています。大いに期待しております。

 ――勇気溢れるエール、ありがとうございました。

(了)

【金木 亮憲】

【略歴】高橋一生(たかはし・かずお)
 元国際基督教大学教授。国際基督教大学国際関係学科卒業。同大学院行政学研究科修了、米国・コロンビア大学大学院博士課程修了(ph.D.取得)その後、経済協力開発機構(OECD)、笹川平和財団、国際開発研究センター長を経て、2001年国際基督教大学教授。
東京大学、国連大学、政策研究大学院大学客員教授を歴任。国際開発研究者協会前会長。
現在「アレキサンドリア図書館」顧問(初代理事)、「リベラルアーツ21」代表幹事、「日本共生科学会」副会長などを務める。専攻は国際開発、平和構築論。主な著書に『国際開発の課題』、『激動の世界:紛争と開発』、訳書に『地球公共財の政治経済学』など多数。

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