2024年04月25日( 木 )

九大、膜タンパク質と脂質の相互作用解明へ~新薬開発の期待も

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 九州大学は18日、福井大学との共同研究で、膜タンパク質に相互作用する脂質を特定する方法の開発に成功したと発表した。

 膜タンパク質は、細胞や細胞小器官などの生体膜に付着するタンパク質分子。エネルギー生産、物質輸送、情報伝達など生命の維持に不可欠な役割を担うだけでなく、市販薬の半数以上が膜タンパク質に作用しているといい、近年、脂質が膜タンパク質と相互作用することで膜タンパク質の構造や機能を制御し、細胞の機能に影響を与えることが判明している。その一方で、膜タンパク質に作用する脂質を特定する方法がほとんどなく、数千種も存在する脂質のなかから、どの脂質が膜タンパク質の働きに関係しているのかを絞り込むことは困難だったという。

 研究では、同大大学院理学研究院教授の松森信明氏らの研究グループと、福井大学医学部の老木成稔教授の研究グループと共同で、「表面プラズモン共鳴法(分子の相互作用をセンサーチップ上に結合の強さ、速さ、重さなどの質量変化を測定することで結合・解離を算出する手法)」をベースに、炭素鎖で表面を覆ったセンサーの上に膜タンパク質を固定し、脂質との相互作用をモニタリングした。脂質については水に溶けにくいことから、洗剤のような界面活性剤と混ぜて水に溶かして行い膜タンパク質に対する脂質の付き方や離れ方で結合の強さを評価。炭素鎖の膜により、多量の膜タンパク質をセンサー表面に結合できるようになり、不安定な膜タンパク質を変性せず安定化させることができたとし、脂質と膜タンパク質の相互作用をより高い感度で検出できたとしている。

炭素鎖と界面活性剤を用いた、膜タンパク質と脂質との相互作用のイメージ図

 研究グループはこの試験方法で膜タンパク質に強く相互作用する脂質の特定に成功。脂質が膜タンパク質の性質に影響を与えていることを確認した。今後、この方法を多くの膜タンパク質に適用し、どのような脂質が膜タンパク質の機能を制御しているのかを明らかにすることで、「膜タンパク質の研究は非常に多く行われているなか、炭素鎖の膜を使用した測定方法による解明は世界でも例が見られない。今回の研究で多様な脂質が存在する生物学の解明につながるほか、脂質の代わりに薬を使用することで、膜タンパク質と薬の相互作用も解析できることで医薬品開発への応用が期待できる」(九大・松森信明教授))としている。なお、今回の研究成果は1日に、米国の学術誌「Analytica Chimica Acta」のオンライン版で公開されたほか、3月16日~19日に甲南大学で開催される「日本化学会 第99春季年会」で発表される予定。

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