2024年04月20日( 土 )

震災の爪痕いまだ生々しく、復興と再開発が同時に進む熊本市(後)

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浮き彫りになった課題

 被災地の混乱がだいぶ落ち着くなかで、地方自治体レベルでは解決困難といえる深刻な問題も浮かび上がってきた。南区近見地区(写真7)では、熊本地震による深刻な液状化の被害が発生。市によると、同地区の計857戸の建物が傾斜。地震直後、波を打つように変形した車道や歩道の舗装は行われたが、傾いたままの建物や電柱の姿も珍しくない状況である(写真8)。地元住民らは、1日も早い地盤復旧工事を求め、「南区液状化復興対策協議会」を設立。4月7日、視察に訪れた大西一史市長に、地盤復旧工法の早期確定や私道沈下への復旧支援などを求める要望書を手渡した。市は、国の宅地液状化防止事業の活用を検討。同事業は、公共施設と宅地の液状化被害が顕著で、3,000m2以上かつ家屋10戸以上の場合に採択される。市としては、住民負担をゼロとし、宅地と道路などと一体的に地盤強化を図る考えだ。

7.液状化の砂で造ったモニュメント

8.液状化で傾いた家屋と電柱

 県全体で住宅18万9,863棟の被災に対し、用意された仮設住宅は4,303戸。民間住宅を借り上げる「みなし仮設」は、1万4,600戸の提供予定に対し、入居申請が1万5,373戸。熊本市では、仮設住宅を含めて、市内で仮住まいをしている世帯数は約1万とされている。熊本市内の仮設住宅は9カ所541戸。市内最大の藤山仮設住宅・藤山第2仮設住宅(計195戸、南区城南町)には、今なお、多くの被災者が生活する(写真9)。場所は、町の中心部や商業地域から離れた工業団地の一画。バス停も設置されているが、平日上り3本、下り4本(休日上り5本、下り4本)と便数は少なく、車がないと不便。

9.藤山仮説・第2仮設住宅

 一方、仮設住宅とは違い、1カ所にまとまっていない「みなし仮設」は見回りが困難であり、高齢者の孤独死問題が影を落とす。いずれも仮設暮らしの長期化による健康・精神面のさまざまな弊害が懸念されている。こうした状況に対し、市は、被災宅地復旧の住民負担をゼロにする方針を発表。被災マンションについては、住民の合意形成を進めるための相談体制を強化し、南区の白藤と城南、中央区の大江に災害公営住宅を建設する計画だ。大西市長は、「仮住まい世帯が恒久的な住宅を確保し、生活再建のために支援を続けていく」としている。

復興と同時に進む再開発

 熊本市では、震災復興ばかりではなく、同時に、都市部の再開発も進められている。かつて交通センターや県民百貨店があった市内中心部の中央区桜町地区では、「桜町地区第1種市街地再開発事業」が始まっている(写真10)。同事業は、3万266.83m2の敷地に、バスターミナル、商業施設(物販・飲食)、シネコン、ホテル、バンケット、「熊本城ホール」(仮)、共同住宅、オフィス、駐車場などが集合した地上15階、地下1階、延べ面積16万330m2の大型複合施設を建設するというもの。19年夏の完成を目指す。

 地震によって看板の落下や壁の破損・崩落などが発生し、立ち入りが制限される場所も珍しくなかったアーケード商店街は、すっかり人の往来が戻っている(写真11)。その賑やかな様子から、一見、熊本地震のダメージから回復したように思えるが、被災した熊本市民の多くは震災の記憶を引きずっている。1年が経過した今も、揺れを強く感じる震度3以上の余震が発生しており、“3度目”の大地震に怯える声も小さくはないのだ。1日も早い復興を成し遂げるには、市民のメンタル面に配慮した行政の施策や、元気を与える民間の取り組みが不可欠だ。復興と同時に、まちのシンボル・熊本城の復旧や、未来への投資である再開発事業に取り組む熊本市は、地震災害から逃れられない日本の地方自治体における震災復興のモデルケースとして注目される。

10.基礎工事が行われている桜木地区

11.人通りが戻った下通りアーケード(4月9日)

(了)
【山下 康太】

 
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