2024年04月19日( 金 )

【緊急座談会】官製談合にからみ九電工課長ら4人逮捕~九電工疑惑取材班「チーム宇久島」記者を緊急招集

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4月3日、福岡県警は築上町のし尿処理施設建設をめぐる官製談合疑惑で、九電工の課長ら4人を逮捕した。県警はさらに上層部の関与まで視野に入れて調べを進めている。九電工は九州電力グループの1つで、九州最大手の電気設備業者(東証一部上場)。データ・マックスでは昨年から九電工をめぐる複数の疑惑について調査を開始、とくに、九電工と京セラなどの巨大企業が主導する佐世保市宇久島のメガソーラー(太陽光発電事業)プロジェクトが1つの島を「死に追いやる」危険性について報じてきた。これらの記事は宇久島関係者だけでなく、全国の再生可能エネルギー発電事業者にも話題をよび、問い合わせも相次いでいる。今回は「チーム宇久島」として取材に入った3人の記者の座談会を実施、実際に取材した者しか知りえないリアルな裏側を紹介する。

記者A:主に記事作成を担当。膨大な資料をもとに2万文字以上の記事を書きあげた。
記者B:主にネタ収集担当。いつの間にか佐世保市「奥の院」まで人脈を広げたコネクションづくりの達人。
記者C:主に資料収集と追加取材を担当。フットワークが軽く、「いやらしいくらいにしつこく」が身上。

反響を呼んだ、「宇久島メガソーラー事業の闇」特集

官製談合にからみ、九電工課長4人の
逮捕を伝える西日本新聞(4月4日朝刊)

記者A 築上町の官製談合疑惑で、九電工の課長ら4人が逮捕された。昨年から九電工がらみの「闇」を取材し続けてきたわれわれからすれば、「やっと」という感じだけれど、ようやく警察も本気で動き出したのかな。

記者B 九電工が進めている宇久島メガソーラーの特集記事については、かなり反響がありましたね。九電工現地事務所のNさんが亡くなり、極道を自称する元ボクサーの同僚Iが傷害致死で逮捕された件をまとめた記事も含めると、関連のネット記事は3月末段階で4万件以上のアクセスを集めました。

記者C ネット記事を読んだ宇久島島民から何通かお便りも届いていますので、1件紹介します。「私はこの記事に載っていた宇久島に住む者です。記事内で書かれていた通り、私たちは宇久全体にパネルが張ってあるものを見たことがない人がほとんどかと思います。あまりにもひどすぎます。少し前に起きた水害で太陽光パネルを張っていたせいで漏電して近づけないとか、山に張って土砂災害が起きたとか、風で飛ばされたなどのニュースを目にしますが、この写真を見ればそういった事故や災害がすべて詰まっているのではないかと不安を感じますし、事業者側が頑なに見せなかったことに憤りを感じます。〈パイプの断面図だけの面積で〉なら、なぜこんなに待たされているのでしょうか。着工するといいながら何度も裏切られてきました。

 土地代も使っていない時の分も全部払うといいながら難しい資料をもってきて、最大1年分しか払わない、事業者側はそんなこと言っていないと嘘までつかれました。今までは魅力的な土地代を払ってくれるからと我慢していましたが、私たちに都合の悪いことは隠して、裏切って、嘘までついて、我慢も限界です」。

宇久島のメガソーラー事業、完成予想図。太陽光パネルで島が黒く塗りつぶされている

 

記者A 傷害致死事件についても、こんなメールがきていますよ。「私は事件現場の近くの方と話す機会が多くありますが、事件当時人が亡くなった程度しか耳に入ってこず、今考えると不自然なくらい具体的な内容は伝わってきませんでした」。

記者C 我々がこの宇久島メガソーラー事業の取材を始めた端緒は、最初は傷害致死事件の容疑者がすぐに釈放されたことや、現地マスコミがこの件についてほとんど報じていないことを疑問に思ったからなんだけど、取材を進めていくうちにメガソーラー事業のいびつさが浮かび上がってきたんだよね。

記者B そうだね。とにかく、宇久島では九電工関係者の評判がすこぶる悪くてびっくりしました。東証一部上場企業にも関わらず、「九電工の件に触れてはだめだ」「あそこ(九電工)は怖い連中と関わりがあるからヘタなことはいえない」など、島民が見えない大きな力に怯えているように感じました。実際、凶悪なうえに資金が潤沢なことで有名な指定暴力団「D」と九電工のつながりを口にする人もいましたね。

記者A 私が取材した九電工関係者も、電話での対応がまるで町のチンピラのような口調なので驚きました。しかも、それがけっこうな肩書をもつ人物だったのでなおさら(笑)。九電工は上場企業にもかかわらずとにかくやり方が強引なんですよね。今回の逮捕案件についても、九電工関係者に接触したことがある人なら「あそこならやりかねない」と思ったのでは。

記者B 確証はありませんが、うちの記事が九電工の株価に影響を与えていたという指摘もありますよ。ネット記事が出るとだいたい株価が下がっていましたから。2,000億円規模のメガソーラー事業なだけに、投資家もその進捗状況が気になるのでしょう。

記者C 株価といえば、築上町の談合事件が明らかになってから一層、九電工の株価下落が激しくなりました。

記者B あれ以降、九電工が指名停止を受けたという記事を連日のように配信しました。A記者が対応した九電工社員の口調でもわかるように、良くいえば「清濁併せ呑む」社風というか、多少ルールを無視してでも仕事を取る強引さが九電工の強みであるのはたしかです。今回の談合はその強引さを象徴するような事件ですが、コンプライアンスがこれまで以上に重視されるなかで、こういった古い体質をもつ企業が生き残っていけるのか疑問です。佐世保のメガソーラーで九電工と組んでいる京セラは、このまま事業を続けるんだろうか。泥船からは早く逃げ出すのが得策だと思うけど……。

結局、九電グループのひとり勝ちか?

記者C 企業体質という意味では、九電工の「親会社」でもある九州電力も似たようなものでしょう。たとえば過剰な電力供給を抑制する電力制御について、まるで役人のように「個別案件については回答しない」の1点張り。宇久島メガソーラーと売買電契約を結んだかどうかについても、メガソーラー側は「(九電に)買ってもらうことになっている」と公表しているにも関わらず、最後まで「回答しない」に終始しました。もっとも、こういったお役所じみた対応と情報公開に対する後ろ向きの姿勢は、今回取材した全国の電力会社に共通していましたが・・・。ちなみに、衆議院議員の山崎誠さん(立憲民主党)が4月2日、自身のTwitterで九電が再生可能エネルギーの出力制御を頻発していることを問題視していますよ。「国会で取り上げて実態を解明する」と宣言しています。

記者B 結局、電力会社は自らを国営企業かのように勘違いした官僚集団だということです。電力、水道、ガスなどはライフラインであるにもかかわらず、料金を払わなかったら停止する自由があるわけで、「文句があるならいつでも止めるぞ」という本音が透けて見えますよ。働いている人間も、地元の伝統高から地域の旧帝大や国立大を出た「田舎のエリート」がほとんどで、これは県庁や市役所勤めの小役人のキャリアと同様です。地元から飛び出す勇気も能力もない代わりに、身の回り半径2mくらいの安定を守るためなら平気で嘘をつく大胆さはもち合わせている(笑)。そもそも、日本ではライフライン事業者を選ぶことがほとんどできないので、どうしても事業者側が有利になる傾向にありますね。

記者A その通り! 電気料金については国や電力会社の思うがままで、東日本大震災における原発事故の賠償費用もいつの間にか料金に上乗せされることが決まっています。民間企業が、「別事業の失敗を穴埋めするために、事業で損した分を御社の毎月の支払いに加算して請求させていただきます」なんてやったら「ふざけるな!」となる話が、電力事業なら許されるという不思議。よく「詐欺は大きな話のほうが引っ掛かりやすい」というけれど、上乗せされる総額は2.4兆円にのぼるとされており、額が巨大すぎて国民もよく理解できていないのでしょう。

記者C 記事を読んだ読者から、「宇久島メガソーラーでつくった電力を、高額な買取価格のままで九電が買い取ったとしたら、九電は損をするのではないか」という指摘がありましたが、この点についてはB記者が詳しいですよね。

記者B さっきの「電気料金は国や電力会社の思うがまま」っていうA記者の指摘とも重なるんだけれど、九電が損をすることは絶対にないんですよ。なぜなら、たとえ固定価格買取制度に基づいてコスト高の電力を買ったとしても、その差額は電気料金に上乗せされる(再生可能エネルギー賦課金)ことが決まっているため、損をすることは構造的にあり得ない。しかも、送電設備まで造ってもらって資産にできるので九電グループ総体としてはプラスになります。

記者A ただ、九電エリアでは電力が余っていること、さらに宇久島メガソーラーが国内最大の未稼働案件であることから九電自体は宇久島の事業をストップさせたがっていた、という情報もありますね。「子ども」である九電工が「親」の九電の意向を無視して暴走した「反抗期」説もある。

記者C 違う見方をすれば、世界のエネルギー事業の潮流が再生可能エネルギーに大きく舵をきるなかで、これ以上原発を増やすことが現実的ではないことも事実です。今後、原発の新設ができないとなれば自前のメガソーラー施設も必要になるはずで、政府が買取価格を下げればまさに九電の1人勝ちといった構図になる可能性もありますね。

記者B その構図は最も不愉快な結論だ(笑)。やっぱり、巨大電力会社が利権を独占していることがさまざまな問題を生んでいるんですよ。だとすれば、たとえば中小規模の再生可能エネルギー発電事業者が連合体を組んで既存電力会社への対抗軸となることで、ある程度は競争原理を働かせることができないだろうか。地域で使う電力をその地域でつくり出すことができれば雇用も生むし、地域でお金を回すことも可能になると思うんだけど。

記者A すでに別の記者が取材を進めていますが、佐賀県唐津市などでは風力発電を使ってその取り組みが進んでいるそうです。まださざ波のような小さな運動だけれど、いくつも合わさればいつか巨大な波になる可能性も秘めています。こういった情報も宇久島の島民にも伝えたうえで、なんとしても島が黒く塗りつぶされることを止めたいよね。

記者C もちろんです。実はすでに、私が主導する別の極秘プロジェクトが動き出しているんです。期待していてください!

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