2024年03月29日( 金 )

【公立福生病院の透析中止問題】透析中止の判断は適切だったのか~日本透析医学会、「5月中に声明発表する(前)

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 東京都福生市の公立福生病院(院長:松山健、病床数:316)で人工透析を受けていた患者が死亡した問題で、日本透析医学会(中元秀友理事長)は4月中に倫理的問題に関する見解をまとめるとともに、5月中に調査委員会の報告を踏まえ、学会としての声明を発表する。日本腎臓病学会(柏原直樹理事長)も4日にホームページで、「透析中止事例に関する調査委員会」と「腎臓学会倫理委員会」が合同で、倫理的側面から検討していくことを明らかにした。

透析再開申し入れるも再開されず

 公立福生病院で人工透析を受けていた患者が死亡した問題では、透析中止を判断した医師の対応が問われている。一連の報道によれば、担当医は、透析治療の苦痛に耐えきれなくなった女性(当時44歳)の希望を尊重して透析を中断。その後、患者は付き添っていた夫に「透析中止を撤回したい」との意向を示したため、夫が担当医に治療再開を申し出たが、再開されなかったという。

 毎日新聞の報道によれば、亡くなった女性は、血液浄化のために腕につくった血管の分路(シャント)が潰れたため、通っていた診療所の紹介状をもって福生病院を受診。担当医から首周辺に管(カテーテル)を入れて透析治療を続けるか、透析治療を中止するという2つの選択肢を説明された。結局、女性は透析中止に同意し、その1週間後に死亡したという。

 報道からは、透析中止の判断から亡くなるまでの1週間、女性の心が揺れ動く状況が浮かび上がっている。夫の話によると、女性は1999年に「抑うつ性神経症」と診断されていたことから、女性は正常な判断ができる精神状態ではなかった可能性も否定できない。

病院側「透析患者は終末期だった」

 一連の報道はあくまで断片的な情報で、事件の全容は見えてこない。ただ、この女性を含めて5人の患者が透析中止を選び、うち4人が亡くなっていることがわかっている。日本腎臓学会の認定指導医である医師は、透析中止を撤回したいという女性の意向が担当医に伝わっていたかどうかは定かでないとしたうえで、「医師の仕事は患者の命を救うこと。どのような理由であれ、透析で命をつないでいる状況で中止するということは自殺幇助に相当する」と話す。

 同病院の松山院長は、担当医から透析中止について倫理委員会を開くべきか相談を受けた際、日本透析医学会の提言を踏まえ、必要ないと判断したという。日本透析医学会が2014年に策定した「維持血液透析の開始と継続に関わる意思決定プロセスについての提言」では、終末期の段階で透析治療を見合わせることについて、「患者の尊厳を考慮した時、維持血液透析の見合わせも最善の治療を提供するという選択肢の1つとなり得る」としている。これを根拠に病院側は、共同通信社などの取材に対し「透析患者は終末期だった」と主張しているが、根本匠厚生労働相は4月3日の衆院厚労委員会で「透析医療をしていることをもって終末期とはいえない」と述べるなど、病院側の見解を否定している。

 一方、日本透析医学会は3月25日の声明で「終末期には含まないことを確認している」としながらも、「患者さんの状態は、透析にともなう合併症などを含めて個々に判断していくことが重要」として、マスコミには慎重な報道を求めている。

終末期の定義とは

 ここで論点の1つとして、亡くなった患者が終末期にあったのかどうかという問題が浮かび上がってくる。日本透析医学会の提言にある終末期とは、次の厚労省と医師会の見解に準じるかたちで、定義している。

 厚労省が平成19年5月に公表した「終末期医療の決定プロセスに関するガイドライン」では、がんの末期のように、予後が数日から長くとも2~3カ月と予測ができる場合、慢性疾患の急性増悪を繰り返し予後不良に陥る場合、脳血管疾患の後遺症や老衰など数カ月から数年にかけ死を迎える場合があり、どのような状態が終末期かは、患者の状態を踏まえて、医療・ケアチームが適切かつ妥当に判断すべきとしている。

 また、日本医師会・生命倫理懇談会が平成29年11月に取りまとめた、終末期医療に関するガイドライン「超高齢社会と終末期医療」では、狭義の終末期を「臨死の状態で、死期が切迫している時期」と定義。広義の終末期を「最善の医療を尽くしても病状が進行性に悪化することを食い止められずに死期を迎えると判断される時期」と定義。主治医を含む複数の医師および看護師、その他必要な複数の医療関係者が判断し、患者または家族などが理解し納得した時点で「終末期」が始まるとしている。

 しかし、「予後不良に陥る場合」や「死期が切迫している時期」などの文言は、医学的な不確実性をともない、法的にも解釈の幅がある概念だ。倫理的にも「どのような状態を終末期と考えるか」は、それぞれの患者の望む終末期のQOLや、患者の目指す治療のゴールによっても異なってくる。

 (公社)全日本病院協会の「終末期医療に関するガイドライン」(平成28年11月)によれば、「終末期」とは、(1)複数の医師が客観的な情報を基に、治療により病気の回復が期待できないと判断すること、(2)患者が意識や判断力を失った場合を除き、患者・家族・医師・看護師などの関係者が納得すること、(3)患者・家族・医師・看護師などの関係者が死を予測し対応を考えること―の3つの条件を満たす場合としている。

 もちろん最も尊重されるべきは患者の意向だ。終末期であるか否かに関わらず、最終的な決定権は患者側にある。終末期の概念は、医療サイドの判断基準であり、患者の価値観、人生観は考慮されない。患者や家族の意向を汲み取り、個々のケースに応じて判断していくことが必要になるだろう。

(つづく)

(後)

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