2024年05月02日( 木 )

高齢者と子どもたちが日常的に交流『幼老連携型施設』による新たな福祉のかたち

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エバーガーデンうきは × うきは幸輪保育園

園庭を挟んで併設された2つの施設

明るく温かみのある空間(うきは幸輪保育園)

 2016年4月、福岡県うきは市に老人ホームと保育園とが併設された“幼老連携型施設”が開設された。同施設は、同じ敷地内に介護付き有料老人ホーム「エバーガーデンうきは」と「うきは幸輪保育園」が園庭を挟んで向かい合うように建てられており、入居する高齢者や保育園の園児が日常的に触れ合うことができるのが特長。子どもたちが園庭で遊んでいると、その声に誘われるように高齢者も外に出てきて一緒に遊ぶ光景が見られるほか、毎日の昼食前には園児が老人ホームを訪問して一緒に手遊びや歌などを楽しむ時間が設けられるなど、両者の自然なかたちでの活発な異世代交流を促している。

 施設の運営は、筑後市や久留米市などで特別養護老人ホームや障害者支援施設を運営する(社福)素王福祉会がエバーガーデンうきはを、筑後市や広川町で保育園を運営する(社福)幸輪会がうきは幸輪保育園をそれぞれ担当。両法人がこれまで培ってきた介護および保育のノウハウによる運営に加えて、両法人が同じグループに属している強みを生かした、より一体的な連携・協力体制が可能となっている。

 両施設の設計を行ったのは、中国を中心に世界各国で独創的な建築を生み出す建築家として注目される福岡市出身の建築家・迫慶一郎氏。エバーガーデンうきはでは施設内に光が心地良く差し込むことで、明るく清潔感がありながらもシックで落ち着いた雰囲気を醸し出している一方、うきは幸輪保育園のほうも自然光を多く取り込むことで、明るく温かみのある柔らかな空間が形成されている。また、園庭を挟んで互いの施設が向き合うことで、一体感をもちながらも開放的な造りとなっている。

高齢者だけでなく子どもたちにも効果が

清潔感のある施設内(エバーガーデンうきは)

 “幼老連携型施設”として開業した同施設は、高齢者と子どもとの継続的な関わりが生む相乗効果を追求することで、介護と子育てに社会全体で取り組んでいくモデルケースの構築を目指している。16年4月の開業からこれまでの間の成果や手ごたえはどうだろうか。

 「日常的に子どもたちと触れ合うことで、入居されている高齢者の方々には当初の期待以上に良い効果が表れています。顕著な例では、認知症を患っていた女性入居者が、わずか3カ月で目に見えて改善されたケースもあります。とくに女性のほうが、子どもたちと触れ合うことでの効果は大きいようですね。入居者は皆、子どもたちとの日々の触れ合いの時間を楽しみにされていますよ」と、素王福祉会・公益事業本部の永井真二本部長。現在、定員30名に対して入居率は100%で、入居者の平均年齢はおおよそ88歳。皆それぞれが、子どもたちと触れ合う暮らしを、活き活きと楽しんでいるようだ。

 一方の子どもたちにとっても、当初の期待以上に良い効果が表れているという。幸輪会事務局長の荘野陽太郎氏は、「うきは市では、園児たちが祖父母と同居しているケースも多いのですが、祖父母の年代は50~60代などで、エバーガーデンに入居されている高齢者からすると園児たちはひ孫のようなもの。そうした歳の離れた高齢者と日常的に触れ合うことで、『お年寄りを助ける気持ち』や『弱者をいたわる心』などが子どもたちのなかに芽生えているようです。『街で身体の不自由なお年寄りに声をかけてあげるようになった』などの声も、園児の親御さんから聞いています」と語る。高齢者と子どもの双方にメリットが生まれているこの幼老連携の取り組みは、小川洋・福岡県知事が視察に訪れたほか、海外の新聞社の記者が取材に訪れるなど、高い注目を集めている。両法人は今後も新規で施設を開設する際には、幼老連携型で展開していく方針だ。

 先進国における共通課題であり、日本においては社会問題ともなっている少子高齢化。その対応策の1つとして、幼老連携型施設はこれからの社会福祉の新たなかたちとなっていくかもしれない。

園庭を挟んで向かい合う2つの施設

子どもたちと高齢者の触れ合いの時間。双方に良い効果が出ている

【坂田 憲治】

■施設概要
エバーガーデンうきは
運 営:(社福)素王福祉会
TEL:0943-76-9101
URL:https://evergarden-ukiha.jp
所在地:福岡県うきは市浮羽町朝田277-1

うきは幸輪保育園
運 営:(社福)幸輪会
TEL:0943-77-8877
URL:http://ukiha-kourin.jp
所在地:同上

 

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