2024年03月29日( 金 )

エネルギー収支を黒字にする住宅 ZEHの目的と制度(前)

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 低炭素社会の実現が世界的な課題となっており、日本でも電気自動車の開発や省エネ技術の開発、普及促進など、さまざまな方法で“脱化石燃料”の動きが強まっている。2014年に閣議決定されたエネルギー基本計画では、住宅のエネルギーについても踏み込んでおり、現在、その基本計画を基に、エネルギー収支黒字の住宅「ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス(ZEH[ゼッチ])」の普及を目指して、官民が取り組みを進めている。ZEHの現状をレポートする。

省エネ+創エネ=ZEH

 住宅に、新しいムーブメントが生まれている。着眼点は“省エネ”と“創エネ”で、その住宅が生み出すエネルギーを消費エネルギー以上にすること―これが「ZEH」である。

 経産省の定義によると、「外皮の断熱性能などを大幅に向上させるとともに、高効率な設備システムの導入により、室内環境の質を維持しつつ大幅な省エネルギーを実現したうえで、再生可能エネルギーを導入することにより、年間の一次エネルギー消費量の収支がゼロをすることを目指した住宅」となっている。つまり、断熱性を高めて空調の効きを良くし、住宅で使う設備もエネルギー消費の小さいものにすることと、太陽光パネルなどでエネルギーをつくることにより、住宅のエネルギー収支を黒字にするということなのだ。なお、完全にエネルギー支出が黒字のものは「ZEH」、収支黒字に近いものは「Nearly ZEH」と呼ばれる。

ZEHの定義

 このZEH、日本では2014年4月に閣議決定された「エネルギー基本計画」のなかで、「住宅については2020年までに標準的な新築住宅で、2030年までに新築住宅の平均でZEHを目指す」と政策目標にも含まれている。11年3月に発生した東日本大震災とそれにともなう原発事故によって、それまで原発頼りだった日本の低炭素社会へ向けたエネルギー政策は転換を余儀なくされた。そのため12年7月には、太陽光発電パネルを含む再生可能エネルギーの普及を目指して「再生可能エネルギー固定価格買取制度」が開始。そしてその2年後、さらに消費エネルギーにまで踏み込んだエネルギー基本政策が閣議決定され、そのなかにZEHも含まれることとなったのだ。なお、この動きは日本だけのものではない。むしろ世界的に見ると、日本は後発といっていい。イギリスでは07年から、アメリカでは08年から、EUでは13年から取り組みを公表しており、それぞれ目標値を掲げて普及に取り組んでいる。

 日本における住宅でのエネルギー消費は、国内で消費されるエネルギーの約15%に上り、その分を収支ゼロにすることができると、低炭素社会の実現に一歩近づくことになる。ちなみに、地球温暖化対策の国際ルール・パリ協定が16年に発効し、日本は温室効果ガスを13年比で30年までに26%削減、50年には80%削減することを目標に掲げている。この実現に向けたルートマップにはさまざまな批判があるが、ZEHの普及については今後、より力が注がれることとなる可能性が高い。

 ただし一口にZEHといっても、その技術範囲は広い。単純に考えられるのは外皮の断熱性能だが、それだけではない。窓からの日射の遮蔽・断熱や外気の循環、高効率照明、高効率給湯、高効率空調などをすべて含めて省エネを進め、同時に太陽光発電などによるエネルギーの創出を行うことで、初めてZEHとして認められるのだ。そして、そのZEHをつくるのは(一社)環境共創イニシアチブ(SII)に登録されている「ZEHビルダー」(以下、ビルダー)と定められている。事実上、誰でもエネルギー収支が黒字の住宅を建てることはできるが、国からの補助金などの手続きができるのが、このビルダーなのである。

ZEHビルダーの要件

 現在、ビルダー数は年々増えてきており、ビルダー登録制度が始まった16年に行われた第1回公募では508社だったものが、17年第8回(累計公募数21回目)では6,179社にまで増加。大手ハウスメーカーだけでなく地域の工務店も含め、数多くの企業が登録を済ませている。

 登録したビルダーは、ZEH建築の目標割合を掲げ、それに対する実績を公開しなければならない義務を負うこととなる。その一方で、前述したように補助金の申請を代行できるほか、ZEHマークを広告に使用することなどが認められる。これらはすべてZEHの普及とそれによる低炭素社会の実現に向けたものなのである。

 登録はシンプルだ。ZEH受注目標(5割以上)を達成するための事業計画と、ZEH周知・普及に向けた具体策やコストダウンに向けた具体策など、取り組みや目標を定めて、必要な書式とともに申請する。また、ビルダーに登録された後は、実績をSIIに送付・報告し、目標を再設定することになる。報告がなされたら、次は評価だが、ビルダー評価制度が18年度からスタートする予定だ。評価項目は次の5項目。

(1)17年度の実績報告を行っている
(2)実績や普及目標をホームページなどに表示している
(3)17年度にZEHの建築実績がある
(4)17年度の目標を達成している、または50%以上達成している
(5)実績報告の際にZEHのUA値(外皮平均熱貫流率)、ならびにエネルギー消費削減率の分布の報告がある

 目標を達成、もしくは達成のための努力を行った企業を評価するということになる。現在はまだ検討の段階だが、制度がスタートすれば、ランク付けまで行う制度になりそうだ。

ZEHの補助金は?

 16年度にスタートしたZEH普及制度だが、その大きなメリットとして挙げられるのが、補助金だ。ビルダーがZEHを建築した場合、1戸あたり16年度は125万円、17年度は75万円の補助金が支給される。だが、この補助金は、来年度以降については継続するか否かを含めて検討がされている。当初のロードマップによると「(18年度以降の補助金は)必要に応じて限定的な延長」となっており、打ち切りの可能性は高いと見るべきかもしれない。

 ただし、ZEH自体の補助金は打ち切られる可能性もあるが、たとえば蓄電システムの補助金などは継続される見込みだ。蓄電システムへの補助金は、初期実効容量1kWhあたり4万円(上限は補助対象経費の3分の1または40万円のいずれか低い金額)。とはいえ、蓄電システムはZEHに不可欠な要素とはなっていない。

 また、補助金がなくなったとしても、ビルダーに登録された事業者は目標と実績の掲示が求められ、評価までされることになるため、ZEHに前向きに取り組むことを余儀なくされる。「あまりメリットがないではないか」と思われるかもしれないが、ZEHは「ランニングコストが低く抑えられる」ことや「環境に優しい」こと、ビルダーはエコな事業に取り組んでいる企業としてイメージアップが可能など、さまざまな恩恵がある。今後、国やSIIでもイメージアップやブランド力アップのための広報活動に力を入れるとしており、よりZEHの普及を後押しする可能性も考えられる。

 補助金が打ち切られることになった場合に勢いが削がれるのか、それともより普及が進むのか―。来年度はZEHの将来を見極める年となりそうだ。

(つづく)
【柳 茂嘉】

 
(後)

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