2024年04月19日( 金 )

全国64カ所の森を「森林セラピー基地」に認定 森のなかで癒しを体験していただきたい(前)

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NPO法人森林セラピーソサエティ 理事長 瀬上 清貴 氏

 日本は国土面積の約7割が森林地帯で、世界有数の森林国といわれている。森林の約3割にあたる758万haが「国有林野」。これらの地域は、良質な水を供給する水源であり、地球温暖化の防止、生物多様性の保全など、重要な役割を担っている。

 その国有林がある地域を健康増進の場として認定している組織にNPO法人森林セラピーソサエティがある。“森林セラピー”という言葉は、一般の人にはあまり馴染みがなかったが、JR東日本が2年前に放映したテレビCM「大人の休日倶楽部」で、女優の吉永小百合さんが森林ヨガをしている様子が放映されて以来、にわかに注目されるようになった。NPO法人が認定する「森林セラピー基地」は現在、北は北海道・津別町から南は沖縄・国頭村まで全国64カ所ある。瀬上清貴理事長に、NPO法人の活動状況を聞いた。

 ――NPO法人では、森林セラピーを行う施設認定とガイド役の専門スタッフの育成事業を展開されていますが、現在の活動状況についてお聞かせください。

 瀬上 当法人は、健康増進、予防医学として、森林のもつ「癒し」効果を科学的に解明し、その活用方法を世に広めるために、2004年に「森林セラピー研究会」としてスタートしました。翌05年には「森林セラピー総合プロジェクト」を立ち上げ、森林セラピーロードと森林セラピー基地の認定、癒しの森の普及・広報活動、森林セラピーに関わる人材育成などのプロジェクトを開始しました。

 森林セラピーロードとは、森林セラピーの効果を発揮するための遊歩道です。ゆっくり歩いて20分以上の歩行距離があることを目安としています。自然の豊かさを感じられる環境で、有害汚染物質がないことが条件となります。そして、森林セラピー基地は、2本以上の森林セラピーロードのある森林地帯という条件に加えて、健康維持・増進などのアクティビティを提供する施設などで構成される一定範囲のことを指します。ストレスチェックなどの健康評価がサービスの1つとして組み込まれたプログラムを提供できることが条件となります。

 森林セラピーは、もともとはドイツ医学の一部に位置付けられ、欧州では自然療法の1つとして広く行われていましたが、その科学的根拠は明らかになっていませんでした。つまり経験則に基づく健康効果が民間伝承的に語り継がれていたのです。その効果を日本の研究者が科学的な観点から証明したことで、森林浴の良さが世界的に見直されているのです。

 その一翼を担っていただいているのが、日本医科大学の李卿先生です。李先生は、医学と林学(森林学)の研究者が著わした「森林医学」(朝倉書店刊)を英訳、中国語訳にして世界に発信する傍ら、ご自分の著書「Shinrin-Yoku」を世界各地で出版されるなど、森林浴の素晴らしさを世界に啓発しております。李先生の著書をきっかけに今や森林浴への認知度は世界的に広がりを見せています。

 「森林セラピー研究会」は、08年に「特定非営利活動法人森林セラピーソサエティ」へと名称を変え、林野庁や独立行政法人森林総合研究所などと連携して、森林セラピーの普及活動を推進していますが、李先生のその中心メンバーです。

(つづく)
【取材・文・構成:吉村 敏】

<プロフィール>
瀬上 清貴(せがみ・きよたか)

 森林セラピーソサエティ理事長。日本保健医療大学保健医療学部 特任教授。岐阜大学医学部卒業後、1979年に旧厚生省入省。2012年、東海北陸厚生局長を最後に定年退官。この間、厚生労働省の公衆衛生局、健康政策局、大臣官房のほか、文部省、旧労働省、世界保健機関、神奈川県庁、青森県庁、栃木県庁、千葉県庁において医療・福祉・公衆衛生関係業務に従事。また、国立保健医療科学院の初代公衆衛生政策部長として研究管理業務にも従事。その後、厚生労働省大臣官房参事官として行政に戻り、メタボ対策、がん対策などを手がける。この時、林野庁に協力して森林医学研究会の起ち上げに参画し、メタボ予防やメンタルヘルス対策を推進。その後、指定職 (局長・審議官級)に昇格。国立循環器病センター運営局長、国立精神神経センター運営局長として病院経営、研究所運営にあたる。09年、独立行政法人福祉医療機構理事に出向、病院建設関係融資の拡大に尽力した。退官後は、主にアフリカ、アジアの一部発展途上国政府からの依頼で、医療施策の助言指導をボランティアとして行う。

(中)

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