2024年04月17日( 水 )

全国64カ所の森を「森林セラピー基地」に認定 森のなかで癒しを体験していただきたい(中)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

NPO法人森林セラピーソサエティ 理事長 瀬上 清貴 氏

※クリックで拡大

 ――科学的根拠に裏付けられた森林浴効果を森林セラピーと位置付けているようですが、これまでの研究でわかった森林浴効果とはどのようなものでしょうか?

 瀬上 日本での森林研究は、医学と林学(森林学)の接点というか、それぞれの専門家が集まるところからスタートしました。その研究課題の1つが森林浴の健康効果を科学的に解明し、普及するということだったのです。千葉大学・自然セラピープロジェクトの特任研究院である宮崎良文氏を中心とする研究者が地道な研究活動を行ってきた結果、今や世界に森林浴効果の科学的裏付けを発信できるまでになりました。そして、この研究を発展させ、NK活性(ナチュラルキラー活性)や抗ストレス作用を実証したのが李先生です。林学は学問体系としては、まだ確立されておりませんが、新しい学問領域として研究が積み重ねられている段階といえます。

 李先生が行った都市部と森林部での比較試験では、唾液のなかのコルチゾールというストレスホルモンが都市部に比べ、森林では濃度が低くなるということがわかりました。また、心拍の「ゆらぎ」の測定では、森林ではストレスの高い時に高まる「交感神経活動」が抑制され、リラックスしたときに高まる「副交感神経活動」が昂進することが確認されています。さらに脳の前頭前野の活動が鎮静化しリラックスすることもわかりました。免疫機能についても2泊3日の森林浴でNK活性が高まることがわかりました。

 ――森林セラピーガイドと森林セラピストの違いは?

 瀬上 森林浴の基地をつくって、指導者のもとで安全に森林セラピーができる環境を整えることが、当法人の役目であり、活動目的でもあります。ですから利用者が安心して森林散策ができるように、ガイド役となる専門スタッフを養成する必要がありました。そこで当法人では「森林セラピーガイド」と「森林セラピスト」の2つの専門スタッフを育成することにしました。

 森林セラピーガイドは、森林を訪れる利用者に対し、森林浴効果が上がるような散策や運動を現地で案内するスタッフです。森林に関する環境科学的な知識に加え、森の癒し効果についての生理学的な知見を有する人で、利用者に対し、安心・安全な森林散策を確保し、森林環境内での歩行や運動、レクリエーション活動などを通して、正しい森林セラピーの方法を助言する人です。

 一方の森林セラピストは、森林を訪れる利用者に応じて適切なプログラムを提供し、効果的なセラピー活動を指導するスタッフです。こちらは森林セラピーガイドとしての知識に加え、健康・心理についての専門的な知識と高いコミュニケーション能力を有する人で、利用者に対して、質の高い保養プログラムを提供し、森林セラピーの実践を指導することが求められます。

 両資格者が接する森林セラピーの対象者は「健常者および未病の者」ですから、医師の指導なく直接的に医療・治療行為を行うことはできません。森林セラピーガイドと森林セラピストの資格取得については、以前は年1回開催する筆記試験に合格の後、2次試験(レポート提出など)の合格が必要でしたが、当法人では、全国的な資格取得への対応を目指すため、15年に筆記試験を廃止し、通信教育課程に全面移行しました。

 森林セラピスト養成事業では、これまでに1,000人を超えるセラピストを輩出しました。通信教育で知識を学んだ方に実際に森林基地に行って講習会を受けていただき、認定証を発行するという流れです。認定者には、定期的に勉強会を開いてスキルアップをサポートしています。今年は、1月に「森林セラピーフォーラム2019」を開催し、秋田大学大学院の三島和夫教授(精神科学講座)を講師に招いて睡眠と健康について講演してもらいました。

(つづく)
【取材・文・構成:吉村 敏】

<プロフィール>
瀬上 清貴(せがみ・きよたか)

 森林セラピーソサエティ理事長。日本保健医療大学保健医療学部 特任教授。岐阜大学医学部卒業後、1979年に旧厚生省入省。2012年、東海北陸厚生局長を最後に定年退官。この間、厚生労働省の公衆衛生局、健康政策局、大臣官房のほか、文部省、旧労働省、世界保健機関、神奈川県庁、青森県庁、栃木県庁、千葉県庁において医療・福祉・公衆衛生関係業務に従事。
 また、国立保健医療科学院の初代公衆衛生政策部長として研究管理業務にも従事。その後、厚生労働省大臣官房参事官として行政に戻り、メタボ対策、がん対策などを手がける。この時、林野庁に協力して森林医学研究会の起ち上げに参画し、メタボ予防やメンタルヘルス対策を推進。その後、指定職 (局長・審議官級)に昇格。国立循環器病センター運営局長、国立精神神経センター運営局長として病院経営、研究所運営にあたる。
 09年、独立行政法人福祉医療機構理事に出向、病院建設関係融資の拡大に尽力した。退官後は、主にアフリカ、アジアの一部発展途上国政府からの依頼で、医療施策の助言指導をボランティアとして行う。

(前)
(後)

関連記事