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2019年06月18日 14:56

孫正義の秘密兵器~ソフトバンク300年ビジョン計画(1)

国際政治経済学者 浜田和幸

 数多い日本人経営者のなかで、トランプ大統領やプーチン大統領、そしてモディ首相や習近平国家主席の心を鷲づかみにできる人物はまず見当たらない。唯一例外的な存在が孫正義氏であろう。サウジアラビアのムハンマド皇太子を魅了し、10兆円をはるかに超える投資を引き出した。彼が率いる「ソフトバンク・ビジョン・ファンド」は運用資金の規模では世界最大を誇る。

 同ビジョンではスタートアップ企業への投資を積極的に展開している。最低投資金額は1億ドルだ。2016年に事業を始めてから、2年間で700億ドルの投資を実行してきた。投資先はグローバルだ。中国の「バイトダンス」(ニュースとエンタメ)に30億ドル、インドの「オヨ」(ホスピタリティー)に10億ドル、アメリカの「コンパス」と「オープンドア」(不動産)に8億ドル、ブラジルの「ロッジ」(デリバリー)に1億ドルといった具合である。いずれも孫正義氏が発掘してきた新興企業ばかり。

 とはいえ、彼が200億ドルを投資してきたアメリカ発の「ウーバー」(自動車配車)も「ウィーワーク」(レンタルオフィス)もすでに大成功の道を歩んでいる。「ウィーワーク」の場合にはニューヨーク、ワシントンDC、ロンドンにおいて最大のテナントになっているではないか。これまでIT関連のベンチャー企業の活躍の場はカリフォルニアのシリコンバレーや北京の中関村がメインであった。しかし、「ビジョン・ファンド」の登場で、新興企業の活動拠点は世界各地に分散されるようになった。

 そうした成功事例の牽引車である孫氏から支援を得たいと願うスタートアップ企業家は世界中に数知れず。彼らは何とかして孫氏の関心を呼びたいとあの手この手で接触を試みているようだ。彼らの合言葉は「マサ(孫氏のニックネーム)と会えるならどこにでも飛んでいく」。小柄で物腰の柔らかい孫正義氏である。会った人は誰でも彼のユーモアに魅了されるようだ。

 と同時に、彼の「世界を変える」という未来へ賭ける情熱にも圧倒されるという。「日本を洗濯する」と訴えた坂本龍馬を理想とし、毎朝、坂本龍馬の肖像画に向かい「龍馬に負けない決定を下す」と自問自答するという孫正義氏。彼の胸中には「日本から世界を変える」という思いが煮えたぎっているようにも見える。

 いずれにせよ、孫正義氏の投資戦略の根底に流れている発想は実にユニークだ。彼には未来を創造するという視点が幼いころから根付いているように思える。朝鮮半島出身の祖父母の影響もあってなのかもしれないが、現状には満足しない。常に自分の頭で考え、あるべき未来を描く。そして、その実現のためにあらゆる努力を惜しまない。極貧に近い生い立ちであり、現状を変えるためには「未来に軸足を置くしかない」という思いが強かった。

 祖父母や両親、親戚の猛反対を押し切り、アメリカの高校に単身留学をはたす。猛勉強の末、カリフォルニアの高校を何と2週間で卒業。その後、カリフォルニア大学でコンピューターと経営学を学んだ。学生時代に早くも商才を発揮する。自ら自動翻訳機を開発し、その技術特許をシャープに売却し、1億円の資金を手にする。その資金を手に日本に帰国すると、すぐさまソフトバンクを創業したのであった。1981年のこと。

 コンピューターソフトの開発と販売を専門とする会社だが、社員はたったの2人。しかも、アルバイトであった。会社を興した初日、社員の前で演説した。「みんな、よく聞いてくれ。なぜなら、自分がこの会社の社長だから。5年以内に、100億円の売上を達成する。1000社と取引をする。PCのソフトウェアでは日本1になる」。開いた口が塞がらない2人のバイト社員は「頭がおかしい。こんな社長にはついていけない」と、即日、会社を辞めてしまったという。

 実際どうなったのか。何と、1年半後には200社と取引ができるまでに事業は推移した。そして、10年後の1992年には1万5000社との取引までに拡大していったのである。社員も570人に増えていた。しかも正社員である。

 孫正義氏には武勇伝が付きまとう。毀誉褒貶も多い。「天才」と持ち上げる人もいるが、「ほら吹き」と呼ばれることもある。確かに、日本ではめったにお目にかかれない存在だ。しかし、これまでの実績や企業価値の推移を見れば、世界が注目するに値する「サムライ経営者」であることは否定のしようがない。

(つづく)

<プロフィール>
浜田 和幸 (はまだ・かずゆき

国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。16年7月にネット出版した原田翔太氏との共著『未来予見~「未来が見える人」は何をやっているのか?21世紀版知的未来学入門~』(ユナイテッドリンクスジャパン)がアマゾンでベストセラーに。

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