2024年04月19日( 金 )

スマホ決済「セブンペイ」が出足からつまずく 「食品ロス削減」の実験はどうなる(後)

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加盟店が「1円廃棄」で反撃

 加盟店が反撃に出た。不当なチャージを逃れて利益を確保する手段を編み出した。それが「1円廃棄」。販売期限切れの商品を1円に値下げして、それをオーナー自身が購入して廃棄する。セブンの九州地区の加盟店のオーナーが考案したものという。

 計算方法は省略するが、こうすると加盟店の収益は劇的に改善する。その分、本部が加盟店から徴収するロイヤルティーは減少する。1円廃棄は、ロスチャージ会計を無効にする「裏技」だ。

 「1円廃棄」がセブン本部に与えた衝撃は大きかった。この方法を加盟店の大半が実行したら、本部は収益源を失ってしまう。価格決定権はあくまで加盟店側にあるため、加盟店側はこの方法を実行する権利をもっている。

 セブンは加盟店の押さえ込みにかかる。契約解除をちらつかせながら、値下げ販売を禁止しようとした問題に、公正取引委員会が調査に乗り出した。

 09年6月22日、公取委はセブンに対し排除命令を出した。弁当などの見切り販売した加盟店に対し、本部側の担当者らが「『契約の更新ができなくなる』と見切り販売にストップをかけた」が、これを「優越的な地位の濫用にあたる」と認定した。

 この排除命令を受け、セブンは「加盟店が値下げしない代わりに、廃棄商品の原価の15%、年間100億円分を本部が負担する」と譲歩せざるを得なくなった。

 セブンが値下げ販売を禁止しようとしたのは、コンビニ業界特有のロスチャージ会計を守るためだ。ロスチャージ会計が、セブンが高収益を保つ生命線だったからだ。

"脱鈴木″で始まった加盟店への譲歩

 16年5月、「コンビニの生みの親」である鈴木敏文・セブン&アイHD会長が退任した。事実上の解任である。後任の井阪隆一HD社長は“脱鈴木”を進める。その一環として、加盟店とは融和を図る。

17年9月、加盟店から徴収するロイヤルティー を一律1%引き下げた。セブンでは、商品の廃棄にともなう損失の85%を加盟店側が負い、本部は残る15%を負担する。加盟店にとって廃棄にともなうコストは人件費と並んで重い負担となっていた

 セブン本部にとって、24時間営業と値下げ販売禁止は、死守すべき生命線だ。井阪経営陣は、その緩和に舵を切った。

 営業時間を契約に沿った24時間から独自判断で縮めた大阪府東大阪市の加盟店のオーナーに対し、時短営業を認める契約への切り替えを提案したと報じられた。

 そして今秋から、国内すべての約2万1000店で、値引き販売を実施する。値引き率をどの程度にするか。セブンペイの開始とともに、実験することになっていた。値引き販売が広がれば、廃棄費用の大半を支払う加盟店の負担軽減につながることが期待されていた。

 ところが、セブンペイの登録停止で、実験は先送りされた。セブンは、創業以来の大転換である実質値下げを容認することになるのだろうか。ポイント還元は、気休めにしかならないという厳しい見方もある。本部と加盟店のせめぎ合いは、これからも続く。

(了)
【森村 和男】

(前)

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