• このエントリーをはてなブックマークに追加
2019年08月14日 07:05

中小企業の現場で実現できるのか 働き方改革の課題とこれからの展望(前)

 来年4月から中小企業にも本格的に適用される働き方改革。だが、人手不足が進むなかで、本当に中小企業の実情が反映されたものなのか、働き方改革の先行きを懸念する声も多い。企業現場での多くの経験から、この課題にいかに立ち向かうべきかを議論し続けている働き方評論家、千葉商科大学国際教養学部専任講師の常見陽平氏に現状と今後の展望を聞いた。

中小企業の経営現場を反映したものか

働き方評論家、千葉商科大学国際教養学部専任講師の常見陽平氏

 働き方改革は、恵まれた大企業にはできることでも、中小企業の経営の実態にあったものなのか。働き方改革の実現に向けて開かれた働き方改革実現会議には、有識者として多くの経営者や専門家が出席していた。

 だが、日本の雇用の7割を担う中小企業を視野に入れた考えをもつ者は少なく、中小企業の経営の実情がかなり反映されにくいなかで決まった法律であることも事実ではないか。大企業と中小企業の立場の違いがかたちになったのは、組織体制づくりの準備期間として1年くらい遅れて適用されることくらいだ。

 大企業と中堅・中小企業には、さまざまな格差がある。大企業の業績に左右される中堅・中小企業も多く、採用活動のために人手不足のなかで労働環境を良くしないといけないという課題も抱えている。さらには働き方改革という理想を掲げられても、顧客や取引先との関係があって実現が難しいことも多い。

ITやオフィス、人材への投資が必要

 本来の働き方改革は、企業や人の力を発揮できる方法を見つけて「改革」するものだが、電通過労自死問題などの報道から労働時間を減らすことばかりが注目され、いかに前向きに働き方を変えていくかにまで議論がおよんでいないことが問題だ。

 また、これまでは現場の創意工夫や経営者の意志次第で、効率的に仕事を進めて労働時間を短くできるといわれてきた。だが、「気合いと根性」だけで現場を解決できる問題ではなく、仕事の量や進め方を改革するためには、企業としての投資が不可欠だという視点が見落されている。

 具体的には、ITシステムやオフィス、人材への投資だ。たとえば、多様な働き方として、オフィスの外で仕事をするテレワークを取り入れるためには、社外で仕事に使うパソコンのハッキングや情報漏えいが起こらないように、ビジネスに使える安全なシステムに変える必要がある。

 また労働時間を把握することが義務付けられたが、効率的にチェックするためにはICカードなどの仕組みづくりが必要だ。次に、オフィスへの投資では、今まで全員が毎日出社するのが当たり前だったが、これからはテレワークなどのさまざまな働き方の人が仕事しやすいように会議室などを変える必要がある。

 さらに、労働時間が短縮されるなかで仕事を早く進めるためには、採用を増やす必要が出てくる可能性もあり、仕事を効率化できるスキルを身に付けるためのトレーニングも必要になる。

 ほかの業種の優れた方法を取り入れることが、現場の改善にもつながっている。たとえば、快適で仕事がしやすい管理が行き届いた職場づくりや作業工程の「見える化」を実現している「トヨタ生産方式」は、大手製造業だけに役立つノウハウでなく、あらゆる業種で生かせる方法だ。そしてこれからは、働き方や役割分担の見直し、多様な人材の登用、人材の育成なども必要になる。

 いずれにしても、表面的な取り組みだけでは解決できない。企業の仕組みそのものにメスを入れなければ、働き方改革を踏まえた組織体制に変えられないのではないか。

人手不足のなかでどう実現するか

 多様な働き方を取り入れて労働時間を減らすことがいわれているが、人手不足のなかで今までのやり方でそのまま人材を多様化するのは現場にあったやり方ではない。多様な人材でいかに仕事の役割を分担するかを考えて、多様な働き方を生かしたチームワークをもって仕事できる体制づくりが必要だろう。

 たとえば、多様な人材を登用して前向きに事業を進めているのは、石川県で食品加工業を営む(株)オハラだ。ヒット商品のために人手不足になったオハラでは、早朝限定で高齢者に働いてもらう制度を取り入れて、一気に人手不足を解消したという。

 食品加工業で朝から工場を稼働しているため、忙しい商品の製造ラインでは、早朝4時ごろから9時ごろまで高齢者のアルバイトが活躍している。アルバイトの募集も大人気だという。高齢者は早起きという強みを生かして、人が集まりにくい時間に人材を活用して現場をうまく回している。年金問題がもち上がるなかで、シニア世代の仕事探しの課題にも一役買っているのではないだろうか。

 また、農業も人手不足といわれているが、北海道・札幌市にある果樹園では1~2時間の短時間で高齢者の勤務を取り入れており、フルタイムでは仕事をしづらい人材を活用して仕事を分担している。今までの常識にこだわらず、多様な人材を活用して事業がうまく回る仕組みをつくることも、人手不足のなかでの企業の活路の1つではないだろうか。

(つづく)
【石井 ゆかり】

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

     

トップニュース

2020年08月11日 17:47

厚化粧の〈仮面〉に隠された強烈な権力欲~横田一さんの著書『仮面・小池百合子』を先着5名さまにプレゼントNEW!

 ジャーナリスト・横田一氏の新刊『仮面 虚飾の女帝・小池百合子』(扶桑社刊)の発売を記念して、先着5名さまにプレゼントする...

2020年08月11日 16:30

止まぬ偏見と差別。Withコロナ時代に必要なものはNEW!

 「闘う相手は人間ではなくウイルス」として、千葉県松戸市では8月4日に「新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴う人権尊重緊急宣言」を発表した...

2020年08月11日 16:20

クイーンズヒルゴルフクラブ クラブ会員による再度の民事再生申請(前)NEW!

 内紛による訴訟を経て経営者が変わったザ・クイーンズヒルゴルフクラブに対し6月2日、クラブ会員4名が民事再生手続きを申請した...

2020年08月11日 15:30

コロナショックでも好業績のコンテンツ産業(前)NEW!

 新型コロナウイルスの発生で、私たちのライフスタイルは大きく変わってしまった。私たちのライフスタイルは非対面が日常化し、世の中はデジタルへの転換が急速に進んでいる...

2020年08月11日 15:09

【縄文道通信第42号】縄文道は日本の未来道―縄文文化の影響は未来永劫に続くパワーなり―縄文の食文化の現代への影響―(前)NEW!

 『医者が教える「食事術」最強の教科書』(著者・牧田善二医学博士)は「理想的な食生活は縄文人に学ぶべき」と述べている...

2020年08月11日 14:40

復活の道が見えない日産自動車の研究(3)NEW!

 新型コロナウイルスの感染拡大は、仏ルノー、日産自動車、三菱自動車の日仏連合に壊滅的な打撃を与えた。3社連合は継続するのだろうか。次は、ルノーと日産が「縁切りする」可...

2020年08月11日 14:01

「新型コロナ」後の世界~大学の本来あるべき姿を考察する!(6)NEW!

 『「大学設置基準の大綱化」「大学院の重点化」「国立大学の法人化」の3つの改革に加えて、「新自由主義的な規制緩和」の影響がもっともはっきり現れたのは、「大学の増加」で...

2020年08月11日 13:43

中洲クライシス 退去にともなう工事ラッシュが始まるNEW!

 6月からクラブなどの「接待をともなう飲食店」も本格的に営業を再開したが、「夜の街」中洲を取り巻く環境は厳しさを増すばかりだ...

2020年08月11日 12:05

【ラスト50kmの攻防】〈長崎ルート〉は停滞、描けないまちづくり

 「佐賀県は一度も、新幹線の建設を望んだことはない」。佐賀県の山口義祥知事が、長崎新幹線の未着工区間「新鳥栖―武雄温泉間」における環境影響評価実施を拒否する際に、しば...

2020年08月11日 11:38

ユニバ中間決算、スロット販売が絶好調

 パチンコ・スロットメーカー大手、(株)ユニバーサルエンターテインメントは、2020年12月期の中間決算(連結)を発表した...

pagetop