2024年04月25日( 木 )

相続法改正 配偶者居住権とは?

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岡本 成史

 2018年7月に民法の相続法分野が大きく改正され、本年1月13日から約1年半の間に段階的に施行されます(多くの項目が7月1日に施行されています)。相続法については、1980年に改正されて以来、約40年ぶりの改正になります。この40年の間に我が国における平均寿命は延び、高齢化のさらなる進展による社会経済の変化が生じており、このような変化に対応する改正になっています。

 具体的には、自筆証書遺言の方式緩和(一定の要件のもと財産目録を自書しなくてもよくなった)、法務局における自筆証書遺言の保管制度の創設、遺産分割前に一定の範囲で預貯金の払い戻しを認める制度の創設、遺留分制度に関する改正、相続人以外による介護などの貢献を考慮するための寄与料請求制度の創設など、多岐にわたります。多くの改正点のなかでも、不動産に関係する改正として「配偶者居住権の新設」があります。

 「配偶者居住権」とは、配偶者が相続開始時に居住していた被相続人の所有建物について、終身または一定期間、配偶者の使用収益を認める権利です。これにより、遺産分割における選択肢の1つとして、ほかの相続人が不動産の所有権を取得したうえで、配偶者に配偶者居住権を取得させることができるようになります。

 具体例を用いて説明します。相続人が妻および子、遺産が自宅(2,000万円)および預貯金(3,000万円)のみで、妻は自宅に引き続き居住したいという希望をもっているというケースにおいて、妻と子の相続分は、それぞれ半分(2,500万円)ずつということになります。従来であれば、遺産分割において、引き続き自宅に居住したいという妻に自宅(2,000万円)と預貯金(500万円)を取得させ、残りの預貯金(2,500万円)を子に取得させるという遺産分割の方法が考えられます。

 しかし、妻は居住建物は確保できるものの、受け取れる預貯金が減ってしまい、将来の生活に不安が残ることになります。そこで、今後は自宅の所有権自体を妻に取得させるのではなく、引き続き自宅に居住できる権利である「配偶者居住権」を取得させることで、配偶者は自宅での居住を継続しながら、自宅の所有権の価値から配偶者居住権の価値を差し引いた分だけ、預貯金などそのほかの財産も取得できるようになります。この場合、自宅(2,000万円)についての配偶者居住権の評価が1,000万円、配偶者居住権の負担付きの所有権の評価が1,000万円と想定しますと、妻は自宅の配偶者居住権(1,000万円)と預貯金(1,500万円)を取得することができ、今後の生活費に充てる資金を確保できることになります。

 配偶者居住権は登記されることになっており、存続期間も「終身」となっていますので、配偶者居住権付きの不動産を取り扱う際は注意が必要です。「配偶者居住権」の価値は、遺産分割においてとくに争いのないケースであれば、建物の耐用年数、築年数、法定利率などを考慮して、配偶者居住権の負担が消滅した時点の建物敷地の価値を算定したうえ、これを現在価値に引き直して(法定利率で割り戻して)算定することとされています。この「配偶者居住権」については、来年2020年4月1日から施行されることになります。

<プロフィール>
岡本 成史(おかもと・しげふみ)

弁護士・税理士/岡本綜合法律事務所 代表
 1971年生まれ。京都大学法学部卒。97年弁護士登録。大阪の法律事務所で弁護士活動をスタートさせ、2006年に岡本綜合法律事務所を開所。福岡県建設工事紛争審査会会長、経営革新等支援機関、(一社)相続診断協会パートナー事務所/宅地建物取引士、家族信託専門士。

▼関連リンク
相続法改正のポイント(1)自筆証書遺言の要件緩和

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