2024年04月24日( 水 )

現実の資本主義経済より、もっと人間的な血の通ったシステムを模索!(後)

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立命館大学経済学部教授 松尾 匡 氏

人間が振り回され、時には命まで落とすのは理不尽である

 ――ここで、『自由のジレンマを解く』(PHP新書)についても少し言及いただけますか。

 松尾 この本は、『ケインズの逆襲 ハイエクの慧眼』の続編です。前著を書いた時から、最終的には本書の内容で締めくくろうと考えていました。2冊で1つの体系を表しています。

 前著が経済分析に重点を置いたのに対し、本書では政治哲学的な問題(「自由」や「責任」についての考え方)に重点を移しました。

 もともと私のモチベーションとしては、国家にしても、市場にしても、1人ひとりの現場で生きている人間の関係ないところで起きたことで、人間が振り回され、時には命まで落とすのは理不尽であると考えていました。そうではなく、現場で働き暮らす生身の人間の営みを楽で豊かにする世の中をどのようにつくって行くべきかが重要なのです。それがつまり「自由になりましょう」ということです。たとえば「まず人間があって、その自由があって、そのための財政」なのです。

 しかし、グローバル化によって、人間関係が流動的な社会に移行している現代においては、それぞれの人間がそれぞれの理想を追い求め、自由に行動をすればいいのかといえば、

 そうでもありません。お互いの考えがぶつかりあって、傷つけあう可能性があり、かえって自由は実現できなくなります。「個人の選択の自由は本当に幸福につながるのだろうか?」「選択肢が増えることが本当に幸福につながるのだろうか?」。結論からいえばYesなのですが、結果的にここでも「リスク・決定・責任」の一致が重要であることはいうまでもありません。詳しくはぜひこの本をお読みください。

「れいわ新選組」の集会には若い支持者が何千人も駆けつける

 ――時間になりました。最後に読者にエールをいただけますか。

 松尾 よく、現代の若者は保守化、右傾化していると言われます。しかし、私はよく講演でも申し上げるのですが、そんなことは決してありません。

2017年3月の調査では、いわゆる改憲反対「憲法九条を変えることに反対である」を唱える人は若い世代ほど多いことがはっきり出ています。また、毎年行われるアンケート調査「韓国や中国に関して親しみを感じるかどうか」でも、若い世代ほど親しみを感じる数値が高くなっています。

 一般的には、左派系の会合にはお年寄りが多いと思われているイメージがありますが、山本太郎の「れいわ新選組」の集会には、若い支持者が何千人も駆けつけてきます。また、体罰の問題、同性愛の問題などの人権問題に関するセンスでいえば、若い人ほど、どんどんリベラルになってきています。

 リベラルが何度も選挙などで失敗を繰り返してきたのは、「景気拡大反対」「脱成長」のイメージがあり、長期不況や小泉構造改革などで失業した人、あるいはやっと職にありついた人たちには自分たちが救われないとしか聞こえなかったからです。しかし、左派野党がもっとしっかりした景気の良い対案をアピールすることができれば、彼ら若者の心、さらには多くの国民の心を捉えることができると私は思います。

 引き続き、読者の皆さまと一緒に、現実の資本主義経済より、もっと人間的な血の通ったシステムを模索していきたいと思っております。

(了)
【金木 亮憲】

<プロフィール>
松尾 匡(まつお・ただす)

 1964年、石川県生まれ。87年金沢大学卒業。92年、神戸大学大学院経済研究科博士後期課程修了。久留米大学経済学部教授を経て、2008年より立命館大学経済学部教授。専門は理論経済学。07年論文「商人道!」により、第3回「河上肇賞奨励賞」を受賞。主な著書に『ケインズの逆襲、ハイエクの慧眼』(PHP新書)、『商人道ノスゝメ』(藤原書店)、『図解雑学 マルクス経済学』(ナツメ社)、『新しい左翼入門』(講談社現代新書)、『この経済政策が民主主義を救う』(大月書店)、『自由のジレンマを解く』(PHP新書)など多数。

(中)

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