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2019年10月03日 14:50

高齢者への出資はコストでなく投資である(前)

神奈川県立保健福祉大学 学長 中村 丁次 氏

 日本老年学会と日本老年医学会は2017年1月、「75歳以上を高齢者とすべき」とする提言を行った。人生100年時代となれば、“healthy ageing(健康な高齢化)”を支えるアプローチが求められる。日本栄養士会会長で、神奈川県立保健福祉大学の学長でもある中村丁次氏は、「高齢者イコール弱者」という従来の発想を転換する必要性を訴える。同氏に、健康長寿を目指す栄養・食事サポートのあり方を聞いた。

「高齢者は社会のお荷物」は差別的

WHOレポート
WHOレポート

 2017年10月に開催された神奈川県主催の未病サミットで、WHOの元事務局次長とお話しする機会があり、WHOが作成した「高齢化と健康に関するワールドレポート」が話題となりました。このレポートには、健康と高齢化の認識を変え、医療や介護のあり方を考えさせられる革新的な提案があります。

 人口高齢化に対する包括的な対応策を策定するにあたっての問題の1つとして、高齢者に対して抱いている認識や思い込みの多くが、時代遅れのステレオタイプに基づいていると指摘しています。こうした思い込みによって、問題を整理する方法が制限され、疑問点が狭められ、革新的なチャンスを得るための能力が抑制されるといいます。

 レポートでは、典型的な高齢者は存在しないと指摘しています。なぜなら高齢者の特徴は、非常に多様で、たとえば80歳の人のなかには20歳の若者に匹敵するレベルの肉体的・精神的能力をもっている人もいる。できるだけ多くの人を、このようなプラスの軌道に乗せられるようなかたちで、政策の枠組をつくる必要があるとしています。また、その政策は、高齢者の持続的な社会参加と社会貢献を阻むような多くの要因を打ち壊すのに役立つものでなくてはならないというのです。

 そこで重要になるのがレポートで示されている、「高齢者への出資は投資でありコストではない」という視点です。そして、「高齢者は社会のお荷物」とする考え方は差別的だと断じています。レポートでは、高齢者が社会のお荷物ではない例として英国の調査を紹介しています。この調査によれば、高齢者にかかる医療費や年金などの社会保障の負担よりも労働による生産高のほうが多く、差し引きすると高齢者の経済貢献度は約400億ポンドのプラスになると試算しています。

 しかし、高齢化が進む先進諸国では、医療や介護などの費用負担が強調されるあまり、高齢者の社会貢献度が過小評価されているのが実情です。このため「高齢者に対する固定概念を改め、コスト削減の努力を止めて高齢者の活動を支える投資にもっと注目すべきである」というのがレポートに示された提言の中心です。

 一方、日本の社会に目を転じると、逆向きのベクトルとなっている点は否めません。身体的機能は低下するのは当然としても、healthy ageing(健康な高齢化)とは単に“病気でない状態”ではありません。住み慣れた環境で高い機能性を維持しながら幸福に生きていけるように、元気な高齢者をつくっていく。従来の疾病モデルではなく、機能性モデルをベースにすべきであるというのがWHOレポートの提案なのです。

(つづく)
【取材・文・構成:吉村 敏】

<プロフィール>
中村 丁次(なかむら・ていじ)

 1948年生まれ、山口県出身。徳島大学医学部栄養学科卒、医学博士(東京大学)。聖マリアンナ医科大学病院を経て、2003年から神奈川県立保健福祉大学教授、11年から同学長に就任。(公社)日本栄養士会会長、日本栄養学教育学会理事長、日本臨床栄養学会副理事長、日本栄養・食糧学会評議員、厚生労働省「日本人の長寿を支える『健康な食事』のあり方に関する検討会」座長など。日本静脈経腸栄養学会名誉会員、聖マリアンナ医科大学内分泌代謝学客員教授。

 主な著書:「からだに効く栄養成分バイブル(最新改訂版)」(主婦と生活社)、「身体診察による栄養アセスメント 症状・身体徴候からみた栄養状態の評価・判定」(第一出版)、「食生活と栄養の百科事典」(丸善)、「子供の肥満を防ぐ100のレシピ」(成美堂出版)ほか多数。

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