2024年04月19日( 金 )

シェアリングオフィス事業「We Work」の企業価値暴落(後)

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日韓ビジネスコンサルタント 劉 明鎬 氏

 「We Work」の強みは通常のビル賃貸業者よりも運営コストが低いということと、新しい拠点の立ち上げから、利益を出すまでの期間が短いということだった。今年で設立9年目を迎える「We Work」は毎年売上高を2倍に伸ばしてきたが、それと同時に、費用も増加しただけでなく、先行投資も必要なので、損失が膨らむことになった。

 昨年「We Work」の売上高は18億ドルを計上したものの、損失も16億ドル計上している。「We Work」は多額の資金調達を行い、凄まじい勢いで拠点・オフィス面積を増加させてきているが、損失額もそれに付随して増加しているわけだ。

 「We Work」についての数字を詳しくみると、2017年の上半期にはオフィス運営費用が、全体の売上高の80%を占めている。2016年の99%に比べると低くなったものの、依然として費用の比率が高すぎる。

 営業、マーケティング、開発などほかの費用を全部入れると、費用合計は全体売上高の190%となっている。「We Work」の事業は収益性がないのではないかと疑われている所以である。

 一時期、不動産業界のウーバーと呼ばれ、企業価値は470億ドルとされていた「We Work」だが、莫大な赤字額が明るみになり、企業価値は一夜にして100億ドル近く暴落する羽目になった。「We Work」の3年間の累積損失額は、何と30億ドルに達する。

 昨年は16億ドル損失し、今年は上半期だけで、すでに6億9,000万ドルの損失を計上している。このような損失は、事業の構造的な問題に起因するので、当初から予見できたという向きもある。

 「We Work」のビジネスモデルは会員にサブリースをして、賃貸料を受ける以外に、別に収益がないことが問題であるようだ。「We Work」の実態は不動産賃貸業に過ぎないのに、時代を変えるような革新的な企業であるかのように宣伝された感は否めない。それに、投資が先行するビジネスモデルなので、投資をして物件を先に確保しない限り、会員に賃貸できない。事業を拡大すればするほど、初期はどうしても赤字額が膨らむ事業モデルなのだ。

 「We Work」は現在の状況を、大々的な構造調整で乗り切ろうとしている。数千名の社員のリストラ、関連性の少ない事業の売却、アダム・ノイマン前CEOの贅沢品の処分などを発表している。ところが、一連の流れを受けて、格付け会社S&Pは「We Work」の格付けを引き下げている。 一方、商用業不動産の最大の借り手であった「We Work」の凋落で、商業用不動産業界は悪影響が出ないか戦々恐々している。貸主にとっても「We Work」は悩みの種となっており、「We Work」の破産を心配し、契約を解約するところまで出ている。

 「We Work」に最も多額の投資をしているソフトバンクもジレンマに陥っている。「We Work」を支援しないと、「We Work」は破産するだろうし、投資するとしても、いくら投資すれば、事業が安定するのかが見えない。一企業の企業価値暴落がこれほどまでに大きな波紋を起こすとは意外といえば意外である。今後の展開から目が離せない。

(了)

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