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2019年11月12日 09:30

孫正義氏は「裸の王様」になったのか?~「投資判断がまずかった」と懺悔(後)

軍師第2号は北尾吉孝氏

 ソフトバンクは1994年7月に株式を店頭公開した。孫氏36歳の時だ。野村證券がソフトバンクの株式公開を担当した。その縁で野村證券の事業法人三部長をしていた北尾吉孝氏は孫正義氏と知り合い、スカウトした。

 当時、ソフトバンクは店頭公開したばかりのベンチャー企業に過ぎない。将来を嘱望されている野村證券を辞めて、北尾氏はなぜソフトバンクに転職したのか。北尾氏は後年、こう語っている。

 〈私の生き方は、“任天・任運”、つまり自分の人生における進路は運に任せ、天の導きに任せることにしています。転職についても、私が野村證券を離れる95年に孫正義さんから「1分間時間をください」と言われ、「北尾さんが来てくれたら、ソフトバンクは飛躍できるのです」と直々に話があったことがきっかけでした。こちらから選んだわけではありません。

 その申し出から10日間、調べる限り孫正義という人間、ソフトバンク、そして、その業界についてあらゆる情報を調べ、彼が稀有の経営者であること、そしてインターネットビジネスが伸びると確信して、転職を決めました〉(「ダイヤモンドオンライン」2011年10月14日付)

 1995年、北尾氏はソフトバンクの常務取締役に就任した。

 ウィンドウズ95が発売された1995年は、日本におけるインターネット元年であった。北尾氏はCFO(最高財務責任者)としてソフトバンクの成長のための資金を合計で4,800億円調達した。店頭公開したばかりの企業の資金調達としては信じられないぐらいの多額な資金だった。

 軍資金を手にした孫氏は、次から次へと企業の買収に突き進んだ。「無茶な投資である」と証券アナリストから叩かれたが、それこそガンガンやった。しかし、借金まみれとなって銀行に見放された。その結果、株価は暴落。倒産の危機に瀕した。

 この時、神風が吹いた。世界中でインターネット旋風が吹き荒れた。孫氏は、インターネット時代がやってくることを予感して、米ヤフーと共同出資でネット検索会社のヤフーを、日本にも設立した。そして、孫氏が予想した通り、IT(情報技術)バブルがやってきた。

 孫氏はITバブルの寵児となった。資金調達のプロである北尾氏を軍師に招いたことで達成したものであった。ITバブル崩壊後、ソフトバンクを去った北尾氏は、現在、ベンチャーキャピタル最大手SBIホールディングスの社長だ。

「軍師 官兵衛」は笠井和彦氏

 ITバブル崩壊後、孫氏は「昔から通信事業をやってみたかった」と言って通信業者に転身した。このステージの軍師を務めたのが、笠井和彦氏である。

 笠井氏は銀行界では「為替の神様」といわれた。富士銀行(現・みずほ銀行)副頭取、安田信託銀行(現・みずほ信託銀行)会長を務めた。東大閥が幅をきかす取締役会で、香川大学出身の笠井氏は異色な存在だった。笠井氏が率いる為替ディーリング部隊が富士銀の利益の大半を稼いだこともあった。

 定年退職後の2000年、ソフトバンクの取締役に就任。「富士銀行の副頭取までやった人間がいく会社じゃない」。笠井氏の転職は、銀行界で物議をかもした。勝負師は勝負師を知るという。若き勝負師である孫氏に共鳴したのが、誘いを受け入れた理由といわれている。

 孫氏から三顧の礼で迎えられた笠井氏は「結果を出さないと社会から評価されない」として業績を重視。孫-北尾時代の投資拡大路線に決別。ナスダック・ジャパンから手を引き、あおぞら銀行株を売却。ネットと通信に投資先を絞り込んだ。

 孫氏は2000年以降、04年の日本テレコム買収(3,400億円)、06年のボーダフォーン日本法人買収(1兆7,500億円)、12年の米スプリント・ネクステル買収(1兆8,000億円)など、巨額買収を手がけた。笠井は、その軍師として「錬金術師」といわれる手腕を見せた。銀行団をまとめて協調融資で資金を調達した。社債で調達すると、株価に左右されるためリスクが高くなるからだ。笠井氏は根っからの銀行マンで、証券マンではなかった。

 軍師、笠井氏の最後の大仕事は、孫氏が世界一の携帯電話会社になる野望に向けて大勝負に出たスプリントの買収である。米政府の認可などが出る前の12年秋に、買収資金の為替を予約。周囲が不安視するなか、「絶対に円安が進む」と断言して、1ドル=82円20銭で買収資金を集めた。13年1月の発表時に2,000億円程度の為替差益が出るとの見立てだった。その後、さらに円安が進み、3,000億円の為替差益をもたらした。市場関係者は「絶妙のタイミング、見事だ」と感嘆した。伝説のディーラーの相場感が冴えた。

 笠井氏は2013年10月、76歳で死去。孫氏が人前で泣いたのは、この時だけだ。

 笠井氏がいなければ、今のソフトバンクはなかった。

 ソフトバンクグループは新しいステージに移り、携帯電話会社から投資会社へと大変身した。投資で失敗したのは、シェアオフィスの米ウィーカンパニーだけではない。配車サービスの米ウーバーテクノロジーズやビジネス対話アプリの米スラック・テクノロジーズなどの出資企業で株安が進行した。

 株価に左右される投資を笠井氏ならどう見ただろうか。だが、「軍師 官兵衛」と称された笠井氏はいない。

 孫氏には発展段階ごとに、しっかり、助言できる人が側にいた。今の孫氏には、軍師がいないのではないか。取り巻きの連中は、異議を唱えずに褒めそやすだろう。それは危険だ。株高を求めて投資を拡大する孫氏は「裸の王様」になる恐れがある。孫氏にとって最大の危機だ。

(了)
【森村 和男】

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