2024年04月25日( 木 )

鹿島建設が犯した大罪(中)

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鹿島建設が下請業者を相手取り損害賠償請求

 鹿島建設は、調停において「管理組合に対し法的責任を負わない」と主張していた一方で、下請業者の栗木工務店に対し損害賠償を求める訴訟を提起していた。(平成19年(ワ)第665損害賠償請求事件。原告:鹿島建設、被告:栗木工務店)

 この裁判において、鹿島建設は指摘した栗木工務店の重過失を下記のように指摘している。(同事件鹿島建設側第4準備書面より)

 「被告(栗木工務店)が行った工事の瑕疵は、かぶり厚の著しい不足(建築基準法20条・建築基準法施行令74条違反)社会通念上当然請負業者に要求される施工上の注意義務である下地の清掃、湿潤の上でのモルタル施工、塗装剤吹き付けの際の下地の乾燥確認義務等、請負業者として当然に要求される注意を払えば容易に防げたはずの瑕疵であり、被告(栗木工務店)の重過失に基づくことは明らか」

 また、鹿島建設はレベルの低い施工を認め、図面通りの施工が行われていないという疑念も述べている(同事件鹿島建設側第9準備書面より)

 「鹿島建設の木村統括部長(当時)は『写真を見てわかるように非常に品質が悪く、設計書どおりの工事が行われていないのではないかとの疑いもある』と述べた」

 鹿島建設が提出した証拠には、
「鉄筋かぶり0mm:鉄筋かぶり厚の著しい不足・不存在」
「コンクリート中性化の著しい進行:最大値64mm」
「鉄筋のかぶりが少ないため、コンクリートの中性化とともに鉄筋に錆が発生し、その錆が膨張してひび割れを生じさせている」
「鉄筋のかぶり厚不足、鉄筋の錆・膨張がコンクリートを押し上げ爆裂を生じさせた」 
「コンクリート躯体内部に不純物混入、コンクリートのひび割れ、爆裂・落下、中性化、空洞、浮きなどが発生している」
「コンクリート片の落下が見られ、居住者の安全を損なう重大な欠陥」
「コンクリートの中にゴミが混入しており品質管理がずさん」などと信じられない事実が列記されている。

コンクリートの管理の品質管理がずさん

外部階段と建物本体を接続する重要な梁が施工されていない

 調停が不成立となった後、平成26年6月には、区分所有者92戸のうち58戸が原告となり 鹿島建設に建替え費用を求める損害賠償請求訴訟を提訴した。鹿島建設は下請業者である栗木工務店との裁判においては「非常に品質が悪く、設計書どおりの工事が行われていないのではないかとの疑いもある」などと主張していたが、区分所有者から訴えられるや主張を一転し「図面どおりの施工を行っている」と強く主張した。

 しかし、この裁判において「鹿島建設は図面に明記された重要な梁を施工していない」という驚愕の事実が明らかにされたのである。

 この驚愕の事実について鹿島建設は施工ミスを認めるどころか、「図面どおりに施工されていなくても安全性に問題はない」と傲慢にも開き直った。この梁は外部階段と建物本体を接続する重要な役割をもった構造部材である。もしこの梁の施工を省くのであれば、建築確認の手続きとしての「設計変更」が必要となる。

 「梁を省略しても構造上の問題がないこと」を設計者が建築関係規定に照らして検討を行い、法令基準への適合・構造上の安全性を確認したうえで、建築確認機関(この場合は久留米市)による承認を得た後でなければ設計変更の手続きは完了しない。しかし、このマンションの施工過程においてこの梁に関する設計変更の手続きは執られておらず、建築基準法に定められた建築確認変更手続きが行われていない違法建築物が建築主に引渡され、区分所有者が購入したこととなる。

図面で書かれている鍼が施工では省かれている。

 この外部階段は共用廊下の出隅部分の先端の厚みが薄い床のみでしかつながっていない。設計者の意図としては、厚みが薄い床による接続だけでは地震により外部階段が大きく揺られた場合に階段の倒壊も想定されるため、各階の梁で本体と接続することにより外部階段の倒壊を防ぐ目的であったと考えられる。

 幸いにも現在までに久留米地区において大地震が発生することはなく実際の被害は生じていないが、もし外部階段が倒壊すれば近隣の建物や前面道路にまで影響を与えることは間違いない。

 このような重要な役割をもち図面に明記されている構造部材を鹿島建設が意図的に施工しなかったことは、ゼネコンとして断じて許されない重罪であり、請負工事としては契約違反でもある。請負工事における契約違反は建設業法第28条違反となり、行政は違反した建設業者に対し1年以内の営業停止などの指示をすることができる。

区分所有者が鹿島建設を提訴

 調停が不成立となった後、平成26年6月には、区分所有者92戸のうち58戸が原告となり、鹿島建設に建替え費用を求める損害賠償請求訴訟を提訴した。この裁判は本年8月末の和解に至るまで5年以上の長期間におよんだ。

 裁判が長期間におよんだ原因はいくつか考えられる。設計の瑕疵と施工の瑕疵がそれぞれ多数あり、争点整理に時間を費やした。さらに、裁判長や陪席裁判官の異動による交代が何度も続いたことが争点整理を遅らせることになった。

 設計の瑕疵については、被告の設計事務所が技術的な部分について反論・主張を展開する能力に欠けていた。被告設計事務所の社長は、証人尋問において「このマンションの設計を行っていない。名前を貸しただけ」「工事契約書に工事監理者として会社の実印が押されているが社員が無断で実印を持ち出したものだ」「社員が工事監理のために現場に行っているが、社長である私の指示ではなく社員が勝手に現場に行った」などと詭弁を並べ、法廷内から失笑を買っていた。

(つづく)
【桑野健介】

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