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2019年11月25日 12:14

【小郡母子殺害事件】説得力を欠いた元警官の冤罪主張~裁判傍聴記

元福岡県警巡査部長の中田充被告(41)が妻子3人を殺害した罪に問われている裁判員裁判は、12月2日に福岡地裁で検察官の最終論告(求刑)と弁護人の最終弁論が行われて結審する。判決は12月13日。中田被告は「冤罪」を訴えているが、被告人質問では終始、たどたどしい話しぶりで、不自然な印象が否めなかった。元警官の被告人にとって、判決は厳しいものになりそうだ。

■現職警官による「妻子殺し」

中田被告の裁判が行われている福岡地裁

 昨夏に旧庁舎から移転したばかりで、まだ庁舎全体が真新しい福岡地裁。11月15日、第912号法廷に現れた中田被告は、グレーのスーツに白いシャツ、ノーネクタイといういで立ちだった。報道の写真や映像では短髪で精悍な雰囲気だったが、今は前髪が目にかかるまで伸び、随分やせていた。凶悪殺人犯にも元警察官にも見えない、弱々しい人物。それが中田被告の第一印象だった。

 事件発覚は2017年6月6日の朝だった。中田被告は当時、福岡県警の通信指令課に所属する警察官(起訴後に懲戒免職)。小郡市の2階建て一軒家で妻や2人の子どもと暮らしていた。

 「子どもが登校してこないと学校から電話があった」

 中田被告からそんな連絡を受け、「第1発見者」となったのは妻・由紀子さん(当時38)の姉だった。中田被告宅に赴くと、1階の台所で由紀子さんが、2階の布団の上で長男の涼介くん(同9)と長女の実優ちゃん(同6)が死んでおり、台所には練炭が置かれていたという。

 このように現場は一見、無理心中のような状況だったが、司法解剖で3人の死因は窒息死と判明。第三者が侵入した形跡がないため、福岡県警は中田被告が無理心中を装って3人を殺害したと断定し、逮捕した。

 それから2年余りを経て、11月5日から福岡地裁で行われている裁判員裁判。検察側は、中田被告が妻子3人の首を絞めるなどして殺害したと主張した。中田被告は同僚に「妻に死んで欲しい」と話すなど、由紀子さんと不仲だったという。

 対する中田被告は「間違いなく冤罪です」と無実を主張。それを後押しするように報道では、直接的な証拠はないと伝えられた。そこで、筆者は自分でも真相を見極めるため、中田被告の被告人質問の傍聴に赴いたのだった。

だが、結論からいうと、無罪判決が出そうな雰囲気は微塵も感じられなかった。

■報道と裏腹に揃っていた証拠

 まず確実にいえるのは、報道のイメージと裏腹に証拠が揃っていることだ。何しろ、冤罪を訴える中田被告自身が「証拠はほとんど私を犯人と認める方向に出ているのは理解しています」と言ったくらいだ。

 たとえば、中田被告は事件当日、出勤のために朝6時53分に家を出たことが判明しているが、解剖医は3人の遺体の所見を基に「朝6時半より前に死亡したのは確実」と証言。中田被告は「家を出る時、3人は寝ていた」と主張したが、検察官から「本当にそうなのか」と質されると、「生きていた……」とだけ言い、次の言葉が出てこなかった。そして長い沈黙の後、ようやく言葉を発したのだが――。

 「その……起きた時、生きてるか、死んでるかという確認は取らなかったんですけど……死んでるっていう状況ではなかったと……思いました」

 このように「はい」か「いいえ」で答えられる簡単な質問に対し、中田被告はたどたどしい話しぶり。不自然な印象は否めなかった。また、亡くなっていた由紀子さんの周囲にはジッポーライターのオイルがかけられていたが、中田被告の職場のロッカーからは同じジッポーライターのオイルの缶が見つかっていた。

 中田被告は「家でタバコを吸うと妻に怒られるので、ライターは職場に置いておいたんです」と釈明したが、検察官から「あなたの同僚は、あなたがターボライターを使っていたと証言している」と指摘されると、「ジッポーライターは……」と言い、何やらモゴモゴと聞き取れない声で言った。そして結局、「普段持ち歩いていたのはターボライターでした」と認めざるをえなかった。

 さらに、由紀子さんの手の爪からは中田被告のDNAが検出されており、中田被告は事件後、両手に傷を負っていた。法廷では、左手の傷について「事件の前日、風呂上りに妻に叩かれたのがそうだったのかもしれない」、右手の傷については「5年、10年くらい前からある傷です」などと釈明したが、この時も声は小さく、たどたどしい話しぶりだった。

■「妻に叩かれていた」と訴えたが

 では、中田被告に妻子を殺す動機があったのか。中田被告はこの点について、由紀子さんと不仲で離婚の話が出ていたことや、いつもパチスロをして帰宅が遅く、家に帰らずにネットカフェなどに泊まることもあったと認めた。一方で、普段から由紀子さんによく叱責され、子どもたちの前で叩かれたりしていたと説明し、「家に帰るのが遅かったり、外泊したりしていたのは、妻に暴力をふるわれるのを子どもに見せたくなかったからです」と主張した。

 中田被告がそんな話をしたのは、自分の正当性を訴えたかったのだろう。だが、由紀子さんのことを悪くいうほどに「やはり妻を殺す動機があったようだ」という印象になっていた。一方、検察官によると、中田被告は大学時代からパチスロが好きで、そのために留年したと周囲に話していたという。検察官がそのことを指摘したうえ、「家に帰らなかったのは、パチスロで遊びたかっただけではないか」「あなたが休みの日に子どもを遊びに連れ行くなどしていれば、由紀子さんは怒らなかったのではないか」と追及すると、中田被告はまた答えがしどろもどろになった。

 「まあ、子ども……習い事以外に、子どもに自由な時間というか……あまり、出られる時間はなく……いっさい学校の友達と出られる時間はなかったので、習い事以外の時間は、家で……勉強をしてましたし……」

 とにかく質問に端的に答えず、話す内容が曖昧。中田被告は終始そういう調子だった。

■裁判長の質問に沈黙

 検察官の質問終了後、裁判員と裁判官も中田被告に質問した。だが、事実関係に関する質問はなく、家族への思いを確認するような質問ばかりだった。

裁判員7番(男性)「犯人に対しての気持ちを教えてください」
中田被告「もちろん……憎いというか……気持ちはあるんですけども……普段は……なんで……」
裁判員5番(男性)「今、自由にどこにでも行けるとすれば、まず何をしたいですか?」
中田被告「……まずは家族の3人に……手を合わせたいというか……結局、現場でも……現場に立ち入ることができず……家族のために手を合わせたいと思います」
裁判員3番(男性)「もしも今、人生をやり直せるなら、どの時点に戻りたいですか?」
中田被告「……あの……子どもの成長に関しては……実優(※註=長女の名前)がいない……実優が成長していく中での……まあ……この答えが正しいかどうかはわからないですが……事件の前日くらいに戻って……この事件が起こらないようにできたかな……どこかでまあ……事件の前に戻りたいです」

 筆者は正直、中田被告のこうした言葉を聞いていて、「妻子を殺した濡れ衣を着せられた父親」が無実を訴えているようにはまったく思えなかった。そして何より印象的だったのは、紫原寿宏裁判長とのやりとりだ。

 「あなたにとって、家族とは何ですか?」

 柴田裁判長にそう聞かれ、中田被告はすぐに言葉が出てこなかった。そして長い沈黙の後、消え入りそうな声でこう言った。

 「自分の人生……中心というか……表現でしょうか……です」

 入稿時点では、検察官の最終論告における求刑は不明だ。しかし、検察官が死刑を求刑すれば、裁判員と裁判官は死刑を宣告しそうに思えた。

【片岡 健】

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