2024年04月25日( 木 )

民法改正で変わる時効期間 飲み屋のツケにも影響あり?

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岡本綜合法律事務所 代表 岡本 成史 氏
岡本綜合法律事務所 代表 岡本 成史 氏

 前回(民法改正で変わる 賃貸契約の保証人)は、およそ120年ぶりの大改正となる民法の債権関係に関する規定のなかから、賃貸借契約についてご説明いたしました。今回は、「消滅時効」についての改正点について解説いたします。

 消滅時効とは、債権者が一定期間権利を行使しないことによって、債権が消滅して請求ができなくなる制度をいいます。

 現行の民法では、原則として債権を請求できるときから10年で時効によって消滅するとしつつ、例外的に、職業別のより短期の消滅時効を定めています。「飲み屋のツケは1年しか請求できない」という話を聞かれたことがあるかもしれませんが、ほかにも工事の請負代金や設計料、医師の診療報酬などは3年、弁護士報酬などは2年、動産のレンタル料などは1年とされています。また、商法では、商行為によって生じた債権(商事債権)の時効期間は5年と規定されています。

 しかしながら、このような規定については、「職業別に期間を区別する合理的な理由がない」「複雑すぎてどの期間に該当するのか理解しにくい」などの批判もありました。そこで、今回の改正では、消滅時効期間について、より合理的でわかりやすいものとするため、職業別の短期消滅時効の特例も、商法による商事債権の定めも廃止され、時効期間が統一されることになりました。具体的には、原則として権利を行使することができることを知ったときから5年、または(権利を行使できることを知らなくても)権利を行使することができるときから10年間のいずれか早いときの経過によって、時効消滅することになりました。

 このように時効期間が統一されたことで、債権の管理がしやすくなります。

 また、現行民法では、不法行為に基づく損害賠償請求権(交通事故被害に遭ったときの賠償請求や自分の配偶者と浮気をした相手方への賠償請求など)は、損害および加害者を知ったときから3年、または不法行為のときから20年で権利を行使できなくなると定められています。

 この期間については、改正後も原則として変更ありません。しかし、人の生命・身体という利益は、財産的な利益などと比べて保護すべき度合いが強いことから、人の生命または身体が侵害された場合には特則が設けられ、損害および加害者を知ったとき(権利を行使することができることを知ったとき)から5年、または不法行為のとき(権利を行使することができるとき)から20年になりました。

 改正については、原則として、施行日より前に発生していた債権については改正前の民法(現行法)が適用され、施行日後に発生した債権には改正後の新しい民法が適用されます。もっとも、生命または身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効の期間については、施行日の時点で改正前の民法による不法行為の消滅時効が完成していない場合には、改正後の新しい民法が適用されることになっているなど、少々複雑です。そのため、改正後しばらくの間は、債権管理も複雑になりますので、十分ご留意ください。

<プロフィール>
岡本 成史(おかもと・しげふみ)弁護士・税理士

1971年生まれ。京都大学法学部卒。97年弁護士登録。大阪の法律事務所で弁護士活動をスタートさせ、2006年に岡本綜合法律事務所を開所。経営革新等支援機関、(一社)相続診断協会パートナー事務所/宅地建物取引士、家族信託専門士/岡本綜合法律事務所 代表

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