2024年03月29日( 金 )

ピンチに立たされている韓国の保険業界(前)

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日韓ビジネスコンサルタント 劉 明鎬 氏

 生命保険の場合、保険商品が販売され、保険会社が保険料を受け取ると、その保険料は、会社を経営する経費となったり、将来の保険金等の支払いに備えた積立金となったり、運用資産の財源となったりする。

 したがって保険会社は、当初顧客に約束した予定利率より高い収益を上げるか、それとも当初の予定より保険金の支払いが少なくなるか、もしくは経費を削減することによって、収益を確保できるようになる。ところが、経済環境が低金利、低成長、低出産の時代を迎え、保険会社にはこれまで経験したことがないほどの逆風が吹き荒れている。

 1960年代~1980年代は韓国経済の成長とともに保険産業も飛躍的に成長した。1980年代の後半から1990年代にかけて、韓国の保険市場は外国企業にも開放されることとなり、外国の保険会社が韓国の保険市場に参入できるようになった。さらに、保険商品の設計や価格に関する規制も、大幅に緩和され、自由競争の時代となった。2000年代になると、生命保険会社と損害保険会社の年平均成長率がそれぞれ7.5%、12.7%を記録するなど、保険業界の成長は続いた。

 持続的な市場の成長により、韓国の保険市場は、全世帯の98.4%が1つ以上の保険に加入するような状態となった。保険料の総額は201兆ウォンに上り、韓国の保険産業は、金額ベースでは、世界7位になるほど、市場が成長した。ところが、経済状況が悪化し、低成長が当たり前の時代になったり、低金利、低出産が定着するようになったりすると、保険の需要は減少に転じ、保険会社の最も大事な収益源の1つである資産運用も、低金利で逆ザヤになるような厳しい状況が訪れ、韓国の保険業界は危機に立たされるようになった。

 数年前から新規加入者の保険料総額が急激に減少しているだけではなく、すでに加入した顧客が毎月支払う保険料までもが減少に転じている。それに、低金利時代になったことで、予定利率が下がり、その結果、保険料の上昇につながっている。

 保険料の上昇は、飽和状態の市場で、保険の営業をより一層難しくする。さらに、予定利率の上昇は、積立金の増額を引き起こし、保険会社の財務状況を圧迫する要因となる。そのような流れを受けてか、損害保険会社の今年の第一四半期の当期純利益は、前年対比で18.4%も減少している。昨年にも前年対比で17.8%減少していたが、その流れに歯止めがかかっていない。生命保険会社も状況は似たり寄ったりである。新規加入者の保険料額は2015年は18兆3,186億ウォンであったが、昨年には10兆9,026億ウォンとなり、3年間で40.5%も急減している。

 このような状況下で、韓国政府は保険会社に対して資本金の増強を求めている。2022年からは保険会社に新しい国際会計基準であるIFRS17が導入されることになっており、保険会社は資本金を増やさないといけなくなっている。新しい会計基準が適用されると、負債の評価基準が簿価から時価に変わることになるからだ。そうなると、過去高い金利を約束して販売した保険商品の場合、低金利時代に合わせて評価するとなると、保険会社の負債額は大幅に増加し、保険会社は資本金を積まないといけなくなる。

(つづく)

(後)

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