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2020年01月29日 16:46

ソフトパワー戦争に突入したアメリカとイラン 日本は仲介役をはたせるのか?(5)

国際政治経済学者 浜田 和幸 氏

北京で展開されるイランキャンペーン

 そうしたトランプ大統領に対しドイツもフランスも手を焼いている。アメリカに拠点を構える「ドイツ・マーシャル・ファンド」のコレット上級顧問曰く「ヨーロッパはトランプ大統領に愛想をつかしている。アメリカ軍が中東から撤退したとしても、トランプ大統領が要求するようにヨーロッパが穴埋めをする保証はない」。

 要は、自分で導火線に火をつけるような核合意からの離脱を宣言し、イランとの対立を激化させておきながら、そのツケをヨーロッパに回すようなトランプ流には同意できない、ということだ。ソレイマニ司令官の暗殺直後、アメリカのポンペオ国務長官は「電話外交」に終始した。ヨーロッパやアジアから孤立することを避けようとし、アメリカがソレイマニ司令官の殺害に至った経緯を説明するためであった。

 中国から始め、イギリス、ドイツ、フランス、ロシア、パキスタン、アフガニスタン、サウジアラビア、イラク、トルコ、イスラエル、カタール、バーレーン、アラブ首長国連邦、ウクライナ、ベラルーシ、インド、そして国連の責任者に電話をかけまくった。そして各国に応分の責任分担を求めたのである。なぜ、中国に最初に電話がかけられたのか?筆者はその時点で北京にいたため、その理由を理解できた。

 実は、中国はイランがアメリカとの緊張関係に陥り、経済制裁の影響で国民生活が苦しくなっていた。その窮状を救うべく、中国政府はイラン原油の輸入を拡大し、今やイラン原油の最大の購入国になっている。習近平国家主席の進める「一帯一路」構想にもイランを取り込もうとさまざまな働きかけを強める一方というわけだ。その一環として、1月24日から始まる「春節」の休暇を利用して海外に出かける中国人をイランに呼び込もうという勧誘活動を徹底的に進めている。21日間のビザ免除も打ち出した。「アメリカに行くよりイランが安全で楽しめる」といったキャンペーンを北京にあるイラン大使館が展開している現場を目の当たりにした。

 何しろ、北京にあるイラン大使館の広報活動はソフトパワー全開といった状況である。折しも米中間の貿易摩擦が激化しており、中国人の多くはアメリカのトランプ政権の対中関税攻勢に憤っている。そうした中国人のメンタリティーに巧みに働きかけているわけだ。

 イラン大使館のサイトには中国人への支援に感謝するコーナーが設けられている。そうしたイラン大使館のフォロワー数もうなぎ上りだ。イラン危機が勃発すると、毎週その数は20万人単位で増えている。水面下では中国とイランの関係は太くなる一方のようだ。アメリカとしても中国の影響力は無視できないということであろう。

 ところが、対照的に日本はまったく無視されてしまっている。この期におよんで日本は蚊帳の外というわけだ。その理由はすでに述べた通りである。にもかかわらず、安倍首相は1月11日から15日の予定でサウジアラビア、アラブ首長国連邦、オマーン3カ国の歴訪に出発。日本らしい「平和外交」を目指すという。もし、本気でイランとアメリカの仲介役をはたす覚悟があれば、今こそ、イランを再訪すべきであろう。それをせず、何ら切り札もなく、周辺国を夫人同伴でなぞるような姿勢では、とても「平和外交」とはいえない。アメリカからもイランからもますます信頼を失うことは目に見えている。

(了)

<プロフィール>
浜田 和幸(はまだ・かずゆき)

 国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。最新刊は19年10月に出版された『未来の大国:2030年、世界地図が塗り替わる』(祥伝社新書)。2100年までの未来年表も組み込まれており、大きな話題となっている。

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