• このエントリーをはてなブックマークに追加
2020年01月23日 15:30

【検証】「ゴーン国外脱出」~菊池弁護士の誤解説

 関西テレビに菊池弁護士(司法研修所刑事弁護教官経験者)が出演し、今回のゴーンの国外脱出について法律解説をした。弁護士の誤解説には弁護士が反論すべきだが、日本の弁護士は互いを尊重して謬論が世間に流布されても見て見ぬふりする。これが、法曹の談合、村社会と呼ばれる、国民無視の法曹の体質である。

 弁護士が反論しないので、町の爺さん(筆者)が反論する。

誤解説(1)

 菊池弁護士は本当に司法研修所の刑事弁護教官だったのか、と驚いた。ゴーンに犯人隠避罪の教唆罪が成立する可能性があると解説した。逃亡を手助けしたプロ集団が犯人隠避罪に該当し、ゴーンはその犯人隠避行為を「そそのかせた」からであるという。

 菊池弁護士の論理の大前提が、当該プロ集団に犯人隠避罪が成立することは自明のこととなっている。素人は犯人隠避罪の犯罪構成要件については正確に何も知らないので、こんな暴論を平気で世間に流布させるのだろう。論より証拠で、まず犯人隠避罪の条文を示す。

刑法第103条

 罰金以上の刑に当たる罪を犯した者又は拘禁中に逃走した者を蔵匿し、又は隠避させた者は、3年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する。

 この条文で解釈上問題となるのは「罰金以上の刑にあたる罪」「罪を犯した者」「蔵匿」「隠避」の意味である。

 ゴーンには今回の入国管理法違反とすでに起訴されている金商法違反と会社法違反の3つの法律違反罪が考えられるが、ゴーンが明らかに無罪を争っているのはあと2者で、出国審査をうけないで出国したことは明白で、入管法違反は記者会見でも罪を認めていた。

 そこでまず、入管法違反罪についてプロ集団者に「蔵匿」「隠避」が成立するかである。つまり、プロ集団者についてゴーンが入管法違反者の認識があったかどうかであるが、これは手助けの方法が通常の運搬方法ではなく、隠蔽手段であったことから、認められる。

 問題は出国後、ゴーンが雲隠れするのか、どう行動するかまでは知らないから最終的にゴーンを「蔵匿」ないし「隠蔽」する故意はなく、単に逃走を幇助したものであり、「蔵匿」「隠避」の行為は存在しない。現に、ゴーンは世界にむけてその所在を明らかにしており、「蔵匿」「隠避」の状態になく「蔵匿」「隠避」事実そのものが存在しない。

 金商法違反と会社法違反の罪については無罪を主張し、裁判中であるから、「罪を犯した者」にさえ該当しない。ただし、判例は起訴された者を含むとするが、裁判の結果、無罪となる場合にはとんでもない結果になることは明白であるから、折衷説は「真犯人」である場合とする。「真」が付いた理由は、四囲の事情から明かに有罪である場合、つまり無罪となることが条理や経験則であり得ないと判断できる場合は、被告人も含まれるとする。ゴーンが明らかに有罪となる場合かどうかは不明だから、まだ「真犯人」ではない。

 学説は、厳格に解することが市民保護に必要だから、裁判で有罪と確定した場合に限るとする。隠避者を処罰するのはそれからでも遅くはないから、学説が正当である。

誤解説の(2)

 菊池弁護士は、世間の「裁判が開かれない」で終わっている議論を一歩すすめた意味ではほかの無責任議論よりはましである。しかし、筆者が指摘していた「一番阿呆な」法的判断をした。「裁判手続は停止され、ゴーンが出頭できるまで待ち続ける」という結論である。

 これは、実は菊池弁護士は本件の事例を想定して規定された条文がないことを知って、かつ、既存の法令に違反しない結論を選択した。しかし、やはり、重大な法令違反があることを多分知って出した結論である。

 何が重大な法令違反かといえば、公判手続きの停止が認められる場合の法律要件は、まず、「期日の指定後であること」次に停止できる期間は、「出頭不能の事由が解消するまで」であること、だからである。本件はまだ期日の指定すらない段階であり、公判手続きの停止を規定する刑訴314条2項の適用はあり得ない。しかも、裁判所がゴーンの再入国を待ってしか裁判を進行させなければ、一層、ゴーンが再入国することはない。裁判進行の責任が主客転倒である。

 菊池弁護士の論理では、裁判所は被告人の不出頭を理由に永久に裁判をしなくてもよいとする結論だから、これではまるで、民事裁判の法理である。国家の刑罰権の行使としての適正遂行義務をまったく無視した理論である。司法研修所の刑事弁護教官としては明らかに勉強不足である。

 菊池理論の誤りの原因は、刑訴法273条2項の被告人の出頭規定の不理解にある。被告人が出廷しなくても弁護人が選任されていれば、公判手続きの進行にまったく問題はない(刑訴法284条)。そうであれば、刑訴法273条2項の法意は被告人に欠席裁判を回避する権利を認めた出頭の権利規定であり、出頭義務規定ではない。従って、被告人が自ら出頭の権利を放棄したにすぎない国外脱出は、裁判停止の理由にはならないのは明白である。

▼関連リンク
【検証】「ゴーン国外脱出」~「ゴーンは日本の刑事裁判から逃げた」との論評について
【検証】「ゴーン国外脱出」~明白な陰謀の証拠
【検証】「ゴーン国外脱出」~前後する二つの「陰謀」
【検証】「ゴーン国外脱出」~日本人には理解されない密出国罪の本当の意味

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

     

トップニュース

2020年09月19日 07:00

WITHコロナで柔軟対応戦略を展開NEW!

 「コロナ襲来でこんなに社会活動が規制されることを想像したこともなかった」と諸藤敏一社長が溜息をつく。しかし、立ち止まることはない...

2020年09月19日 07:00

【凡学一生のやさしい法律学】香港で起きていること~国家統治の基本となる三権分立(前)NEW!

 国の政治状況には、騒乱期と安定期がある。騒乱期には政治的争点は直ちに露見され、騒乱を激化させる。一方で、安定期には本来であれば政治的争点となる「不都合な真実」を支配...

2020年09月18日 17:48

【9/18~30】カイタックスクエアガーデンがスイーツなどのポップアップショップをオープン 新たなカルチャー発信を目指す

 「カイタックスクエアガーデン」は本日から、ポップアップショップやプロモーション拠点などとして利用できる「ワスクポケットショップ」をオープンさせた。

2020年09月18日 17:22

小田孔明選手らが豪雨被災地に義援金~復興への願い込めアスリートが数百点のグッズを無償提供

 九州出身のプロゴルファーの小田孔明選手らは、7月の豪雨で甚大な被害を受けた九州の3都市(福岡県大牟田市、熊本県人吉市、鹿児島県鹿屋市)に義援金を届けた。被災地が悲惨...

2020年09月18日 17:15

【書評】岡田勢聿の『自立論』~自らのチカラで生き抜く思考法

 青少年の自立支援を行う(一社)自立研究会は、コロナ禍で安定雇用の崩壊が深刻化するなか、いかにして自らのチカラで生き抜くのかということを主題にして、実業家・岡田勢聿氏...

2020年09月18日 17:07

医者の診断を断って、AI診断へ切り替えよう

 肺がんに罹患している友人A氏の証言を紹介しよう...

2020年09月18日 17:00

コロナで綱渡りの百貨店 高い損益分岐点、収益大幅悪化は必至

 コロナ下で百貨店が綱渡り経営を続けている。博多大丸以外は損益分岐点比率が高く、岩田屋三越とトキハ、井筒屋は95%を超え、山形屋は105.0%で、わずかな減収で赤字に...

2020年09月18日 16:52

地銀の経営統合~「待ったなし」を検証する(後)

   【表1】を見ていただきたい。47都道府県の地銀の状況表である。 ~この表から見えるもの~ ◆全国47都道府県にある地銀は、第一地銀64行、第二...

2020年09月18日 16:45

新型コロナワクチンの開発に成功したと豪語するプーチン大統領と世界の反応(後)

 とはいうものの、「スプートニクV」に限っていえば、すでに触れたように、あまりにも少ない治験データであり、その効果の程は「神のみぞ知る」といったところかもしれない...

2020年09月18日 16:30

ユニバ裁判、創業者の控訴が棄却に

 パチンコ・スロットメーカー大手、(株)ユニバーサルエンターテインメントは、17日、同社の創業者で、元取締役会長・岡田和生氏との裁判において、岡田氏の控訴が棄却された...

pagetop