2024年03月29日( 金 )

【検証】「ゴーン国外脱出」~菊池弁護士の誤解説

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 関西テレビに菊池弁護士(司法研修所刑事弁護教官経験者)が出演し、今回のゴーンの国外脱出について法律解説をした。弁護士の誤解説には弁護士が反論すべきだが、日本の弁護士は互いを尊重して謬論が世間に流布されても見て見ぬふりする。これが、法曹の談合、村社会と呼ばれる、国民無視の法曹の体質である。

 弁護士が反論しないので、町の爺さん(筆者)が反論する。

誤解説(1)

 菊池弁護士は本当に司法研修所の刑事弁護教官だったのか、と驚いた。ゴーンに犯人隠避罪の教唆罪が成立する可能性があると解説した。逃亡を手助けしたプロ集団が犯人隠避罪に該当し、ゴーンはその犯人隠避行為を「そそのかせた」からであるという。

 菊池弁護士の論理の大前提が、当該プロ集団に犯人隠避罪が成立することは自明のこととなっている。素人は犯人隠避罪の犯罪構成要件については正確に何も知らないので、こんな暴論を平気で世間に流布させるのだろう。論より証拠で、まず犯人隠避罪の条文を示す。

刑法第103条

 罰金以上の刑に当たる罪を犯した者又は拘禁中に逃走した者を蔵匿し、又は隠避させた者は、3年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する。

 この条文で解釈上問題となるのは「罰金以上の刑にあたる罪」「罪を犯した者」「蔵匿」「隠避」の意味である。

 ゴーンには今回の入国管理法違反とすでに起訴されている金商法違反と会社法違反の3つの法律違反罪が考えられるが、ゴーンが明らかに無罪を争っているのはあと2者で、出国審査をうけないで出国したことは明白で、入管法違反は記者会見でも罪を認めていた。

 そこでまず、入管法違反罪についてプロ集団者に「蔵匿」「隠避」が成立するかである。つまり、プロ集団者についてゴーンが入管法違反者の認識があったかどうかであるが、これは手助けの方法が通常の運搬方法ではなく、隠蔽手段であったことから、認められる。

 問題は出国後、ゴーンが雲隠れするのか、どう行動するかまでは知らないから最終的にゴーンを「蔵匿」ないし「隠蔽」する故意はなく、単に逃走を幇助したものであり、「蔵匿」「隠避」の行為は存在しない。現に、ゴーンは世界にむけてその所在を明らかにしており、「蔵匿」「隠避」の状態になく「蔵匿」「隠避」事実そのものが存在しない。

 金商法違反と会社法違反の罪については無罪を主張し、裁判中であるから、「罪を犯した者」にさえ該当しない。ただし、判例は起訴された者を含むとするが、裁判の結果、無罪となる場合にはとんでもない結果になることは明白であるから、折衷説は「真犯人」である場合とする。「真」が付いた理由は、四囲の事情から明かに有罪である場合、つまり無罪となることが条理や経験則であり得ないと判断できる場合は、被告人も含まれるとする。ゴーンが明らかに有罪となる場合かどうかは不明だから、まだ「真犯人」ではない。

 学説は、厳格に解することが市民保護に必要だから、裁判で有罪と確定した場合に限るとする。隠避者を処罰するのはそれからでも遅くはないから、学説が正当である。

誤解説の(2)

 菊池弁護士は、世間の「裁判が開かれない」で終わっている議論を一歩すすめた意味ではほかの無責任議論よりはましである。しかし、筆者が指摘していた「一番阿呆な」法的判断をした。「裁判手続は停止され、ゴーンが出頭できるまで待ち続ける」という結論である。

 これは、実は菊池弁護士は本件の事例を想定して規定された条文がないことを知って、かつ、既存の法令に違反しない結論を選択した。しかし、やはり、重大な法令違反があることを多分知って出した結論である。

 何が重大な法令違反かといえば、公判手続きの停止が認められる場合の法律要件は、まず、「期日の指定後であること」次に停止できる期間は、「出頭不能の事由が解消するまで」であること、だからである。本件はまだ期日の指定すらない段階であり、公判手続きの停止を規定する刑訴314条2項の適用はあり得ない。しかも、裁判所がゴーンの再入国を待ってしか裁判を進行させなければ、一層、ゴーンが再入国することはない。裁判進行の責任が主客転倒である。

 菊池弁護士の論理では、裁判所は被告人の不出頭を理由に永久に裁判をしなくてもよいとする結論だから、これではまるで、民事裁判の法理である。国家の刑罰権の行使としての適正遂行義務をまったく無視した理論である。司法研修所の刑事弁護教官としては明らかに勉強不足である。

 菊池理論の誤りの原因は、刑訴法273条2項の被告人の出頭規定の不理解にある。被告人が出廷しなくても弁護人が選任されていれば、公判手続きの進行にまったく問題はない(刑訴法284条)。そうであれば、刑訴法273条2項の法意は被告人に欠席裁判を回避する権利を認めた出頭の権利規定であり、出頭義務規定ではない。従って、被告人が自ら出頭の権利を放棄したにすぎない国外脱出は、裁判停止の理由にはならないのは明白である。

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