2024年04月29日( 月 )

消費増税、売上不振に拍車~百貨店、構造不況から脱却の道は?

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消費増税、売上不振に拍車~百貨店 構造不況から脱却の道は?

 消費増税後、百貨店の売上低迷に拍車がかかっている。書き入れ時の昨年12月は前年同月比で福岡市4店(岩田屋、福岡三越、博多大丸、博多阪急)が4.4%減、福岡市を除く九州全体では9.9%減と大きく落ち込んだ。アパレル市場の縮小という構造要因に加え、増税で主力客層の中間所得層が節約志向を強めているのが響いている。ここにきての新型肺炎による中国人観光客の激減も影を落とす。三重苦、四重苦からの脱却の道はあるのか?

底が見えない売上減

 増税前の駆け込み需要による反動減から回復が遅れている。防寒衣料やコートなど値段の張る衣料の需要を先食いした上、主力顧客である中間所得層が財布のひもを締めているためだ。それでも福岡市4店の既存店売上は10月の13.6%、11月7.5%、12月6.6%とマイナス幅は縮小しているのに比べ、福岡市を除く九州では10月20.1%減、11月6.9%減から12月は減収幅が大幅拡大した。「底が見えない」という関係者の声が聞こえてくる。

 福岡市以外の地方百貨店の売上不振は深刻だ。2019年の年間売上高は福岡市地区が2,101億円と前年比1.0%減だったのに対し、昨年2月末コレット、同3月末岩田屋久留米新館と店舗閉鎖が相次いだこともあって2,584億円と7.5%減った。人口減と高齢化で市場が縮小、地域経済の疲弊も加わって、福岡市以外の地方百貨店売上は10年以上の長期減収が続いている。過去7年間では金額で711億円、率で21.6%縮んだ。福岡4店は博多阪急の開業効果で金額で162億円、率で0.8%増えた。

増税前の駆け込み需要にともなう反動減が長引いている
増税前の駆け込み需要にともなう反動減が長引いている
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大手アパレルが見放す

 百貨店不振の理由を挙げれば枚挙にいとまがない。最大要因はアパレル市場の縮小。ライフスタイルの変化で女性がブランド衣料にお金をかけなくなった。老若男女まで普段着はユニクロで間に合わせる。12月も衣料品売上は福岡地区で6.1%、九州全体で12.1%減った。

 アマゾン、ゾゾタウンやメルカリといったネット通販の台頭も影響している。当初は客層が違うと見られたが、需要層がキャリア女性に拡大し、無視できない存在になってきた。中央大手を含め、自社サイトで後追いを始めたが、出遅れ感は否めない。

 オンワード樫山は1昨年秋、国内外約3000店の売場の2割の約600店から撤退すると発表し、対象となりそうな地方百貨店に衝撃を与えた。オンワードなどアパレル大手は百貨店に販売員を派遣し、接客から販売・在庫管理を行ってきた。売上減の長期化で経費をまかなえなくなり、採算の悪い売場から手を引き始めた。実施されると百貨店は自社でやらなければならなくなる。

 地方百貨店は限られた市場で大型商業施設と競争しなければならない。トキハは「JRおおいたシティ」に、山形屋はJR鹿児島中央駅前の「アミュプラザ鹿児島」に客を奪われている。鶴屋百貨店の近くには昨年9月、「サクラマチ クマモト」が開業、2年後にはJR熊本駅前にも大型商業施設ができる。

 今年も需要回復は望み薄と言わざるを得ない。韓国人旅行客が日韓関係の悪化で下降していたところに新型コロナウイルスの発生で中国人客の激減が避けられない。インバウンド消費は福岡市百貨店の売上高の5~7%を占め、売上不振を下支えしてきた。

 博多阪急の第3四半期(2019年4~12月)売上高は増税の影響とインバウンド不振が原因で0.3%の減収になった。客数も1.1%減だった。下期は前年同期比1.6%減と開業以来、初めてマイナスになる。

負の連鎖を断つ

 昨年2月井筒屋がコレット、3月岩田屋三越が久留米店新館と本店の3フロア以外から撤退した。コレットの閉鎖は100万都市でも複数の百貨店が成り立たなくなったことを示す。井筒屋は閉店予定だった黒崎店を3フロアに縮小し営業を継続したが、大家の黒崎メイトの破綻で撤退は免れない見通しだ。

 赤字店の閉鎖で両社の収益は大幅に改善された。井筒屋の第3四半期(2019年3~11月)は前年同期比13.6%の大幅減収だったが、経常利益は前年同期の2,000万円から5億6,300万円に急増した。2月期の売上高は前期比17.7%減の650億円、経常利益は24.5%減の6億円と減収減益予想だが、会社側が控えめに見込んでおり、利益は予想を上回りそうだ。

 岩田屋三越の20年3月期は、売上高は減るものの、販管費の減少で経常利益は4.2%増の13億7,200万円と2期連続で過去最高になる見通し。

 営業力強化に決め手を欠く百貨店は経費を削る以外、収益確保の方策が見当たらないのが実情だ。人件費を中心に経費を削減しても、翌年は減収で帳消しになるという悪循環に陥っている。

 そんな負の連鎖を断ち切ろうと新たな試みも始まっている。トキハは昨年9月、15億円をかけ別府店を改装し地上8階・地下1階の建物のうち、物販は2階に集約。残りのフロアには大衆演劇場や地獄めぐりをアレンジした遊技場、足湯、コンビニ、事務所などを導入した。経費負担の重い直営売場を大幅に減らし、サービス主体の施設にすることにより不動産収入で稼ぐようにした。開業後はこれまで少なかった家族客が急増しているという。

 1月末、山形市の老舗百貨店「大沼」が自己破産を申し立て、事実上倒産した。売上が長期低迷し、ジリ貧だった。県庁所在地では全国で初めて百貨店不在の都市になる。九州でも同様のケースにならないとはいえない。

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