2024年04月27日( 土 )

民法改正が企業取引におよぼす影響

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岡本綜合法律事務所 代表 岡本 成史 氏
岡本綜合法律事務所 代表 岡本 成史 氏

 約120年ぶりになる民法の債権関係に関する規定の大改正が、2020年4月1日から施行されます。以前の記事(「民法改正で変わる 賃貸契約の保証人」)で、不動産賃貸におよぼす影響として賃貸借契約における保証制度についての解説をいたしました。今回は、同じ保証制度が一般の企業取引におよぼす影響について解説いたします。

 以前の記事でも紹介しましたが、今回の改正では、一定の範囲に属する不特定の債務について保証する契約である「根保証契約」において、保証人が個人である場合は、保証人の責任限度額(保証の上限額)である「極度額」を定めなければ、保証契約は無効となることになりました。

 これまで根保証契約の保証人となる際には、保証人が最大で負担する金額がわからないことで、将来的に保証人が想定外の債務を負うことになりかねないという問題があったため、保証人保護の観点から改正されました。

 たとえば、継続的な取引をするに当たって締結する「取引基本契約書」において、「丙(連帯保証人)は、甲(売主)に対し、乙(買主)が本契約上負担する一切の債務について、連帯して保証する」という条項が存在し、取引先企業の社長などの個人を連帯保証人にしていることも多いかと思います。まさにこのようなケースでは、改正法に基づく対応が必要になります。

 具体的には、前記の保証条項について「丙(連帯保証人)は、甲(売主)に対し、乙(買主)が本契約上負担する一切の債務について、極度額○○万円の範囲において、連帯して保証する」などの変更が必要になります。取引基本契約書のほかにも、賃貸借契約書やフランチャイズ契約書、代理店契約書などの継続的契約で、取引先企業の社長などを保証人にしていることがないか、社内で調査することが必要です。

 また、企業取引だけではなく、労務管理上も対応が必要になります。近年は減少傾向にありますが、従業員の雇用にあたり身元保証契約を締結している企業では、身元保証契約も「個人根保証契約」に該当しますので、20年4月1日以降は極度額を定めることが必要になります。

 また新たに、債権者の保証人に対する各種の情報提供義務の規定が設けられました。

 具体的には、(1)「委託を受けた保証人(法人の保証人も含む)が、債権者に対して、主債務の支払状況について情報の提供を求めた場合には、債権者はこれに回答すること」が義務づけられ、また、(2)「保証人が個人である場合には、債権者は、主債務者が期限の利益を喪失したことを債権者が知った時から2カ月以内に、その旨を保証人に通知しなければならない」とされています。

 この義務を怠った場合、(1)について保証人が被った損害についての賠償責任を負うことになり、(2)については期限の利益喪失から通知を現にするまでに生じた遅延損害金の請求ができないなどの不利益が生じます。

 そこで今後、連帯保証人からの問い合わせがあった場合には、適切に対応する必要が生じますし、また取引先に支払遅延が生じた場合などには、すぐに契約書を確認し、保証人の有無や、期限の利益喪失条項の有無を確認し、該当する場合には保証人に対し、期限の利益を喪失した旨の通知を発送するという対応が必要になってきます。

 ほかにも、主債務者から連帯保証人への情報提供義務も新設されていますが、この点は以前の記事を見てご確認ください。


<プロフィール>
岡本 成史(おかもと・しげふみ)弁護士・税理士
岡本綜合法律事務所 代表

 1971年生まれ。京都大学法学部卒。97年弁護士登録。大阪の法律事務所で弁護士活動をスタートさせ、2006年に岡本綜合法律事務所を開所。経営革新等支援機関、(一社)相続診断協会パートナー事務所/宅地建物取引士、家族信託専門士。

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