2024年03月29日( 金 )

プロバイオとプレバイオの融合 腸内細菌研究で新機能発見に期待(前)

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 人間の細胞の数は37兆個。一方で人間の大腸に住み着いている腸内細菌はそれよりもはるかに多く、1000種類100兆個ということがわかっている。これら腸内細菌の多くは嫌気性のため、体外に取り出して培養することが難しく研究がなかなか進まなかった。しかし、21世紀に入り、分析技術の革新的な進歩により、腸内細菌の研究が一気に進み出した。

腸内環境を改善する2つのアプローチ

 「プロバイオティクス」や「プレバイオティクス」という言葉はすでに一般的にも使われるようになってきた。腸内細菌は、腸管内で一定の平衡状態を保ちつつ互いに共存しており、通常は無害である。健康に良いといわれる善玉菌が約20%、健康に有害な悪玉菌が約10%、残り70%はほとんど何も影響を与えない「日和見菌」とされており、これらの細菌たちが腸内細菌叢というコロニーを形成している。

 ところが、何かの原因で腸内細菌叢のバランスが崩れて悪玉菌が増えると、有害物質や有毒ガスをつくり出しそれが体内に吸収され、便秘や下痢、時には重篤な疾患を引き起こす。それが長期にわたると免疫力が低下し、病原菌へ感染リスクがあがって発ガン物質の産生も促進させるといった事態が起こる。しかも、いったん減少した善玉菌を腸管内で再度増加させることはなかなか難しく、しかも時間がかかる。

 プロバイオティクスとは、生物間の共生関係(probiosis)を意味し、抗生物質(antibiotics)に対比する言葉でもある。「腸管内の善玉菌を増やして、腸内細菌のバランスを改善することにより、宿主に有益な作用をもたらす生きた微生物」と定義されており、Lactobacillus属に代表される「乳酸菌」やBifidobacterium属である「ビフィズス菌」、Bacillus属の「納豆菌」など、菌そのものを総称する言葉して使われるとともに、これらの善玉菌を積極的に外部から腸管内に送り込む動的な意味合いでも使われる。

 ちなみに、善玉菌の代表格である乳酸菌は見つかっているものだけで400種類以上あり、その機能が特定されているものでも50菌株におよぶ。もう1つの善玉菌の代表であるビフィズス菌は40種類ほどが見つかっており、人の腸内に住むビフィズス菌は6~7種程度。ちなみに、人の腸内では圧倒的にビフィズス菌の機能のほうが大きいと言われている。

 一方、プレバイオティクスとは1994年にイギリスのGibsonとRoberfroidによって提唱された概念で「大腸に常在する有用菌を増殖させるか、あるいは有害な細菌の増殖を抑制することで宿主に有益な効果をもたらす難消化性食品成分」と定義されており、いわゆるオリゴ糖類や難消化性デンプン、食物繊維など、腸内の善玉菌の餌になるものがこれにあたる。プロバイオティクスと同じようにこれらの成分を外部から積極的に腸管に送り込むこともプレバイオティクスと呼ばれる。

 つまり、プロバイオティクスが菌そのものの作用によって腸内環境を改善するのに対し、プレバイオティクスは善玉菌の餌となる食品成分を摂取することによって腸内環境を改善する。ここでいう「有益な効果」とは、一般的には下痢や便秘などの大腸症状の緩和であることが多いが、一方で感染防御や免疫調整、血圧や血糖の調整、ミネラル類の吸収促進、ストレスの緩和など、広範囲な効果も範疇となる。

(つづく)
【継田 治生】

(後)

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