2024年04月25日( 木 )

【超高齢化と地域医療】「モバイルクリニック」で高齢化と医師不足に対応~長野県伊那市で国内初の試み

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伊那市の「モバイルクリニック」の実証で使われている移動診察車。トヨタ・ハイエース福祉車両の改造車(フィリップス・ジャパン提供)
伊那市の「モバイルクリニック」の実証で使われている移動診察車。
トヨタ・ハイエース福祉車両の改造車(フィリップス・ジャパン提供)

■移動診察車「モバイルクリニック」

 ICT技術によって高齢化と医師不足に対応する遠隔医療サービス「モバイルクリニック」の実証事業が、長野県の山間の街・伊那市で進められている。国内初の取り組み。2021年度の実用化を目指す。

 移動通信システムが第4世代(4G)から、間もなく第5世代(5G)に移行する。高速(現行の100倍の通信速度)、多数同時接続(基地局1台から端末約2万台との同時接続)、超低遅延(現行の4分の1以下のタイムラグ)が大きな特徴だ。

 その5Gの普及を念頭に、医師が同乗せず、看護師が患者の自宅を回る移動診察車「モバイルクリニック」の実証が昨年12月、伊那市で始まった。

 トヨタ自動車の「ハイエース」福祉車両の改造車に、心電図モニタ、血糖測定器、血圧計、パルスオキシメーター(脈拍と血中酸素濃度測定器)、AED(自動体外式除細動器)といった医療機器を搭載。看護師とドライバーが乗り、事前に医師と患者が決めた予約スケジュールに沿って巡回する。医師はクリニックに残って、テレビ電話を通じ車内の患者を問診。看護師の手を借りながら診察し、必要に応じて検査や処置を看護師に指示する仕組みだ。

移動診察車の車内(フィリップス・ジャパン提供)
移動診察車の車内(フィリップス・ジャパン提供)

■65歳以上の高齢化率は35年間で倍以上に増加

 昨年7月、厚労省の遠隔診療ガイドラインが改訂され、情報通信機器を使うオンライン診療が緩和された。診療対象は高血圧症や糖尿病といった症状が安定期の慢性疾患の患者など。緊急時は30分以内に対面診療が可能という条件が付く。

 長野県の面積は全国4位。県域は10圏域に分かれ、伊那市、駒ケ根市、伊那郡6町村の「上伊那地域」は3番目に広い。一方で人口は地域拠点都市の伊那市で6万8,000人。同市の1平方キロあたりの人口密度は99.8人。65歳以上の高齢化率は1980年の13.3%から2015年は30.1%と倍以上に増えた。

 医療機関は、伊那市に立地する拠点病院の伊那中央病院(394床)をはじめ上伊那地域で146施設(厚労省の17年医療施設調査)。どこの街でもそうであるように市街地に遍在する。高齢者に多い慢性期疾患は、重症化の予防には健康管理が欠かせない。しかし通院は容易ではない。といって往診は医師の数が限られ制約される。

 医師を補助する看護師を乗せて走る「モバイルクリニック」は、ICТ技術を採り入れたMaaS (マース=Mobility as a Service)と呼ばれるモビリティ(移動)サービスと医療を融合させる試み。限られた数の医師で増える高齢者に医療サービスを持続的に提供するシステムともいえる。

 参加するのは、トヨタ自動車やソフトバンクなどが出資する「モネ・モビリティーズ」。オランダの医療機器大手フィリップス・ジャパン。モネ社が改造車を提供し予約システムを構築。フィリップスは必要な医療機器を用意する。

■ドローンによる処方薬の宅配も計画

 伊那市は「『モバイルクリニック』は、5Gのサービスが実際に普及してみないと、できること、できないことをはっきりと区別できないところもある」(企画政策課)と話す。すでに10回ほど看護師だけが乗った移動診察者で機器の操作や診断した画像の鮮明度といった事前準備を繰り返し、3月から医師の遠隔診療を始める。並行してオンラインによる患者への服薬指導、さらにドローンによる処方薬の宅配も計画する。

 実証ではインターネットイニシアティブ(IIJ)が、名古屋大学付属病院先端医療臨床研究支援センターと共同開発した情報共有システム「IIJ電子@連絡帳」というクラウドサービスが使われている。愛知県や茨城県で普及が進み、長野県では県立長野こども病院が導入。重症障害児らの在宅医療を推進するため、県内各地の小児科医との“病診連携“に役立てている。

 伊那市は、「IIJ電子@連絡帳」を医療従事者(医師、看護師、薬剤師、保健師など)はもちろん、介護従事者や福祉従事者など“多職種連携”への拡大も視野に入れている。

【筑紫 次郎】

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