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2020年03月16日 16:30

新型コロナウイルスと同調圧力、そして忖度(空気)(前)

大さんのシニアリポート第86回

 新型コロナウイルスが流行しはじめて数週間。私の周囲にもさまざまなかたちで問題が表面化しはじめている。「同調圧力」である。私が運営する「サロン幸福亭ぐるり」(以下「ぐるり」)にも冷たい視線が降り注ぐ。「ぐるり」は高齢者の居場所である。疾患をもつ高齢者が少なくない。カラオケともなると、33平米の狭い空間に20人を超す高齢者で身動きがとれない状態。新型コロナウウイルスに感染し重症化しやすい典型的なパターンなのだ。でも、そう簡単には閉めることができない事情があるのだが…。

 先月末、仕事の打ち合わせに高田馬場に出かけた。午後3時過ぎの西武新宿線の車内は普段よりは少なめ。目の前の座席にいた女性がくしゃみをした。凍りついた視線が一斉に彼女に集中する。いたたまれなかったのか、次の駅で下車した。マスク着用なのに、乗客の必要以上の過敏な反応に驚かされた。打ち合わせ場所の居酒屋も、予想どおり閑散として不気味な静寂に落ち着かない。原稿を書いているのは三月中旬。ピークどころか先行き不透明、その余波はすぐに「ぐるり」にも到達した。

 クルーズ船云々よりも、ライブハウスでの感染が決定的だった。ライブハウスは「狭い空間に観客がぎっしり」というイメージがある。「ぐるり」は多目的ホールという発想で、私が個人的にURから借りている施設である。

 「茶話会」が基本なのだが、入亭者はせいぜい6、7人程度。これがカラオケになると室内の様子が豹変する。ときには20人オーバーの入亭者がある。街中にあるカラオケ屋よりも混む。右隣のデイケアは早々とクローズした。左隣の学童クラブは休学児童の受け皿としてオープンしているものの、近所の目は冷ややかだ。それに挟まれたように「ぐるり」はある。「大丈夫なの?」「まだ閉めないの?」という声がちらほら漏れ聞こえてくる。近所に住む人たちの同調圧力を強く感じて、期限付きながら3月4日から休亭している。おそらく3月いっぱいは休亭せざるをえないだろう。

 「同調圧力」というのは、地域コミュニティや職場など、特定のグループで意志決定を行う場合、少数意見の持ち主に対し、暗黙のうちに多数意見に合わせるよう強制すること。「空気を読め」「忖度せよ」といういかにも日本的な場の処理の仕方である。これが永田町や霞ヶ関ではなく、ここの地域住民にまで広がりをみせているのだから驚きを越して恐怖さえ感じる。

 報道によると、政府は企業在籍の社員の出勤停止に対し、1人1日最大8,330円を所属する企業を通して補償するとした。フリーランスに対しても4,100円が支払われる。これに対し、「ぐるり」のオーナーである私には無補償である。URでの「ぐるり」は「店」として登録されているが、商売はしていない。利益どころか、不足分は私が個人的に補てんしているのが実情だ。

 「ぐるり」の経営状況を数字で表してみる。総予算は年間約80万円。賃貸料金(居場所として使用しているため、URの裁量により半額)は共益費、光熱費を含め1カ月約5万円。年間部屋の維持費だけで60万円と総支出の4分の3を占める。残りの20万円は、飲物(日本茶、コーヒー、ボトル茶、ジュースなど)、イベント(芋煮会、望年会)などで食する食料品。ほかに、エアコン、トイレ、冷蔵庫、なにより人気のカラオケ機材のメンテナンスと新規購入などで消える。

 一方、収入は社会福祉協議会より年間20万円の補助金。市高齢者支援課より私個人に年間9万6,000円の支給。それに入亭料(1人100円)として年間約30万円。総額約60万円。この数字は、家賃・光熱費の年間支出とほぼ同額である。残りの20万円をカンパや寄付金で賄う予定でいるのだが、毎年必ず不足する。不足分(毎年10万円ほど)を私が補てんしているのが現状だ。このままでは肝心の3月分入亭料(約2万5,000円)がゼロになる。新型コロナウイルスの収束が先延ばしにされれば、その分私個人の出費が際限なく増えることになる。どうするか…。

(つづく)

<プロフィール>
大山眞人(おおやま まひと)

 1944年山形市生まれ。早大卒。出版社勤務の後、ノンフィクション作家。主な著作に、『S病院老人病棟の仲間たち』『取締役宝くじ部長』(文藝春秋)『老いてこそ2人で生きたい』『夢のある「終の棲家」を作りたい』(大和書房)『退学者ゼロ高校 須郷昌徳の「これが教育たい!」』(河出書房新社)『克って勝つー田村亮子を育てた男』(自由現代社)『取締役総務部長 奈良坂龍平』(讀賣新聞社)『悪徳商法』(文春新書)『団地が死んでいく』(平凡社新書)『騙されたがる人たち』(講談社)『親を棄てる子どもたち 新しい「姥捨山」のかたちを求めて』(平凡社新書)など。

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