2024年03月29日( 金 )

新型コロナウイルスと中国経済~緊急事態における中国政府の選択(後)

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 新型コロナウイルスの感染は2020年1月から中国の経済活動に未曾有のダメージをもたらした。この緊急事態において、中国政府は経済を下支えするために、いくつか手を打っている。今後、大規模な景気対策の実施も予想されるが、中国経済はさまざまな問題を抱えており、中長期的な視点に立った対応が求められる。

 

武漢市(1月29日撮影)
武漢市(1月29日撮影)

中国経済の今後と懸念

 影響力の増大した中国には、人々の安全を確保しつつ、一刻も早く感染を終息させ、経済活動を元通りにさせることが求められる。

 中小企業の資金繰り悪化による倒産が懸念されるなか、中国政府は企業の支援に乗り出しており、中国人民銀行は2月20日、政策金利を3カ月ぶりに下げ、また低利の融資枠も用意した。銀行業監督管理委員会は中小企業の不良債権に対する基準を緩め、また利息の支払いが遅れることも容認する。人力資源・社会保障省は、6月まで湖北省を中心に年金など社会保険料の企業負担分の免除・減免措置を行う。サービス業は中小企業が多いが、中国は02~03年のSARSのころには第2次産業のGDPに占める比率が一番大きかったが、近年では第3次産業の比率が最も大きくなり、50%を超えている。

 これらの措置は、企業の救済に効果をもたらす一方、本来淘汰されるべき非効率な経営を行う企業が生き残り、産業構造の転換を遅らせ、中国が「中国製造2025」で掲げる製造強国の実現にも遅れをもたらすであろう。ほかにも銀行の貸し倒れ、不良債権の増加などのマイナス面も懸念される。米中貿易摩擦を受けた景気下支え策により累積債務が再び増加しているうえに、今般の政策金利の引き下げで企業への貸し付けはさらに増大する。

 今後、大規模な景気対策を実施することが予測されるが、08年のリーマン・ショック後に実施した4兆元の景気対策が、地方政府の債務拡大、不動産バブルなどの後遺症をもたらした前例もあり、一時しのぎではない中長期的な対策が求められよう。

 設備の稼働停止が難しい半導体産業では、武漢市にありながら政府の支持を得て旧正月期間中も特別に工場を稼働させていたという。半導体は中国が製造強国の仲間入りを目標として掲げる「中国製造2025」の10の重点項目の1つでもあった。という問いが生じる。政府の関与の度合い、それらの工場の安全対策、従業員の同意の有無、待遇などの詳細、また当事者たちがどう感じていたかは報じられていない。

 ただ、経済・政策目標のためなら、従業員に危険を強いてでも工場を稼働させてよいのであろうか。東日本大震災時の福島原発の従業員のようにインフラ企業であれば話が別であるが、中国にとって今般の半導体工場も同様に重要ということか。緊急事態において、国の長期的利益が関わる問題に際して何を優先するか、あるいはどうバランスを取るかということを突き付けている。

(了)
【茅野 雅弘】

(前)

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