2024年03月19日( 火 )

【がんばろう中洲】消える中洲の明かり 夜のお店は感染リスクが高い?の真相

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■福岡県も緊急事態宣言下に

 福岡県の小川洋知事は6日午後に臨時会見を開き、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて今日(7日)にも発令されるみこみの国の緊急事態宣言の対象地域に福岡県を含めるよう要請することを明らかにした。福岡県の要請を受けたかたちで、政府は宣言の対象地域を東京、神奈川、埼玉、千葉、大阪、兵庫、福岡の7都府県に決め、今日午前に開かれた政府の「諮問委員会」で了承された。

6日の会見で、国に緊急事態宣言の
地域指定を要請した小川洋・福岡県知事

 緊急事態宣言が出された場合、対象地域の生活が急変するような強制力はないものの、ウイルス感染を防ぐために不要不急(重要でなく、急がなくてもいい用事など)の外出を自粛することや、感染の可能性が高いとされる場所に立ち入ることの自粛を要請することができる。コンサートなど人が集まる催し物については、罰則規定はないものの、開催しないよう指示することも可能になる。

 6日の会見で小川知事は「県内が拡大警戒地域に入った」とし、「(感染拡大の)勢いを変える必要がある」と述べたうえで1日の会見と同様に週末の外出自粛を県民に訴え、夜間の繁華街などでの飲食についても自粛を呼び掛けている。

■福岡県は「夜の繁華街」での感染は「ゼロ」

 西日本における「夜の繁華街」の代名詞といえる、福岡市・中洲。県内で新型コロナウイルスの感染拡大が認知されて以降、客足はばったりと遠のいている。4月3日の夜、いつもなら酔客でごったがえす金曜日夜の中洲大通りは客よりも暇を持て余した店の従業員の姿が目立ち、深刻そうな表情で話しこむホステスたちの姿もあった。

 福岡市役所の公務員などを常連客にもつスナックのママは、「公務員さんは人の目を気にして来にくいんだと思う。最近はお客さんが1人だけという日も多い。現金を手元に残したいのでマンションを売っちゃった」と笑う。

 売上が減ったのはこの店だけではない。別日にも中洲のスナックやバーで聞き取りをすると、「例年の半分以下」「(普段の月の)1割あるかどうか」などと答える店がほとんどだ。6日には中洲の有名クラブや大箱と呼ばれる大型店舗が1カ月程度の休業を決めている。

 夜の社交場がここまでダメージを受けたのは、東京都の小池知事がウイルス感染を警戒すべき場所として「バーやクラブ、カラオケ」などを具体例にあげたことの影響も大きい。大分県ではキャバクラでの感染事例が報告されており、夜の飲食店が、避けるべきとされる「3密」(密閉、密接、密集)の環境になりがちなことは否めない。実際、小川知事も6日の会見で、おそらく中洲などを念頭に置いた「夜間の繁華街」への外出自粛を訴えている。

 しかし、少なくとも福岡県内の感染者について中洲など夜の飲食店で感染したことが確認された人はいない。県内の新型コロナウイルス感染情報を集約している県がん感染症疾病対策課によると、6日は14人の感染者が確認され、県内感染者は176人(うち6人が退院し、1人が死亡)。6日の14人を除いた162人のうち90人の感染経路が判明しており、海外渡航歴があって海外で感染したとされるケースが13人、家族などごく親しい関係間の濃厚接触が77人で、残り72人については感染経路がわかっていないという。

 こうした感染経路不明のケースについて繁華街で感染した可能性があることは否定できないものの、夜の繁華街を名指ししてことさら危険性を言い募るほどひっ迫した事情があるのかは疑問だ。「推定有罪」的に特定業種をやり玉にあげることは経済活動を妨害する行為に他ならず、もし夜の職業であることがこうした行為を容易にさせているのならば、それは明確な差別だ。

 そもそも、3密が危険だというのなら、最もその状況に近いとされる通勤電車を避けるようにアナウンスしないのはなぜなのか。企業側に強制的に時差通勤を実行させるなど、いくらでも方策はあるはずだ。「健全」な昼間の仕事のために通勤電車に乗るのは良くて、不健全な夜の町は出入することすら許さない、というのでは科学の目を貫徹すべき感染症対策の場に恣意性を持ち込んでいることにならないか。

 県の外出自粛要請が土日に限定されているのも不可解だ。平日の外出自粛が経済活動を停滞させるのは明らかだが、人命を最優先するのであればその理念を徹底させなければ自粛要請自体の訴求度を低下させかねない。要するに、「人間の都合に合わせた自粛要請なら、それほど緊急度は高くない」と県民に思われているのだ。誰しもが思っているのではないか、「コロナウイルスは平日休みなのか」と。

■中洲はもう死んでいる?

 ウイルス対策に万全な体制で臨むのであれば、恣意的判断を入れずに徹底すべきだ。国民に外出や活動の自粛を要請するのであれば、小手先の補償ではなく減収などは国が完全に補償したうえで曜日を問わずに外出しない期間を一定程度設け、PCR検査を徹底して行い、陽性患者を隔離して治療する。経済活動が滞る期間をどれだけ短くできるかに国力のすべてを注入すべきで、その道筋が示されて初めて、国民はやっと本気でウイルスとの闘いに向き合うのではないか。

 夜の町で働く人々はどこか後ろめたさも感じているため、積極的に声をあげて抗議することはしない。今回のコロナショックについても、「ケーサツや役人にダメと言われれば従うしかない」と諦める人がほとんどだ。しかし、今回の自粛要請はかなり長期間におよぶとみられており、中洲が長年かけてつくりあげた文化や商習慣そのものを破壊するのではないかと指摘する声もある。

 「コロナショックで中洲を出ていくことを決めた店も多い。いつまで自粛が続くかも不明だし、誰かが自粛終わりを宣言して、『さあ、どうぞ今日から中洲で遊んでもいいですよ』と言ってくれるのか。少なくない店が潰れるし、一番こわいのは『そもそも中洲って必要なのか?』という風潮になること。接待しなくても営業できることがわかれば経費も切り詰めてくる。コロナショックの後に来るだろう大倒産時代にはとても立ち向かえない。中洲はじつはもう終わっているのかもしれません」(中洲の不動産業者)

【特別取材班】

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