民間再開発ラッシュ、名古屋・栄はどう変貌するのか?(後)
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2020年04月09日 12:00

民間再開発ラッシュ、名古屋・栄はどう変貌するのか?(後)

 名古屋市中区にある栄地区(約9.4km)は、松坂屋、三越などの百貨店や、パルコなどのショッピング施設のほか、ルイ・ヴィトンなどの海外高級ブランド店などが集まる。中央には、100m道路で知られる久屋大通が南北に走り、東西には若宮大通が通る。これらの大通を軸に、碁盤の目のような町割りが形成され、名古屋テレビ塔や久屋大通公園といった名古屋名物も立地するなど、中部地方最大の繁華街を形成している。ところが、2000年ごろ以降、名古屋駅地区の再開発が活発化するなか、栄地区では新たなまちづくりに出遅れた。名古屋市は13年に「栄地区グランドビジョン~さかえ魅力向上方針~」を策定。久屋大通公園のリニューアルや民間再開発の促進などに乗り出した。そのおかげもあって、ここ数年、民間再開発の波が押し寄せている。栄地区はどのような変貌を遂げようとしているのか。栄の魅力を向上するうえでの課題は何か。

錦二丁目では独自のエリマネ

 こうした再開発のなかで、ユニークなのが伏見地区における「錦二丁目7番第一種地市街地再開発事業」だ。錦二丁目地区は、名古屋駅と栄地区の中間に位置する。名古屋城築城にともない形成された碁盤割りの城下町がまちのルーツであるが、この名古屋の城下町の特徴は、建物が四方の通りに面して立ち並ぶことにより、中央に会所(あるいは閑所)と呼ばれる広場状の空地ができ、そこが当時の人々の寄り合いの場になっていたという点だ。この会所は路地によって通りと接続しており、町の人が自由に出入りすることができた。

 このような町割りをもった錦二丁目地区は、高度成長期には繊維問屋街として栄えたものの、産業構造の変化などにともない、町勢が低迷。近年では、治安の悪化などもまちづくりの課題になっていた。危機感をもった住民らは、2000年ごろから空きビルのリノベなどのエリアマネジメント活動を始める。今でこそ、エリアマネジメントは浸透しているが、当時は先駆け的な取り組みだった。18年には、まちづくり協議会などが出資し、錦二丁目エリアマネジメント(株)を設立。まちづくり構想(11年に協議会が策定)の下、都市の木質化や長者町家づくりなどのプロジェクトを進めている。
 市も、構想策定の際にオブザーバーとして参加するなど、まちづくりを支援するかたちで関わってきた。

 こうした地元主体のまちづくり活動が進むなかで、地区内の7番街区において再開発事業の実施に向けた機運が高まってきたのを受け、まちづくり協議会はまちづくり構想を開発計画に取り入れることを事業者に要請。事業者側もそれを受け入れて具体的な開発計画の検討が行われ、17年11月に名古屋市によって事業計画が認可された。市の担当者は「独自にエリアマネジメントに取り組むまちづくり協議会がつくったコンセプトを基に、再開発事業が立ち上がるのは、全国的にも珍しい」と話す。

 約500名が住むこの事業の対象エリアには、敷地面積約3,720m2のA地区、約1,220m22のB地区がある。A地区には、高さ111m(地上30階・地下1階)の住宅棟が建設され、360戸の分譲住宅、42戸の高齢者向けの賃貸住宅が供給される。配置計画としては、街区の中央に広場を設け、そこに四方から歩行者用通路が接続するが、これは前述のまちづくり構想のコンセプトに基づいて、会所と路地を現代に復元する試みだ。また1階には、この広場に面してエリアマネジメント活動拠点が整備されることとなっており、ここから地区の新たな賑わいが創出されることが期待されている。一方、B地区は5階建ての駐車場棟であるが、1階部分は店舗が配置され、周辺住民の利便性向上にも配慮した計画となっている。建築主体は、事業エリア内の土地所有者などによって組織される「錦二丁目7番地区市街地再開発組合」(参加組合員としては野村不動産(株)、旭化成不動産レジデンス(株)、NTT都市開発(株)、(株)長谷工不動産の4社)で、施工は(株)長谷工コーポレーション。すでに19年3月に着工しており、21年度に竣工予定だ。

特定都市再生緊急整備地域指定に基づく再開発イメージ(栄地区グランドビジョンより)

上モノだけでは不足

 市職員には、「名古屋には、名駅周地区だけでなく、栄地区もある。それぞれの地区が魅力を高め合っていかないと、名古屋の魅力は向上しない。栄地区に長く滞在してもらいたい」――という思いがある。名古屋の玄関口である名駅から、多くの人々を栄や名城などの地域に誘引することで、市全体の活性化につなげるのが、狙いというわけだ。

 栄地区の再開発によって、一定のヒト、モノ、カネが栄に集まる可能性は非常に高い。ただし、その際に気がかりなのは、栄地区にアクセスする公共交通の脆弱さだ。栄地区(栄駅)に乗り入れる路線は現在、市営地下鉄の東山線、名城線2路線のみ。名駅と栄駅を結ぶ東山線は、市営地下鉄中唯一の黒字路線だが、慢性的な混雑状態にある。

 東山線混雑の要因は、利用者が多いのはもちろんだが、財政難から建設費を抑えたため、トンネルや車両などがそもそも小さいことが挙げられる。小型車両(しかも6両編成)しか運行できず、輸送能力が低い。
 他都市の車両と比較すると、東京メトロ銀座線(東京メトロで最も小さい車両)の車両は幅2.8m、高さ3.5m、長さ16m、大阪メトロ御堂筋線が幅2.9m、高さ3.75m、長さ18.7mなのに対し、東山線は幅2.55m、高さ3.45m、長さ15.5mと小さい。ちなみに、福岡市営地下鉄空港線は幅2.8m、高さ4.1m、長さ20mと意外に大きい。

 輸送能力不足をカバーするため、朝夕のラッシュ時には数分間隔で運行するほか、バックアップ路線として、桜通線を開業した。しかし、栄駅に停車しないうえ、桜通線は利用者数が伸び悩み、赤字路線になっている。まちの中心核と位置づける両地区を結ぶ交通インフラが能力不足という状況に対しては、首をかしげざるを得ない。なお、名城線も同じ小さい車両だ。

 名古屋が車社会だとしても、栄地区にさらに多くの人々を誘引するには、既存路線の拡充のほか、新たな公共交通インフラの整備が必要になる。上モノ(スープラ)がいくら立派になっても、それに見合った公共交通(インフラ)がなければ、都市力のボトムアップはおぼつかない。民間主導に行政が合わせるのは良いが、行政としてやるべきことは、まだまだ多く残されていると思われる。

(了)

【大石 恭正】

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