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2020年04月16日 17:01

「嫁介護」と「棄老」問題の本質(前)

大さんのシニアリポート第87回

 「老老介護」「姉妹介護」「嫁介護」「息子介護」…、介護のかたちはさまざまだ。私自身、今から41年前、出版社を辞し妻をともなって故郷(山形市)に帰郷。そこで母を看た。当時は介護保険制度(2000年施行)前で、基本介護は在宅か、老人病院だった。母は心臓に疾患があり、たびたび発作を起こすために近くの老人病棟に入院。体調のいいときは家に戻るかたちを採った。大半は病院で過ごすことになったので、私と妻が毎日(朝、昼、晩食時に3度)病院に通いつめた。その様子を『S病院老人病棟の仲間たち』(文藝春秋社 1988年刊)として上梓した。

 40年前の山形は、特別養護老人ホームや介護施設なども少なく、高齢者の介護は当然のように家で看るのが当たり前の時代だった。在宅介護が当然という考え方が昔から支配的で、とくに呆(ぼ)け(まだ認知症とはいっていない)老人を抱えた家族が、一時的とはいえ精神病院(それしかなかった)に入れようとすると、「あだなどごさ(あんなところに)親ば入っで(入れて)親不孝者だ」といわれた。そのためできるだけ他人の目に触れさせないようにするために、呆け老人の部屋にカギをかける家族もいた。「座敷牢」である。

 当時の山形は、全国でも有数の低所得県であったため、共稼ぎの家庭が圧倒的に多かった。そこで義父や義母が「寝たきり」や「呆け老人」になると、嫁が仕事を辞めて介護にかかりっきりになることが当たり前だった。これを「看たもの貧乏」といった。この貧乏くじを引くのが「長男の嫁」と決まっていたため、長男に対する嫁不足が深刻だった。

 息子の配偶者、つまり息子の嫁が嫁ぎ先(息子)の両親を看るのが、2001年(介護保険制度適用直後)では31%。2016年には16.3%と約半分に減少している(「国民生活基礎調査」より)。これは介護保険制度により、多くのサービス(デイサービス、訪問介護、各施設への入居など)を利用するという選択肢が増えた結果だと思う。介護保険に関しては、いくつかの欠点を指摘して批判する人もいるが、私は介護保険制度を利用することにより、介護する側の負担がかなり減ったと思う。

 ところで「嫁介護」はどのようにして誕生したのだろう。家族社会学者の春日井典子氏が、朝日新聞(2020年4月7日紙上で)述べている。「江戸時代は、介護は当主である男性の努めでした。男性向けに介護の知識や技術を説く本が多数出され、武士に対しては、近親者に介護が必要になった時に帰宅を認める制度もありました」「庶民レベルでも、親の介護のために国元に帰り、内職をしてみとった男性もいました。老親を大切にすることが男性にとってとても重要だと認識されていたのです」。

 「変化したのは明治期からです。家制度を国民に広め、家父長制のもとで、嫁いだ女性は『嫁』として低い位置に位置づけられました。その一方で、近代化を進めるため、『男は仕事、女は家庭』という性別分業意識を柱とする欧米の、『近代家族観』も輸入されました」「天皇を国の父としてあがめる『家族国家観』も加わります。天皇陛下という『父』に報いるために、男性は仕事に専念し、戦場で戦い、家庭内のことは女性が一切を担う。こうした流れのなかで『介護は嫁の役割』という意識が生まれました」と指摘する。

 「家父長制」という家族構成を確立させたのは、「儒教的思想」である。儒教が「家の宗教」といわれたのはそのためだ。儒教では、社会の基本として「家」があり、家の原理を共同体レベルにまで広げ、さらに国家にまで拡大することで、「徳治政治」が確立すると説く。その基本思想は「孝」という考え方だ。「孝」という字が「老」と「子」で成り立っているように、「孝」は本来、老人を子どもが養うことを意味していた。つまり、「子が親を養い、敬う」ことが「孝」の基本とされたのである。家父長制は「男」を基本としており、「女」は低くみられた。

 戦後、その様子が激変する。大陸からの復員や都市再興のために田舎から次三男が上京することで、急遽、各地に公団(現UR)や公営住宅が大量につくられる。必然的に大家族制度が崩壊し、核家族化が進む。

 少し脇道にそれるが、地方(私が取材した新潟県の大地主場合)では、次三男は家を出て独立するときに家を買う資金は提供されるが、土地を分け与えることはしない。「戯(たわ)け者」とは「おろかもの」という意味以外に、「田を分けるとは大馬鹿者」という意味が込められている。「土地こそ家の命」と考えられていた。戦後、農地改革のために、大地主は消えるが、農地改革が完全に履行されるまでにはかなりの時間を要した。そのため、「長男の嫁が親を看る」という山形の事例のように、おそらく春日井氏のいう「地方では、家や土地などを長男が相続することと引き換えに、『長男の嫁』が介護を担うことになりました」という名残があったのかもしれない。

(つづく)

<プロフィール>
大山眞人(おおやま まひと)

 1944年山形市生まれ。早大卒。出版社勤務の後、ノンフィクション作家。主な著作に、『S病院老人病棟の仲間たち』『取締役宝くじ部長』(文藝春秋)『老いてこそ2人で生きたい』『夢のある「終の棲家」を作りたい』(大和書房)『退学者ゼロ高校 須郷昌徳の「これが教育たい!」』(河出書房新社)『克って勝つー田村亮子を育てた男』(自由現代社)『取締役総務部長 奈良坂龍平』(讀賣新聞社)『悪徳商法』(文春新書)『団地が死んでいく』(平凡社新書)『騙されたがる人たち』(講談社)『親を棄てる子どもたち 新しい「姥捨山」のかたちを求めて』(平凡社新書)など。

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