2024年04月24日( 水 )

観光サービス業は日本のトップ輸出産業になる(前)

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ザ・キャピトルホテル 東急 総支配人 末吉 孝弘 氏
((株)東急ホテルズ 常務執行役員)

 「ザ・キャピトルホテル東急(以下、キャピトル)」は、東急ホテルのフラッグシップを担うラグジュアリーホテルだ。フォーブス・トラベルガイドで4つ星にランクされる。ホテル名に冠した“キャピトル”(国会議事堂)の通り、永田町の国会議事堂近くに立地する同ホテルは、1963年に開業した「東京ヒルトンホテル」をルーツにもち、「キャピトル東急ホテル」を経て、2010年にリニューアルオープンした。今年は、キャピトル開業10周年という節目に当たる。この間、どのようにホテルマネジメントを行ってきたのか。新型コロナウイルス感染症が世界を席巻するなか、今後の日本の観光サービス業をどう見ているのか。総支配人の末吉孝弘氏に話を聞いた。

「お前は博多の男ばい!」

 ――「博多エクセルホテル東急」の総支配人として、福岡・博多での勤務経験がおありのようですが、福岡に関する思い出は?

総支配人 末吉 孝弘 氏

 末吉孝弘氏(以下、末吉) 私にとって博多は、「第2の故郷」といえる場所です。エクセルホテルの総支配人を務めたのはわずか3年間ですが、博多の方々からいただいた愛情、温情は計り知れないものがあります。博多勤務が終わった後も、しょっちゅう博多を訪れています。
 私が博多に来て数カ月経った2010年3月に、川端商店街で火事が起きました。現場はホテルの近くでした。発災当時、私は別の場所にいたのですが、部下に「地元の方々を助けなさい」と伝えました。部下が現場を見に行くと、住宅兼店舗が被害を受け、焼け出されている方々がいらっしゃるということでした。それを聞いて、とっさに「ウチのホテルの部屋を提供しなさい」と指示しました。もちろん無料です。本部にも相談せず、独断で決めました。サラリーマンとしては、本来やってはいけないことですが(笑)。

 このことは、地元メディアにずいぶん取り上げられ、私自身もラジオに生出演しました。すると、地元の方々から「お前のホテルはスゴイ」と評判になりました。遠いまちの商店街の方から「お前のホテルで宴会をやるから、予約を取ってくれ」といったこともありましたし、「お前は博多の男ばい!」と言われたこともありました(笑)。

 被災者の受け入れを即決したのは、ホテル業はホテルを売るのではなく、「地元や地域を売る商売」だと考えているからです。これをきっかけに、博多の方々から、ヨソ者だった私を家族のように扱っていただくようになり、山笠の台上がりまでさせていただきました。そういうこともあって、私にとって博多は大切な場所なのです。

福岡のホテルも二極化する

 ――福岡のホテルマーケットをどう見られていますか。

 末吉 私が福岡にいたのは10年ほど前ですが、ちょうどビジネスホテルなどの宿泊特化型のホテルがじわじわ増え始めた頃です。当時の福岡には、東京レベルのラグジュアリーホテルはほとんどありませんでした。それが今年、来年と福岡にも本格的なラグジュアリーホテルが入ってくるそうで、福岡のホテルマーケットは、今後大きく様変わりすると見ています。お客さまの選択肢の幅も広がってくるでしょう。

 東京とはタイムラグはありますが、福岡などの地方都市も、ホテルマーケットは同じ傾向をたどっていると考えています。つまり、「ラグジュアリー」と「宿泊特化型」の二極化です。ライフスタイル型もありますが、割合としては少ないでしょう。二極化が進むと、宿泊特化型は激しい淘汰の時代を迎えると思います。東京はもちろん、福岡もその道を歩みつつあると思います。

震災では安売りも

 ――キャピトルは今年開業10周年を迎えます。この間を振り返ってどうですか。

 末吉 社会の大きな変化に揉まれてきた10年間で、決して順風満帆ではありませんでした。開業した当初、このホテルのブランドをしっかり意識し、そのブランドビジョンに基づいて1つずつ積み上げていこうとしたその矢先に、東日本大震災が発生したからです。混乱が落ち着き始めた3年前に、キャピトルの総支配人に就任しましたが、私は総支配人として、ブランドの方向性をより明確にすることに注力してきました。

 ――どういう混乱があったのでしょうか。

 末吉 キャピトルには立派なコンセプトブックがあるのですが、震災の影響によってマーケットが冷え込んだことで、発災後2~3年間は、このコンセプト通りにホテルを運営することができませんでした。ラグジュアリーホテルとして、我々が提供すべきサービスが徹底できず、その対価としていただく宿泊などの料金も、リーズナブルなホテルのマーケットに合わせてしまったのです。

 考えられないような安売りをした時期もありました。安売りをすると、収益は落ちますし、サービスをするための原資もなくなります。“負のスパイラル”に陥ったわけです。そうなると、目先のことしか考えられなくなります。混乱とはそういうことです。

 ――混乱状態を本来の姿に戻すのには、ご苦労もあったでしょう。

 末吉 本来の姿に戻すのには、時間がかかります。何年も同じやり方をしていると、それがアソシエイツ(従業員)に染み付いてしまうからです。文化をすぐに変えることは大変な作業です。私が総支配人になって、アソシエイツは100名以上増えています。これは、アソシエイツに私の考えや思いをしっかり浸透させながら、昔からのアソシエイツにもそれを理解してもらうという狙いもありました。

 今では、本来の姿に近づいてきたと感じていますが、まだ道半ばです。やはり全員が同じ方向を向いて、同じ気持ちで立ち向かう集団をつくりたいという思いがあります。実際には難しいですが…。ただ、その割合を増やすことによって、集団のもつ“顔”というものがしっかり見えてくるようになります。その結果、キャピトルのブランドができあがると考えています。

(つづく)

【大石 恭正】


<プロフィール>
末吉 孝弘 (すえよし・たかひろ)

1961年、神奈川県横浜市生まれ。85年に神奈川大学法学部卒業後、東京急行電鉄(株)入社。97年パンパシフィックホテル横浜マーケティング部長、2002年ハワイ島マウナ・ラニ・リゾート社副社長、09年(株)博多エクセルホテル東急執行役員総支配人、12年(株)関東東急イン渋谷エクセルホテル東急・渋谷東急イン総支配人、14年(株)東急ホテルズ執行役員運営部長、15年同マーケティング部長を経て、17年同取締役執行役員・ザ・キャピトルホテル 東急総支配人、20年4月に現職。


<HOTEL INFORMATION>
ザ・キャピトルホテル 東急

所在地:東京都千代田区永田町2-10-3
TEL:03-3503-0109
URL:https://www.capitolhoteltokyu.com

(後)

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