2024年03月29日( 金 )

どうなるこれからの新幹線 計画から50年で開業は半分(前)

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九州新幹線(西九州ルート)のいわゆる「フル規格化」をめぐって、国と佐賀県のつば迫り合いが続いている。西九州ルートは現在、在来線(博多~武雄温泉)と新幹線(武雄温泉~長崎)を乗り継ぐリレー方式で整備が進められているが、国はリレー方式について暫定的な措置であるとして、未着工区間(新鳥栖~武雄温泉)の新幹線整備を求めている。一方、佐賀県は600億円に上る地元負担金、並行在来線の存続などを理由に、フル規格化に反対している。西九州ルートのフル規格化がどう決着するかは、将来の日本の新幹線整備の行方を左右するといっても過言ではない。「西九州ルートのフル規格化がストップすれば、その他の新幹線には手を付けられなくなる」(自民党国会議員)実状があるからだ。西九州ルートを含め、これからの日本の新幹線はどうなるのか。

依然進まない基本計画11路線

 新幹線とは、「時速200km以上で走行できる幹線鉄道」を指す。1964年に開業した東海道新幹線(東京~新大阪)以来、75年には山陽新幹線(新大阪~博多)、91年に上越新幹線(東京~新潟)、2010年に東北新幹線(東京~新青森)、11年に九州新幹線(博多~鹿児島)、15年に北陸新幹線(東京~金沢)、16年に北海道新幹線(新青森~新函館北斗)が開通してきた。新幹線鉄道ではないが、新幹線と直通運転できる路線として、97年に秋田新幹線(盛岡~秋田)、99年に山形新幹線(福島~新庄)が開業している。

 東海道新幹線の成功を契機に、政府は1970年、「全国新幹線鉄道整備法」を施行。全国的な新幹線ネットワークの構築を打ち出した。これに基づき、全国の新幹線路線に関する基本計画が定められた。基本計画がある路線のうち、73年に5つの路線の整備計画が策定された。北海道新幹線、東北新幹線(盛岡以北)、北陸新幹線、九州新幹線(鹿児島)、九州新幹線(長崎)の5路線だ。現在、北海道(新函館北斗~札幌)、北陸(金沢~敦賀)、九州(武雄温泉~長崎)の3線区で建設が進められている。基本計画があっても、整備計画がないと、実際に新幹線が整備されることはない。開業済みの新幹線線路の総延長は約2,800km。基本計画路線を含めた総延長約4,500km分が残されている。このうち、約680kmが建設中の路線だ。計画全体の半分も開業していない状態だ。

【表】11カ所の基本計画路線
北海道新幹線(札幌市~旭川市)
北海道南回り新幹線(長万部街~室蘭市~札幌市)
羽越新幹線(富山市~秋田市など~青森市)
奥羽新幹線(福島市~山形市~秋田市)
北陸・中京新幹線(敦賀市~名古屋市)
山陰新幹線(大阪市~鳥取市など~下関市)
中国横断新幹線(岡山市~松江市)
四国新幹線(大阪市~高松市など~大分市)
四国横断新幹線(岡山市~高知市)
東九州新幹線(福岡市~大分市など~鹿児島市)
九州横断新幹線(大分市~熊本市)

 【表】はいずれも興味深い路線だが、今のところ実現のメドは立っていない。実現しない理由は、総額30兆円といわれる建設費用、少ない沿線の人口から利用者が見込めないことなどが挙げられる。1987年には、大蔵省主計官が「新幹線整備は昭和三大バカ査定の1つ」などと発言し、物議を醸したこともあった。国鉄民営化の流れも無関係ではないだろう。後で触れるが、現行の整備新幹線というスキームには、世間からの「新幹線などの公共事業は税金のムダ」批判を回避したいという制度設計者の意図が見え隠れする。

全額国費から地元負担「あり」へ

 整備新幹線スキームでは、新幹線の建設および保有は、鉄道建設・運輸施設整備支援機構(鉄道・運輸機構)で、営業主体であるJRに貸し付ける上下分離方式を採用している。メンテナンスはJRが収入を基に行う。貸付料以外の費用は、国が3分の2を負担するが、沿線自治体が受益者として3分の1を負担することになっている。一方、最初の路線である東海道新幹線(東京~新大阪)は、国鉄が建設に必要な費用を借入れ、収入で返済やメンテナンスを行う上下一体方式だった。整備新幹線スキームになって、沿線自治体を含む事業のステークホルダーが増えたのだ。

 なお、東海道新幹線、山陽新幹線、東北新幹線(東京~盛岡)、上越新幹線、山形新幹線、秋田新幹線は、整備新幹線に含まれない。中央新幹線(リニア)も違う。JR東海が鉄道・運輸機構から財政投融資を活用した借り入れを行い、建設、運営、返済を行う上下一体方式だ。中央新幹線(東京都~大阪市)は、他の路線と同じく73年策定の基本計画に位置づけられていた。

(つづく)
【大石 恭正】

(中)

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