2024年03月28日( 木 )

名古屋市営住宅の解体工事で図面に明記された杭の未施工が発覚!

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 NetIBNewsでは福岡東区の分譲マンションにおいて杭が支持地盤に到達していないことや、構造スリットが施工されていないことなどをお伝えしてきた。そして、今度は愛知県名古屋市住宅局発注の市営住宅解体工事において、図面に記された杭が施工されていなかったという情報が編集部宛に寄せられた。

建物解体により、杭の未施工が判明

 杭が施工されていないことが判明したのは、名古屋市営緑ヶ丘住宅。昭和40年代に建設された鉄筋コンクリート造5階建ての建物で、建替え工事のため解体工事が行われた。建物が解体された後の敷地には、図面では300本程度あるはずの杭が3本しかなかった。この3本の杭は試験杭※ということである。
※試験杭:支持層を確認するための杭

(写真はイメージ)

 情報提供者が、この件を名古屋市住宅局に質問したところ、市は「調べてみなければわからない。2週間後に回答する」と返答。2週間後、市は「基礎工事の計算書があり、杭が不要な構造だった」と回答したという。そこで、情報提供者が国土交通省の文書課に問い合わせたところ、「計算書の保存期間は工事完了後1年、一般的な図面の保存期間は10年未満。40年以上も保管されていることはあり得ない」との回答を受けたという。

 不可解なことに、解体された建物の増築部分には杭が施工されている。隣り合う既存部分と増築部分で、一方の支持地盤が深く、一方の支持地盤が極端に浅いというのは考え難いという。そこで編集部は、名古屋市役所の担当者に話を聞いてみた。

 以下、名古屋市住宅局担当者との一問一答

 ――図面では杭が300本となっているのに試験杭が3本しかなかったというのは本当ですか?
 名古屋市住宅担当局(以下、名古屋) そうです。団地は標準図面が決まっていて、上部は1種類ですが、基礎は杭基礎と直接基礎の2種類の標準図があり、現地の地盤に合わせて使い分けるようになっていました。昭和40年代に建設された当時、どちらが採用されたか不明だったので、杭基礎の方の図面を基に解体することになりました。

 ――杭基礎と直接基礎では基礎(フーチング)の大きさが異なるのではないでしょうか?
 名古屋 基礎の大きさは、杭基礎の小さなものではなく、直接基礎の大きなものとなっていたので問題ありません。

 ――地耐力は何t/m2だったのですか?
 名古屋 それは調べないとわかりません。

 ――鉄筋コンクリート造5階建てに十分な、固い地盤が浅いところにあったということですか?
 名古屋 そういうことです。

 ――試験杭の長さは何mになっていますか?
 名古屋 それは、杭が埋まっているのでわかりません。試験杭により地耐力を調べて、直接基礎か杭基礎か判断したのだと思います。

 ――浅いところに固い地盤があれば、試験杭を打てないのではないでしょうか?
 名古屋 ・・・。(無言)

 ――試験杭を打てるということは支持層が それなりに深いということですね。直接基礎は無理ではないでしょうか?
 名古屋 それは私にはわかりません。

 ――増築部分には杭が打ってあるそうですが、既存部分が直接基礎で、増築部分が杭基礎というのは、つじつまが合わないのではないですか?
 名古屋 既存建物が建設された時期と増築部分が建設された時期では、法律が変わったからだと思います。

 ――法律は 具体的には どのように変わったのですか?
 名古屋 ・・・。それは調べないとわかりません。

 ――同じ敷地の地盤が、法律によって 杭基礎だったり直接基礎だったり、結果が極端に変わるものなのですか?
 名古屋 ・・・。(無言)

 ――昭和40年代の図面や構造計算書が残っていたということですか?
 名古屋 そうです。

 ――緑ヶ丘住宅と同年代に建築された団地がいくつもあると思いますが、名古屋市ではすべての団地の図面や構造計算書を保管されているということですか?
 名古屋 すべてというわけではありません。

名古屋市の回答の矛盾

 昭和40年代の図面や構造計算書が保管されていることは、一般的には珍しい。当時の設計図書の法定の保管期間は5年間(現行法規では15年間)である。50年間も保管しているのはすばらしいことであるが、保管するのであれば、正しい図面を保管しておくべきではなかっただろうか?

 同じ敷地の隣り合う鉄筋コンクリート5階建ての建物で、既存部分が直接基礎で、増築部分が杭基礎ということはあり得るのか?建築構造専門家の意見を聞いたところ、以下のような意見をいただいた。

 一つの建物において、杭基礎と直接基礎を併用することは法令違反です。この団地の場合、既存部分と増築部分なので一つの建物とは言えませんが、同じ敷地で杭基礎と直接基礎を併用することは考えられません。
 名古屋市は「既存の建設時期と増築の建設時期の間に法律が変わった」と説明しています。確かに地耐力を算出する告示が改定されたことがありますが、算定式や地盤種別などが微妙に変わっただけで、これにより杭が必要な地盤が直接基礎で可能になるようなことはあり得ません。鉄筋コンクリート5階建ての建物を直接基礎で支持できる地盤であれば、試験杭を貫入させることも不可能です。

 今回の名古屋市営緑ヶ丘住宅の図面に記載された杭が施工されていないことは、解体工事が行われたから発覚したことである。事実は事実として対応すべきではなかったのか? この団地には今回、杭が施工されていなかった棟と同時期に建設された市営住宅が6棟も存在しており、緑ヶ丘住宅と同じように適切な基礎が施工されていない建物が存在している可能性は高い。その団地では多くの方が日常生活を送っているのである。名古屋市は、早急に調査を行い、安全を確認できない建物の居住者には安全な建物に引っ越していただき、不適切な建物の是正を行うべきではないだろうか。名古屋市には人命最優先の方針で臨んでいただきたい。

【桑野 健介】

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