2024年04月29日( 月 )

【ブランド考】三陽商会、富士ゼロックス、日産自動車の場合~ブランド変更がもたらす打撃を検証(前)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

 ブランドとは、高級品として有名な商品と、その商標をいう。では、ブランドは誰のものか。答えは「消費者と企業のもの」だ。消費者が「ほかの商品と違う。絶対にほしい」と思わなければ、ブランドとして成り立たない。つまり、ブランドの主導権を握っているのは消費者なのだ。だから、ブランドを失うことは、消費者から見離されたことを意味する。企業にとって死活問題になる。

「バーバリー」ブランドを失った三陽商会の窮状

 キャメル地に黒・白・赤で構成されたチェック柄の「バーバリー」ブランドを失って5年。ファッション衣料大手、三陽商会は絶体絶命のピンチに立たされた。
 三陽商会は5月26日、東京・四谷の本社で定時株主総会を開いた。総会において、米投資会社RMBキャピタルによる経営陣の刷新を求める株主提案を否決、会社側の提案を賛成多数で可決した。

 1月に社長に就任したばかりの中山雅之氏は退任。会社側と株主側の双方が推す大江伸治氏が新社長に就いた。三井物産出身で、スポーツ衣料大手のゴールドウィンの再建に手腕を発揮した実績をもつ。今年3月に副社長に招かれた。総会は大江氏の信任投票としての性格があり、賛成率は98.19%と満票に近かった。

 三陽商会の2020年2月期(決算期変更にともなう14カ月の変則決算)の売上高は688億円。バーバリーが主力だった14年12月期の売上高1,109億円から4割近く落ち込んだ。最終損益は14年12月期の63億円の黒字が、20年2月期は26億円の赤字と4期連続の赤字に沈んだ。主力に据えた「マッキントッシュロンドン」などはバーバリーほどブランドが認知されなかった。

 さらに、新型コロナウイルス拡大の直撃を受けた。政府の緊急事態宣言が4月8日に発表され、各自治体による店舗営業への自粛要請を受けて、EC・通販を除く実店舗は月の半ば以降は休業。主要な販路である百貨店の4月の売上高は前年比11%と前年を大きく割り込み、全社合計で前年比19%となった。
 緊急事態宣言の解除を受け、百貨店は営業を再開したものの、消費回復はおぼつかない。三陽商会は最悪ケースで、21年2月期は105億円の営業赤字(20年2月期は28億円の赤字)を想定している。

 はたして、三陽商会は再建できるのか。大江新社長にとって、三陽商会の身売りが最大の仕事になるという観測が駆けめぐる。ブランドを失うことが、いかに致命的になるかを三陽商会は端的に示している。

富士ゼロックスは「ゼロックス」ブランドを使えない

 富士フイルムホールディングスの子会社の富士ゼロックスは、21年4月1日付で社名を「富士フイルムビジネスイノベーション」に変更する。23年3月末までの2年間は暫定的に「富士ゼロックス」ブランドをアジア太平洋市場で独占使用できるものの、「ゼロックス」に代わる新たなブランド名を早急に確立する必要がある。

 今後は富士フイルムブランドの事務機器を世界で販売し、ゼロックスが販売を担当してきた欧米市場にも参入する。両社はライバル関係になる。
 欧米ではコピーすることを「ゼロックスする」というほど「ゼロックス」ブランドが根強い。成熟市場の欧米に無名の新ブランドで参入するのは至難の業だ。新ブランドへの変更が、富士セロックス、もとい富士フイルムビジネスイノベーションの凋落の始まりとなるとの懸念が強い。

 富士ゼロックスは富士写真フイルム(当時)とゼロックスの折半出資の合弁会社として1962年に設立され、2001年にゼロックスが業績不振から保有株の半分を富士写に売却。
 18年11月に富士フイルムHDはゼロックスの買収を発表したが、ゼロックスが大株主の意向から反対に転じ、法廷闘争にまで発展。最終的に19年11月、富士フイルムHDはゼロックスが保有していた25%の富士ゼロックス株を買い取り、合弁関係を解消した。

 破談に至ったきっかけは、富士フイルムHDの“ドン”古森重隆会長兼CEOが買収発表の記者会見で「ゼロ円買収」を前面に打ち出したこと。富士ゼロックスを使って、ゼロックスを「現金支出ゼロ」で買収しようしたことに、ゼロックスの大株主たちは「詐欺的スキーム」だと噛みついた。「買収するなら身銭を切れ」というわけだ。

 古森氏は経営コンサルタントの助言に乗って「ゼロ円買収」のスキームに飛びついたが、それが最大の失敗。ゼロックスとの関係は切れ、ゼロックスに代わる新しいブランドの前途は見通せない。
 ゼロックス買収の失敗は、百戦錬磨の経営者である古森氏とって、上手の手から水が漏れる痛恨の一撃となった。「ただほど高いものはない」の諺を地でいった格好だ。

(つづく)

【森村和男】

(後)

関連記事