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2020年06月18日 13:00

新型コロナ後の世界~「将棋」を通して俯瞰する!(3)

棋士九段・日本将棋連盟常任理事 森下 卓 氏

 「新型コロナウイルス」後の世界は一変し、先が見えない時代が到来するといわれる。しかし、先が見通せないからと言って、不安になってばかりいては、私たちは前に一歩も進むことができない。今後の羅針盤となる、何か良い知恵はないものだろうか。
森下卓・棋士九段・日本将棋連盟常任理事に話を聞いた。陪席は山川悟・東京富士大学教授(経営学部長)である。山川氏はマーケティング論が専門だが、一方で詰将棋作家としての顔をもつ。東京富士大学は正規科目として「将棋」を開講している。

将棋には勝敗や勝率に表れない、別の面白さがあります

 ――「将棋」そのものの話に入ります。将棋は「400年の伝統を誇る」と言われます。

 森下 将棋は約2500年前のインドの「チャトランガ」が起源と言われています。西洋に伝来して「チェス」になり、東洋に伝来して「将棋」になりました。日本将棋は、インドから、中国、朝鮮半島を経て、日本には7世紀から8世紀に伝わったとされています。

 2018年には、奈良の興福寺で13年に発見された平安時代の将棋駒「酔象(すいぞう)」など10点が初公開されました。徳川家康が天下をとり、幕府に将棋所(江戸時代、将棋をもって幕府に仕えた家柄)がつくられました。もともとは貴族の遊びとされていましたが、江戸時代に入って庶民にも一気に広がりました。初代名人は大橋宗桂で1612年に誕生しています。

 一般の方には、将棋のルールは少し難しいと言われています。しかし、棋士として残念に思うのは、将棋はルールをある程度学んでいただかないと、その面白さがご理解いただけないことです。たとえばある棋士が勝率8割を3年以上続けたと聞けば、数字上から、一般の方にも、その棋士がすごいということがわかります。

 しかし、将棋には、勝敗や勝率には表れない面白さがあります。「奇手」「妙手」や「会心の一手」(こんな手を指せたら一生将棋が止められなくなる)といわれるものです。「この局面で、どうして、こんな手を考えつくのか!」ということがすごく面白いのです。野球の「何でこんな球を打てるのか!」とか、音楽の「何でこんな美しい音が出せるのか!」に似ています。

 さらにいえば、将棋の王将を護る囲いには、「美しい手」や「美しい形」(将棋の駒の連携やバランスがとてもよくとれている)という表現もあります。読者の皆さまにも、ぜひこの面白さを知っていただきたいと思っております。

低年齢から戦術、戦略思考を養うために「将棋」は有効

 森下 天才数学者と言われた岡潔博士(1901年-1978年、奈良女子大学名誉教授)は「江戸時代の2大天才は、俳句の松尾芭蕉と将棋の伊藤看寿(1719年‐1760年、将棋家元三家の伊藤家出身。八段、死後に名人位を追贈される)である」という言葉を残しています。

 私は低学年から、戦術・戦略思考を養うことができるという点で、「将棋」をぜひ義務教育(小学校、中学校)の正規科目に入れて欲しいと思っております。大学では近年、正規科目や特別講座などを含めて、将棋を学習していただけるところがとても増えてまいりました。

駒特有の個性を尊重し、それぞれに働き場所を与える

 山川 歴史上、将棋の危機は2度ありました。1度目は明治維新で、それまで幕府から俸禄を貰っていた将棋家の家元(名人)が廃業したときです。しかしすぐに、在野の棋士たちが集まり、現在の将棋連盟の前身となる組織ができました。将棋は武士にも庶民にも幅広く愛されていただけではなく、一種の習い事・技能向上が必要とされる文化として認識されていたからこそ、維持されたのだと思います。

 2度目は、第二次大戦後、持ち駒を使用する日本将棋独自のルールは「捕虜虐待」につながる精神文化だとして、GHQから将棋廃止命が出されたときです。このときは、升田幸三・実力制第四代名人が次のように活躍して難を逃れたと言われています。

GHQと升田幸三 実力制第四代名人のやり取り(抜粋)

 GHQ「チェスと違い、将棋は取った相手の駒を自分の兵隊として使用する。これは捕虜の虐待であり、人道に反するものではないか」
 升 田「冗談ではない。チェスこそ、捕虜の虐待、いや虐殺だ」「将棋では、常に全部の駒が生きておる。これは能力を尊重し、それぞれに働き場所を与えようという思想だ。こんなすばらしいゲームはない」

(つづく)

【金木 亮憲】


<プロフィール>
森下 卓(もりした・たく)

 1966年北九州市生まれ。将棋棋士(九段)・日本将棋連盟常任理事。花村元司九段門下。タイトル戦登場6回、棋戦優勝8回、竜王戦1組16期、順位戦A級10期。居飛車党の正統派で受けの棋風。森下システムを考案し、升田幸三賞特別賞を受賞。棋界の超大御所、大山康晴十五世名人に対し無類の強さを発揮し、通算成績は6勝0敗(大山が生涯一度も勝てなかった唯一の棋士)。優勝は、全日本プロトーナメント1回(第9回-1990年度)、日本シリーズ2回(第28回-2007年度・第29回-2008年度)など多数。将棋大賞として、2000年に将棋栄誉賞(通算六百勝達成)、2010年に将棋栄誉敢闘賞(通算八百勝達成)を受賞。
 著書に『将棋基本戦法 居飛車編』(日本将棋連盟)、『8五飛を指してみる本』(河出書房新社)、『森下の対振り飛車熱戦譜』(毎日コミュニケーションズ)、『なんでも中飛車』(創元社)など多数。


山川 悟(やまかわ・さとる)
 1960年東京都生まれ。法政大学法学部卒。東京富士大学教授(経営学部長・学務部長・経営学研究所所長)。広告会社のマーケティング部門において、広告・販売促進計画、ブランド開発、商品開発などに携わり、2008年より現職。専門は、マーケティング論、創造性開発(企画力育成、事業モデル開発支援など)、コンテンツビジネス論。武蔵野美術大学講師。
 著書に『応援される会社』(光文社)、『コンテンツがブランドをつくる』(同文館)、『不況になると口紅が売れる』(毎日コミュニケーションズ)、『創発するマーケティング』(日経BP企画)、『事例でわかる物語マーケティング』(JMAM)、『企画のつくり方入門』(かんき出版)などがある。
 詰将棋作家としての作品にスマートフォンアプリ「山川悟の詰将棋1~3」(空気ラボ)。

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