2024年04月29日( 月 )

コロナの先の世界(14)新型コロナ後の北東アジアの姿(1)

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 NetIB‐Newsでは、国際経済連携推進センター(JCER)の記事を掲載している。今回は2020年6月11日付の記事を紹介。


(公社)日本経済研究センター 首席研究員 伊集院 敦

 新型コロナ危機が収束した後、日本を取り巻く北東アジア地域はどう変わるのか。今回の危機で米中の分断が加速し、その影響が北東アジア地域を直撃することは避けられないだろう。米中の分断圧力により北東アジアという地域はズタズタに引き裂かれるのか、それとも危機をチャンスに変えて、まとまりのある地域として発展していくのか。この地域の将来の姿は、今後数年の取り組みによって、相当違ったものになるのではないか。

新型コロナをめぐる北東アジアの協力と競争

 コロナ危機が発生して以来、北東アジアでは対策をめぐって、関係国の協力と競争がさまざまなかたちで繰り広げられている。もっとも注目されたのが中国の動きだ。初めに感染が広がった中国は、国内が少し落ち着きを始めると世界規模で「マスク外交」を展開し、日本、韓国はじめ周辺国に対する協力にも機敏に動き出した。

 北朝鮮をめぐっては、米国、中国、韓国などの主要関係国が保健協力を申し出るかたちとなった。核・ミサイル開発を進める北朝鮮は、一方でその医療・防疫体制の弱さが懸念されている。米韓の申し出は人道支援にとどまるが、膠着状態にある非核化交渉や南北対話再開の呼び水としての効果が期待されたのも事実だ。

 そのなかで、北朝鮮側が重視したのは中国との関係だった。金正恩・委員長が5月上旬に口頭親書を送り、習近平・国家主席から「私は中朝関係を重視している」「求めに応じて力のおよぶ限り支援したい」との口頭返書を引き出した。米中対立が激化するなか、中国としては足元の周辺国との関係を固めたいところだ。北朝鮮が生き残りのため、北東アジアの大国間競争を利用したことは容易に想像できよう。

 韓国の大統領府も、金委員長から文在寅・大統領宛ての親書を受け取ったと発表した。韓国国民に慰労の意を伝える内容だったといい、南北協力を重視する文政権に恩を売るとともに、韓国の世論対策の思惑があったのかもしれない。

 多国間の協力では、北東アジアの中核である日中韓3カ国の外相が3月20日にテレビ電話会議を開いた。しかし、その際に合意した3カ国の保健相会合がテレビ会議方式で開かれたのは5月15日で、開催までに2カ月近い時間を要した。

 その間に、主要7カ国(G7)や20カ国・地域(G20)などのテレビ会議が首脳レベルで開かれた。日本の外交当局は「優先度が高いものからやっており、中韓両国とも東南アジア諸国連合(ASEAN)プラス日中韓の首脳のテレビ会議などの枠組みで情報交換した」と説明するものの、日中韓3カ国の協力は地理的な近さの割に希薄な印象を与えた。

 ちなみに、その間、日本は中国とは2国間でも外相の電話会談が行われたものの、韓国とは6月3日まで行われなかった。韓国が日本の輸出管理をめぐって世界貿易機関(WTO)への提訴手続きを再開したことに遺憾の意を伝えた電話だ。日中韓の3カ国協力の遅れは日韓関係悪化の影響が一因との見方もあり、5月8日付日本経済新聞は「協力の枠組みが整っているのに、国内の反発を意識して互いに支援の話をしにくい状況だ」という小此木政夫・慶應義塾大学名誉教授のコメントを紹介した。

(つづく)


<プロフィール>
伊集院 敦(いじゅういん・あつし)

 1961年生まれ。85年早稲田大学卒、日本経済新聞社入社。ソウル支局長、中国総局長、アジア部編集委員などを経て、2018年から(公社)日本経済研究センター・首席研究員。中国・清華大学、延辺大学大学院に留学。
 著書多数。近著に『技術覇権 米中激突の深層』(編著、日本経済新聞出版社)。

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