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2020年06月24日 07:00

前駐ベトナム大使・梅田邦夫氏特別講演レポート「日本にとってのベトナムの重要性」(5)

 NetIB-Newsでは、DEVNET INTERNATIONALから提供いただいた前駐ベトナム日本国大使・梅田邦夫氏の講演レポート((公社)ベトナム協会)を紹介する。今回は前回に引き続き「ベトナムが日本にとって重要になった2つの理由」について。

アセアンのなかのベトナム

 次に、アセアンのなかにおけるベトナムを見てみたいと思います。ベトナムの対外政策は、アセアンに軸足を置きつつ、「全方位外交」が基本です。

 ベトナムは、アセアンに1995年に加盟しました。古田(元夫・元東京大学副学長)日越大学(ハノイ)学長は、その著書のなかで、ベトナムにとってのアセアン加盟の意義として、次の4点を指摘されています。

 第1に、ベトナムのアセアン加盟は、ラオス、ミャンマー、カンボジア加盟に道を開き、地域の一体化を促進、アセアンの国際的地位を高めた。

 第2に、アセアン加盟は、ベトナムのAPECやWTOへの加盟、東アジア共同体構想への参画など、ベトナムの国際的地位向上に貢献した。

 第3に、アセアンはベトナムに経済発展のモデルを提供するとともに、アセアンを軸とする自由貿易圏が形成されたことにより、ベトナム経済のグローバル化を促進した。

 第4に、アセアン10の実現は、アセアン内部に格差問題を持ち込んだが、ベトナムがCLMV(カンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナム)と呼ばれる後発国のけん引役という重要な役割を担うこととなった。また、メコン圏開発などのチャンスをベトナムにもたらした。

 指摘されている4つの意義はその通りであり、アセアン加盟はさまざまな利点をベトナムにもたらしました。

 しかしながら、中国によるASEAN分断化が、2012年のASEAN外相会議(於プノンペン)で共同声明が史上初めて発出できなかったころから顕著となり、今やアセアンの「統一性」と「中心性」は、大きく傷ついています。

 アセアン10カ国のなかで、南シナ海問題に関連して、カンボジアが中国の代弁者的役割をはたしていますが、数年前まで、中国批判を行っていたフィリピンやシンガポールも口を閉ざすようになり、首尾一貫した姿勢を維持しているのは、ベトナムのみとなりました。

 アセアン内部の決定は、コンセンサス方式ですが、カンボジアは実質上の拒否権を有しています。アセアン内部では、意思決定プロセスを再構築する必要があるとの意見が出ています。

 フィリピンは、16年にアキノ大統領からドゥテルテ大統領に交代してから、仲裁裁判の結果に対して言及を控えるようになり、中国との関係改善が進みました。その一方で、人権問題が絡んできて対米関係がおかしくなり、今年2月には「訪問軍地位協定」(VFA)協定の破棄を米側に通告しました。

 シンガポールは、中国から執拗な嫌がらせを受け、一時期、中国批判を公言しなくなりました。

 長年アセアンのリーダー的立場にあったインドネシアは、14年にユドヨノ大統領から、ジョコ・ウィドド大統領に交代し、対外関係への関心が以前より弱くなり、同国は高速鉄道建設などで対中国配慮が強まりました。

 しかしながら、昨年12月、ナツナ諸島内で違法操業していた中国漁船60隻と2隻の中国海警船に対し、インドネシア政府は海軍艦艇8隻、空軍戦闘機4機を派遣し、退去に追い込んだ経緯があり、今後、インドネシアが、南シナ海問題に関して、アセアン首脳会議や東アジア首脳会議の場でどのような発言をするか注目されます。

ベトナム・中国関係

 ベトナムは、10世紀までの千年間、中国の支配を受け、その後千年間、70年から100年ごとに中国の侵略(13回)に抵抗してきました。ベトナムの歴史は、中国への抵抗の歴史と言っても過言ではありません。最近50年間だけでも3回(1974年、79年、88年)、中国の軍事侵略を受けています。

 このような歴史的背景もあって、ベトナムは政府のみならず、国民も強い対中警戒感を維持し、平時は友好関係維持に努めるものの、主権侵犯行為に対しては、断固とした対応をとると繰り返し明言しています。

 なお、ベトナムは「共産党一党体制」の国ということで、「中国の弟分」のように見ている人が、日本にも、欧米にも多くいます。私自身も、ベトナムで勤務するまでは、よく似ているだろうと考えていました。
 両国は、一見「器」は似ていますが、「統治の中身」は大きく異なります。ベトナムは、中国のような強権国家ではありません。ベトナム共産党と中国共産党との違いなどについては別の機会に詳しく論じたいと思います。

人身売買

 また、中国に隣接するベトナムの複数の省では、現在も人身売買が横行しています。2016~19年の3年間の被害者は、2,600人以上であり、この内9割の被害者が中国に売り飛ばされています。同様の人身売買は、陸の国境を接しているラオスやミャンマーでも発生しています。
 中国は、「一人っ子政策」の結果、結婚適齢期の男性が女性より3,000万人近く多いと言われています。その結果、貧しい農村地域の男性が、ベトナム人の妻を買ったが、妻が逃げ帰ってきた等の実話が、年に何回かベトナムで報道されます。

中国の重要性

 その一方で、中国はベトナムにとって最大の貿易相手国です。また、陸の国境は、1,400kmを共有し、日々の人的往来も多いです。ベトナムには、日本企業も含め多くの外国企業が進出していますが、原材料や部品の供給は中国に大きく依存しています。
 さらに、19年、1,800万人の外国人がベトナムを訪問しましたが、うち32%の580万人が中国人でした。中国と良好な関係を保つことは、安全保障のみならず、経済発展の観点からも、ベトナムにとって非常に重要です。

 いまや圧倒的な経済力、軍事力を有する中国と対峙するようなことは、避ける必要があるも、主権や領土を脅かす中国の行為に対して弱腰とみられれば、国民の支持を失います。対中関係は、ベトナム指導者にとってもっとも難しいかじ取りを必要とするテーマです。

(つづく)

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