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2020年06月29日 09:00

コロナの先の世界 (15) イスラエルの経験と教訓(4)

東洋英和女学院大学 学長 池田 明史

 NetIB‐Newsでは、国際経済連携推進センター(JCER)の記事を掲載している。今回は、情報コミュニティを活用してコロナ抑制に成功したイスラエルの事例を基に、生存権(感染阻止)と生活権(プライバシー保護)とのバランス問題について(2020年6月16日)。

コロナの先の世界への教訓

 イスラエルに限らず、自国の国民を感染から守るという大義名分を掲げて、さまざまなかたちの監視技術の開発や導入に血眼になる国家が増えつつある。しかしそれらの新たな技術とその適用に関しては、厳しい管理と制御の下に置き、その期間も明示的に限定されるべきことが重要であろう。とりわけ、我々がこのコロナ禍から、いつ、どのように脱することができるのかが見通せない現在にあって、安易に国家の用意する新しい監視システムを白紙委任的に受け容れていいのかについては慎重な検討が必要となる。

 また、起業したばかりのベンチャー事業者から、GoogleやAppleといった巨大企業まで、民間部門もスマホのアプリケーションによるトラッキング技術の開発と売り込みに血道を上げているのが現実である。アプリケーションは個人の判断でダウンロードするので、個別明示的な許諾を与えたと解釈されることにはなろう。しかしそれら民間企業のシステムを導入することがプライバシーをより安全に守れるという保証はどこにもない。これまでの大量の情報流出事案を振り返れば明らかであろう。実際、イスラエルがトラッキングを情報コミュニティに頼ったのは、民間企業に依存するよりもプライバシー侵害のリスクを減殺できるとの判断に基づくものであった。

 今回の新型コロナ禍が収束するとしても、将来にわたって新たなウイルスによる新たなパンデミックの発生は避けられない。見えない脅威によるパニックや不安心理は、いつ完成するかわからない特効薬やワクチンの開発という地道で時間のかかる正攻法に資源を投入するよりも、感染の拡大防止に即効性があるように見えるトラッキングその他の監視技術への期待を膨らませる傾向を生み出す。しかし、いったん不用意にそれら一時しのぎの監視システムが導入されれば、これを廃絶するのは至難の業となる。場合によっては、目的や目標が定められない監視のための監視社会が出現するリスクにさえつながりかねないのである。

 コロナの先の世界を見据えようとするとき、我々は新たな監視技術の利便性や有益性を正しく把握する一方で、それが自由で民主的な我々の社会をどのように変容させるかについても認識を共有しておかねばならない。イスラエルにおける情報コミュニティ活用の経験と、これにかかわる論争は、その意味で有意義な教訓を残すものである。

(了)


<プロフィール>
池田 明史(いけだ・あきふみ)

 1955年生まれ。80年東北大学卒、アジア経済研究所入所。97年東洋英和女学院大学社会科学部助教授、2014年から同大学学長。専門は国際政治学、地域研究(中東)。
 著書多数。『途上国における軍・政治権力・市民社会――21世紀の「新しい」政軍関係』(共著、晃洋書房)など。

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