2021年12月07日( 火 )
by データ・マックス

イージス・アショア中止は日本発の防衛システムへの転換点(1)

国際政治経済学者 浜田 和幸 氏

 去る6月15日、河野太郎防衛大臣は陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の配備計画の停止を発表した。日本国内のみならず、周辺国や製造元のアメリカにも「なぜだ?」と激震が走った。何しろ、「機密保持」を理由に事前の根回しがなく、自民党内からも「太郎にしてやられた!」との驚きの声が挙がったほどだ。

 安倍政権はトランプ大統領からの「バイ・アメリカン」の要求を忠実に実行してきた。「対外有償軍事援助(FMS)」の名の下で、日本はアメリカ製の兵器を次々に購入している。今回、大きなニュースとなった「イージス・アショア」は氷山の一角に過ぎない。無人偵察機「グローバル・ホーク」、ステルス戦闘機「F35」、迎撃ミサイル「PAC-3」など、枚挙にいとまがない。

 イージス・アショアの白紙撤回の理由とされた「想定外の経費増大」は、日本がアメリカから購入するほかの兵器と比べれば、大した額ではない。「地域住民の懸念や反対」についても、今に始まったことではない。第一、ブースターが住宅地に落下する恐れがあるとの指摘など、後付けの説明としか思えない。最近話題の航空路変更によって、羽田空港発の民間旅客機が東京都内に落下する危険性の方がはるかに大きいだろう。

 「イージス」の名前の由来はギリシャ神話に遡る。ゼウスが愛する娘アテナに与えた、すべての災いを払いのける「イージスの盾」に因んだとされる。北朝鮮に限定することなく、ロシアや中国からのミサイルが飛来した場合にも、日本を守ってくれる頼もしい万能の盾という触れ込みだった。しかし、その盾の実際の有効性についてはアメリカにおいても疑問符が付きまとってきた。

 というのも、イージス・アショアに搭載される予定のレーダーの開発がアメリカでは未完成のままなのである。なぜなら、従来のイージス艦で使用されている「SPY-1Dレーダー」は出力が強すぎて周囲の環境に悪影響を与えるため、地上では使えないからだ。当然、平時での訓練にも人体への影響が大き過ぎて使えない。

 そこで、ロッキード・マーティン社が提案した「LMSSR」という最新鋭のレーダーの採用が提案されることになった。しかし、こちらは先行するレイセオン社の「SPY-6レーダー」のような製造実績もなく、必要な実験すら一切行われていないのである。しかも、当初は日本の富士通が開発した、次世代パワー半導体の材料「ガリウムナイトライド」を利用する計画であったが、ロッキード・マーティン社は経費がかさみ、納期も遅れるという言い訳で、富士通を締め出したという経緯もあった。

 弾道ミサイル防衛の分野では航空自衛隊はPAC-3、海上自衛隊はイージス艦をすでに運用している。そこで、何も所有していない陸上自衛隊に売込みの白羽の矢が立ったのである。もし、イージス艦を運用する海自と新たにイージス・アショアを導入しようとする陸自の専門家の間で十分な情報交換が行われていれば、LMSSRの問題も回避できた可能性は高い。

(つづく)

<プロフィール>
浜田 和幸(はまだ・かずゆき)

 国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。最新刊は19年10月に出版された『未来の大国:2030年、世界地図が塗り替わる』(祥伝社新書)。2100年までの未来年表も組み込まれており、大きな話題となっている。

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