2024年03月29日( 金 )

変貌しつつある大阪港 「クルーズ客船母港化」は実現するか?(後)

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急速に冷え込んだコロナ禍のクルーズ市場

 大阪港のクルーズ寄港回数の実績を見ると、14年が13回、15年が21回、16年が28回、17年が50回、18年が45回、19年が62回。増加基調にはあるが、クルーズ需要の旺盛な中国に近い九州の各港と比べると、数の上では1ケタ少ない。市では、母港化の当面の目標として、「万博開催までに年間100隻」を掲げている。なお、港湾計画上は、20年代後半に「129隻」を目指している。ちなみに19年の国内トップは、那覇港の260回。

 国土交通省によれば、中国のクルーズ市場は18年以降、調整局面に入っており、19年の日本への寄港回数は2,867回と前年度比2.2%の減少となっている。中国配船の減少により、これまで集中していた九州への寄港が軒並み減少した一方、九州以外への寄港が増加し、「寄港地の分散化」が進みつつあるとしている。

 ただ、新型コロナウイルスを受け、主要クルーズ船社が運行を休止。世界のクルーズ業界は急速に冷え込みを見せている。今年2月、集団感染が発生したクルーズ船ダイヤモンド・プリンセスの一件は、クルーズ旅行に対するネガティブなイメージを国内外多くの人々に植え付けた。
 「クルーズ旅行=コロナ感染」「コロナが発生したら、上陸も許されず、船内で監禁状態」―――と、そういうイメージが定着したわけだ。マーケットがいつ正常化するかは誰にもわからない。クルーズ誘致だけでなく、日本政府が目指す「観光立国」自体が見直しを余儀なくされる可能性すらある。

 明日の日本を支える観光ビジョン構想会議(議長:安倍晋三首相)は16年、「明日の日本を支える観光ビジョン」のなかで、「訪日クルーズ旅客を2020年に500万人」という目標を掲げた。この目標のもと、日本のクルーズ政策は進められてきたわけだが、19年の旅客数は215万人程度にとどまっている。
 今の状況での目標達成は、困難というより絶望的だ。今になってみれば、「明日の日本」をクルーズ旅客などインバウンドに「支えてもらう」という文言自体スゴいが、その目標が未達になった場合(しかも半分も達成できない可能性大)、日本政府はどうするのだろうか。これまでの経緯を考えると、不安しかない。

ターミナルイメージ(大阪市天保山客船ターミナル整備等PFI事業-資料)

大阪は寄港地人気も、中国一辺倒を避ける

 大阪市職員は「大阪は、クルーズ寄港地として、中国人から人気がある。これを取り込んでいきたい。だが、中国一辺倒になるつもりはない」と話す。欧米人を含め、多角的な客層の取り込みを狙っているようだ。

 大阪市が中国一辺倒を避けるのには、大阪港までの寄港日数の問題がある。中国のクルーズ便は、3泊4日のショートクルーズが中心だ。上海発だと、距離的に九州まで行って戻るのが最適なルートになる。国内寄港地に九州各港が多いのは、このためだ。
 上海から大阪まで3泊4日は日程的に厳しく、4泊5日でギリギリだろう。寄港回数を稼ぐなら、中国便を取り込むのが手っ取り早いのはたしかだが、必要な日数を確保するとなると、大幅増は見込めない。だったら、数十日間乗船するロングクルーズの取り込みにも力を入れようというわけだ。

 大阪港の強みは、ユニバーサルスタジオや心斎橋、新世界など大阪市内の観光スポット、さらに京都や奈良など関西の観光地を後背地に抱えていることだ。関西国際空港にも約30分(高速道路の場合)でアクセスでき、フライ&クルーズが可能なこと。クルーズターミナルには大阪メトロ大阪港駅が近く、鉄道による市内などへのアクセスが容易なことなどが挙げられる。

IRで獲得できるか、新たなクルーズ客

 最近では、船社や船客から「京都や奈良にはもう行った。もっとほかにはないのか」という声が聞かれるようになっており、以前より「より上質な寄港地」を求めるようにはなっているようだ。とはいえ、世界の観光地をめぐる目の肥えた客を満足させる新たな観光スポットなど、容易に開発できるものではない。

 この点、大阪府市が誘致を進めているIRは、大きな観光の目玉になる可能性を秘めたプロジェクトだといえる。大阪市では、IR会場となる夢洲に小型旅客船の乗り場を整備する計画だ。現在は検討段階だが、将来、クルーズ客が船でIR会場に乗り付ける姿が見られるかもしれない。世界が「アフターコロナ」の時代をうまく乗り切れればの話だが・・・。

(了)

【大石 恭正】

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