2024年04月24日( 水 )

「新型コロナ」後の世界~地方自治、観光、文化活動の行方!(2)

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立教大学経済学研究科 特任教授 小室 裕一 氏 

 新型コロナはさまざまな分野に影響をおよぼした。とくに地域の経済成長の特効薬とみなされてきたツーリズム(インバウンド)への影響は大きい。日本国内に限らず、バリ島など世界の観光地ではホテルの投げ売りも始まり出した。今後の地方自治、観光、文化活動の行方はどうなっていくのであろうか。
 小室裕一 立教大学 経済学研究科 特任教授に聞いた。小室氏は元総務省自治税務局長、その後首都圏新都市鉄道(株)代表取締役専務、(一財)地域総合整備財団 監事などの重職を歴任。一方で、(公財)全日本ダンス協会(連) 常任理事、NPO法人東京シティガイドクラブ副理事長、NPO法人日本マンガ・アニメトキワ荘フォーラム副理事長など、幅広く文化活動に参画、地方公共団体の自力再生に尽力されている。

絶大な力と資金をもっている東京都があれだけ苦戦した

 ――地方自治における新型コロナの影響に関して教えてください。「緊急事態宣言」こそ解除(5月25日)されましたが、交通手段を含めてBefore Coronaとはほど遠く、回復の見通しも立たない状況にあります。また、緊急事態宣言下では、国任せではなく、各知事は自らの権限を最大限に行使することができた筈ですが、一部を除き、地方の独自性はほとんど見られませんでした。

 小室 地方自治はそれぞれ程度の差はありますが、行政は、国と知事、そして市町村で分担しています。国は法律だけでなく、政令、省令などを通じて自治体にある程度の方向性を出しています。従って、知事はあくまでも、その方向性に沿うかたちで、物事の判断をしていかなければなりません。

 東京都の「休業問題」()で、東京都と国が対立したことがいい例です。結果的に感染爆発の重大局面と危機感を募らせた東京都が、休業を要請する対象施設(問題となっていた百貨店やホームセンター、理髪店などは休業の対象外とし、百貨店は食品や生活用品売り場以外は休業を求め、居酒屋は営業時間の短縮を要請した)を決め、要請に協力した事業者には最大100万円を「感染拡大防止協力金」という名目で支給することを決定しました。

立教大学経済学研究科 特任教授
小室 裕一 氏

 しかし、この東京都と国の一連のやり取りを見守った各自治体の知事は、ある意味で出鼻を挫かれたように感じたのかも知れません。それは、絶大な力と資金をもっている東京都があれだけ苦戦し、対象施設などに関しては、国に従ったからです。また、休業要請は国がやるのではなく、各自治体が行います。当然、休業要請は補償とセットで行うのが筋です。あれだけ、豊かな財力をもっている東京都をして「あそこまでしかできないのか」ということを感じたと思います。事実、東京都も感染拡大防止に使える基金として用意した約1兆円は使いはたし、2度目の休業要請は出しにくい状況になっています。

保健所には緊急事態に対応する用意がなかった

 小室 今回の新型コロナと地方自治体との関係では「保健所」の存在がとても重要です。

 テレビなどをご覧になられていると、この問題に関し、各都道府県の知事が発言すること、東京23区の区長や大都市の市長が発言することなど、さまざまなケースがあったことにお気づきと思います。たとえば、東京の保健所は、23区の場合は各区長の管轄にあり、多摩の方に行けば都の管轄(八王子の保健所は八王子市)になります。同様に、地方自治体の保健所は、基本的には知事の管轄ですが、政令指定都市はもちろん、人口30万人以上の都市(中核市)の保健所は、多くの場合その市の管轄になっています。

 なぜ、保健所の問題が重要なのかと言いますと、保健所というものは、日常的には食品衛生、保健指導など、比較的地味で堅実な仕事が多く、突発的な事件の緊急事態に対応する用意はできていないからです。人数も限られており、今回は保健師など、OB、OGに積極的に働きかけを行いましたが、職種の性格からいって、一気に増やすことはできませんでした。また各自治体で対応に大きな差もでました。災害などを含めて、緊急時の体制整備が可能な、柔軟な組織の在り方なども今後の重要な課題になると思っています。

過度の東京集中機能はよくないと多くの人が感じた

 小室 1つの危機対応の在り方として、今回多くの会社や団体で行われた、職員をAチーム、Bチームと分けて交互に出動、出勤させることなどは、今後パターン化していく可能性があります。これは国家機能としての「地方創生」や「地方分散」のヒントにもなります。近年、あれだけ地方創生が叫ばれたにも拘わらず、工場も営業所も、東京1極集中が止まっていませんでした。急には難しいでしょうが、企業であれば、本社を含めて過度の東京集中機能はよくないと多くの人が感じたことと思います。また、国家機能としても、東の東京が壊滅しても、西の大阪が肩代わりして機能できるとか、九州は福岡に、北海道は札幌に、任せるなど、危機管理体制の見直しも進んでいく可能性があります。

※:東京都「休業問題」

 新型コロナウイルス感染拡大を受けて、安倍首相は4月7日の緊急事態宣言で、「人と人との8割の接触削減」などの行動自粛を呼びかけた。しかし、特定業種に対する休業要請の是非をめぐり政府と小池都知事の対立が表面化した。

 改正特別措置法(新型コロナ特措法)に基づき、商業施設などへ広範囲に休業を要請することに前向きだった小池知事に対し、政府は経済・社会への深刻な打撃や不安による買い占め拡大などを危惧し、「休業要請は自粛の成果を見極めてから」(西村 コロナ担当相)と主張した。小池知事は安倍首相の緊急事態宣言と同時に、百貨店やホームセンター、理髪店、居酒屋など、幅広い業種・施設を対象に休業要請を決定・公表する段取りを描いていた。 これに対し政府側は、コロナ担当の西村経済再生相を前面に立て、宣言の前提となった基本的対処方針を踏まえて「国民の日常生活維持の観点から、理髪店やホームセンターは必要だ」などと待ったをかけ、調整は2日間にわたって続いた。^

(つづく)

【金木 亮憲】


<プロフィール>
小室 裕一
(こむろ・ゆういち)
1974年東京大学法学部卒業後、自治省入省。79年群馬県行政管理課長、87年自治省財政局交付税課理事官、89年大阪市経済局参事としてデュッセルドルフ駐在、92年青森県総務部長、96年自治省行政局振興課長、2001年総務大臣官房審議官、05年総務省自治大学校長、総務省自治税務局長を経て、首都圏新都市鉄道(株)代表取締役専務、(一財)地域総合整備財団 監事などを歴任。現在は立教大学特任教授、明治大学ガバナンス研究科兼任講師、NPO法人 日本マンガ・アニメトキワ荘フォーラム副理事長、(公財)全日本ダンス協会連合会 常任理事、NPO法人東京シティガイドクラブ副理事長を務める。

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