2024年04月26日( 金 )

「新型コロナ」後の世界~地方自治、観光、文化活動の行方!(1)

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立教大学経済学研究科 特任教授 小室 裕一 氏 

 新型コロナはさまざまな分野に影響をおよぼした。とくに地域の経済成長の特効薬とみなされてきたツーリズム(インバウンド)への影響は大きい。日本国内に限らず、バリ島など世界の観光地ではホテルの投げ売りも始まり出した。今後の地方自治、観光、文化活動の行方はどうなっていくのであろうか。
 小室裕一 立教大学 経済学研究科 特任教授に聞いた。小室氏は元総務省自治税務局長、その後首都圏新都市鉄道(株)代表取締役専務、(一財)地域総合整備財団 監事などの重職を歴任。一方で、(公財)全日本ダンス協会(連) 常任理事、NPO法人東京シティガイドクラブ副理事長、NPO法人日本マンガ・アニメトキワ荘フォーラム副理事長など、幅広く文化活動に参画、地方公共団体の自力再生に尽力されている。

日本人の強いところ、弱いところが浮き彫りにされた

 ――新型コロナ後の地方自治、観光、文化活動などについて、Before CoronaとAfter Coronaの観点から、うかがいます。本題に入る前に、今回の新型コロナ騒動を俯瞰していただけますか。

立教大学経済学研究科 特任教授
小室 裕一 氏

 小室裕一氏氏(以下、小室) 私は疫学の専門家ではありませんので、生活体験や過去の経験に基づいてお話しさせていただきます。今回の新型コロナでは、日本の置かれている位置や日本人の強いところ、弱いところが浮き彫りにされたと感じています。日本の特徴は、狭い国土でかつ、可住地面積(総面積から林野面積と主要湖沼面積を差し引いた面積)が少ないところに多くの人が住んでおり、人口密度が高いということです(2018年時点で日本の面積は世界で第60位、人口密度は第25位)。

 大都市でも農村(集落を含む)でも、可住地面積は限られています。ヨーロッパのように城壁に囲まれた都市というわけではありませんが、一方でアメリカのように非常に分散して住んでいるわけでもありません。そこでは、集団として生活をする延長線上で、何かを独裁的に決めるというわけではなく、ある意味、長老が今までの経験を基に「皆が納得するようなかたちで」集団の合意を求めていく傾向にあります。

 また、日本人は人種としても民族(農耕民族)としても、ある程度の大きな集団を構成し、行動や決定をするのは得意ですが、1人の傑出した人物の意見を尊重し、異説を積極的に取り入れて審議する傾向にはありません。さらにいえば、良くも悪くもルールが明確になっていません。一方で、はっきりしたルールはないのですが、暗黙知として「手をよく洗う、お風呂によく入る、マスクも抵抗なく受け入れる」など「他人に迷惑をかけないように行動しよう」という気持ちをもっています。

変化が目まぐるしい時代の「和を以て貴しとなす」の限界

 小室 しかし、新型コロナも含めて、時代や環境が大きく変わり、今までの経験では乗り越えられない事態に直面したときには反応が遅くなり、うまく機能しません。国家体系も含めて今まで自力で変えることのできなかったシステムの問題点が今回見事に露わになりました。

 この点は、自治体関係者はもちろん、多くの国民の皆さまも実感されたと思います。聖徳太子の十七条憲法にある「和を以て貴しとなす」(何をするにもみんな仲良く争わないのが良い)はすばらしいお言葉ですが、それだけでは、変化めまぐるしい現代においては、会社にしても学校にしても、限界が見えてきました。

今心配なのは、むしろ再開されていく経済

 小室 すべてをいきなり抜本的に変えることはできませんが、過去のものを十分に尊重したうえで、どのように対応していくかが今まさに問われています。ただし、今回の新型コロナによる「3密」を避けるなどの疫学的見地からの対応については、すでに多くの国民の皆さまは十分に理解されています。

 むしろ心配なのは、今後再開されていく経済についてです。抽象論で「経済は止めずに動かすべきだ」という声はあります。しかし、では「何をどうしたら良いのか」という真正面からの議論は聞こえてきません。たとえば、徐々に再開されていくとはいえ、居酒屋などに入ることができる人数、劇場などで鑑賞することのできる人数は、少なくとも年内は50%以下になるでしょう。それで、経済的に成り立っていくのでしょうか。これは給付、融資などの資金援助とは別次元の問題です。

(つづく)

【金木 亮憲】


<プロフィール>
小室 裕一
(こむろ・ゆういち)
1974年東京大学法学部卒業後、自治省入省。79年群馬県行政管理課長、87年自治省財政局交付税課理事官、89年大阪市経済局参事としてデュッセルドルフ駐在、92年青森県総務部長、96年自治省行政局振興課長、2001年総務大臣官房審議官、05年総務省自治大学校長、総務省自治税務局長を経て、首都圏新都市鉄道(株)代表取締役専務、(一財)地域総合整備財団 監事などを歴任。現在は立教大学特任教授、明治大学ガバナンス研究科兼任講師、NPO法人 日本マンガ・アニメトキワ荘フォーラム副理事長、(公財)全日本ダンス協会連合会 常任理事、NPO法人東京シティガイドクラブ副理事長を務める。

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