2024年03月29日( 金 )

コロナで変わる防災――1人ひとりが“自分ゴト”として備えを(前)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

九州大学男女共同参画推進室・准教授 杉本 めぐみ 氏

ハードからソフトまであらゆる備えが必要

 ――国土交通省が「立地適正化計画」の策定を主導していますが、近年の風水害では、斜面地や河川近辺などの無理に開発が進められた住宅地での被災が相次いでいます。

九州大学男女共同参画推進室・准教授
杉本 めぐみ 氏

 杉本 京都地裁は今年6月、京都府福知山市の住宅地で発生した浸水被害について、造成した市側に被災住民への損害賠償を命じる判決を言い渡しました。これは宅地販売時の水害リスクにおける行政側の説明責任を認めた全国初の事例で、つまり今後は、無理な宅地開発を認めてきた行政側の責任が、裁判で問われて負ける時代が到来したことを意味します。なので、戦々恐々としている自治体も全国に多いと思います。

 北九州市では、災害の危険性がある斜面住宅地を新たな住宅開発抑制のために市街化調整区域へと再編入する“逆線引き”の取り組みが進められていると聞きますが、立地適正化計画の策定も含めて、自治体にとってはそうした住民の安全・安心のための防災まちづくりの推進が“マスト”な時代になってきていると思います。一方で今年7月、球磨川の氾濫で特別養護老人ホーム「千寿園」の14名が犠牲になりました。全国で水災害のたびにハザードエリア内に建設された特別養護老人ホームで高齢者が犠牲になることが続いており、建設規制が必要です。

 ――あらかじめ災害を想定したまちづくりを考えて進めておく「事前復興」という考え方があるとお聞きしましたが、これを進めていくうえでの留意事項は何でしょうか。

 杉本 復興段階において次の災害発生に備えた防災まちづくりを行う「ビルド・バック・ベター(Build Back Better/より良い復興)」という考え方もあります。ですが、どこの自治体も限られた予算のなかでは、被災した箇所を対症療法的に応急復旧するだけで手一杯な状況で、次の大きな災害が来たらまたやられる――という繰り返しがほとんどです。

 いざ被災した後に、一朝一夕でビルド・バック・ベターの復興計画を策定することはできません。平時より住民とコンセンサスを取りつつ、火災や浸水のバッファーゾーンをどこに設けるかなどの防災対策を入れ、まちづくりの専門家も含めて「どういうまちにしていきたいか」という青写真を描いておくことが、事前復興においては何よりも重要ではないでしょうか。

 ――防災まちづくりにおいては、ハード面だけでなく、ソフト面での備えも重要です。

 杉本 近年の災害は、1つの手段や方策だけで対処できるような規模ではなくなってきています。さまざまな手段を用意したうえで、状況に応じて最善のものを選択しなければ対処できません。たとえばハザードマップも、土砂災害の危険性を示すもの、洪水や浸水被害の想定エリアを示すもの、地震発生時の揺れやすさを示すものなど、1種類だけではとても間に合いません。

 こうした情報を、あらかじめ住民目線でわかりやすく周知しておくことが行政側には求められますが、そのうえで災害発生時の情報発信体制の構築も重要です。迅速にメディアに情報伝達を行う「Lアラート」(災害情報共有システム)の運用や、SNSの活用、もちろん高齢者などにとっては、昔ながらの防災無線やラジオ放送も大いに有効です。そうしてアナログから最先端まで、とにかく打てる手を1つでも増やしておくことが、まず大事だと思います。

 一方で、災害に備えた防災教育や人材育成の重要性も、今一度認識しておかなければなりません。防災教育については、いまだに数十年前の昔からのやり方を引きずっている自治体や公教育が多く、自然災害が激甚化・頻発化している現状に合っていないケースもあります。人材についても、防災教育で教える側の人間が育っていなかったり、災害ボランティアで動ける人も必要だったりと、外国人への対応ができる人、ハンディキャップを抱えた方へのケアができる人など、ありとあらゆる人材育成が大事です。

(つづく)

 【坂田 憲治】


<PROFILE>
杉本 めぐみ
(すぎもと・めぐみ)
京都府出身。京都大大学院修了。東京大学地震研究所の特任研究員などを経て、2014年から九州大学助教、20年から同大准教授(男女共同参画推進室)。専門は防災教育、災害リスクマネジメント。編著に「九州の防災 熊本地震からあなたの身の守り方を学ぶ」。

(後)

月刊誌 I・Bまちづくりに記事を書きませんか?

福岡のまちに関すること、再開発に関すること、建設・不動産業界に関することなどをテーマにオリジナル記事を執筆いただける方を募集しております。

記事の内容は、インタビュー、エリア紹介、業界の課題、統計情報の分析などです。詳しくは掲載実績をご参照ください。

企画から取材、写真撮影、執筆までできる方を募集しております。また、こちらから内容をオーダーすることもございます。報酬は1記事1万円程度から。現在、業界に身を置いている方や趣味で再開発に興味がある方なども大歓迎です。

ご応募いただける場合は、こちらまで。その際、あらかじめ執筆した記事を添付いただけるとスムーズです。不明点ございましたらお気軽にお問い合わせください。(返信にお時間いただく可能性がございます)

関連記事